きっかけ ※改訂済み
たまには連日投稿してみます。
六歳になった。
もう妖怪を召喚するウォッチになんて騙されない年齢である。だがハンバーグとプリンに罪はない。今でも大好きです。
俺は今とある剣術道場に通っている。というのも毎日忍者ソードを振り回している俺を見て、そんなに剣術が好きなら、ということで親父が知り合いのツテで今の道場を紹介された。今からちょうど半年くらい前のことだ。
親父は特に剣の知識があるわけではなく、剣道と剣術の道場については違いが分からなかったらしい。
俺も前の世界では冒険者だった父親に手解きされ、村を出てからは魔物と戦いながら、時には盗賊などの人間相手に実践で身に付けた我流だったので、剣道や剣術などの違いなんてわからなかったわけだが。
とはいっても平和なこの世界、とりわけ争いとは縁遠い、ここ日本において、人に向けて剣を振るう機会なんてない。外で剣を振り回している人なんて、まさに狂人の類であることくらい分かっている。
剣を振るうにも場が必要。それもあって、道場に通えることはとてもありがたかった。
とは言え、小学生になりたての子供には、それ相応の指導が行われる。小学生は小学生同士で、型の稽古、素振り、後半少しの時間に同じくらいの腕前の子同士での立ち会いが常である。
--そういう風に思っていたことが俺にもありました。
「ようボウズ、お前は若いから筋肉痛なんてほとんどないよな? 師範からお前には容赦するなって言われてるからそれなりに本気でいくぞ? 恨むなら師範を恨むこった」
悪役丸出しの台詞で俺と相対している、見るからに怖い坊主頭のオッサンは五十嵐さん。通称イガさんだ。
見た目とは裏腹に面倒見がよく、俺みたいな子供相手でも、年下だからと見下すことなく相手をしてくれる。それはもうとてもありがたい御方である。
おかげでたんこぶやアザが増え、毎回母さんに心配されるので困る。
ちなみにイガさんは今年で二十一歳だそうだ。見た目とあだ名のせいで三十を過ぎた怖い人にしか見えないのが残念である。
ちなみに彼女募集中だそうです(年下好き)
何故彼の情報をこんなに知っているのかというと、親父の知り合い、というのが、あろうことかこのイガさんなのである。
「恨まれたくないなら出来れば手加減して欲しいなーなんて……無理ですよね。わかります」
「諦めが早いのはいいこった。ほら構えろ、時間もあんまりないんだからな」
お互いに正面に向き合って構える。偶然の一致か、俺もイガさんも正眼の構えではなく下段の構えだ。
俺の場合は竹刀が重いという理由もないではないが、せっかくの身長差を活かすなら、低い位置からの攻撃が有利と判断してのことである。
イガさんの場合は単純に俺に打ち込ませるための挑発も兼ねてだと思われる。
「行きます!!」
「来い!!」
……と言いつつ行かない。
イガさんが若干不思議そうな目で俺を見るが、俺もイガさんの目を見たまま動かない。睨みあった状態のまま時間だけが過ぎていく。
三秒、五秒……十秒ほどが経過したくらいだっただろうか。
「オイど「フッ」うし!?」
恐らく「どうした!!」と言いたかったんだろうが、それが俺の狙いだ。
イガさんの口が動いた瞬間、俺は止めていた息を一気に吐き出し、イガさんに迫る。
長期戦が不利なことはわかっている。
初撃で決めるつもりで、下段の構えから大きく胴薙ぎ狙い、完全に虚をついたつもりだったが、イガさんの反応も早い。俺は続けて、左足を大きく踏み込み、右から左へ体を捻転、勢いをそのままに、駆け抜けるつもりで前に振り抜く。
が、身長差もあってイガさんの腰辺りに放たれたそれは、バシッ! という音とともに、相手の竹刀に阻まれてしまう。
ちょうどイガさんの竹刀があった高さ辺りだったことも災いしたようだが、竹刀を立てるのではなく、竹刀を下向きに受けたのはひとえにイガさんの反応速度と技量の成せる技だろう。
「あっぶねえ! 今のは完全にしてやられたぜ。だけどまだまだ筋力が足りないな。同じくらいの体格だったら体を崩されているところだったろうが……」
と、今の一撃を防いだ安心感からか、先程の一撃の感想を述べるイガさん。確かに初撃で決めようとは思ったが……
--誰もこの一撃で終わりなんて言っちゃいない。
かなりの大股で左足を踏み込んだせいか、若干体勢は不安定だったが、俺はそのまま右足を右斜め前に踏み出し、イガさんの懐に入り込む。同時に左手の握りを緩め竹刀を滑らせる。
「おお?」
俺が密着状態から、もう一度打ち込もうとしていると察したのか、イガさんが俺の動きに合わせて後退しようとする。
--が、俺の狙いはそれじゃない。
俺はそのままイガさんに密着するようにして、竹刀の刀身部分を自分の脇腹に触れるくらいまで近づけ、右手を強く引き、左手を前に突き出した。
「おふっ!」
イガさんの脇腹に俺の竹刀の柄が食い込む。恐らくこんな攻撃は想定していなかったんだろう。
腹筋に力が入っていなかったようで、思ったよりもダメージがあったらしい。
「しょ……勝負あり!」
審判役の人もまさか俺が柄を使って攻撃するとは思ってなかったのか、少し驚いているようだ。
それにただでさえ小学生と大人の立ち会いというだけでもそれなりに注目もあったはずだ。回りの視線が痛い。
「まさか柄で打ち込んでくるとはな……油断した。というよりは考えてもいなかったから言い訳も出来ん。お前本当に小学生か?」
「えっと、すいません……反則ですか?」
「いや、うちの道場は実戦第一だから反則はねえ。立ち会いでは形式上、始める時にはお互い構えたりもするが、基本的に何でもアリだ。別に竹刀じゃなくても蹴りを使ったとしても誰も文句は言わない。だからこそボウズ、この立ち会いはお前の勝ちだ」
イガさんは自身の負けを潔く認める。その言葉に思わず嬉しくなった。
正直勝てるとは思ってなかったし、体格差や、純粋な剣術の技量で勝負しても、イガさんには到底及ばないことも理解している。
だからこそこんな奇襲に近い方法を選択したが、正直相手が負けを認めるかどうかは疑っていた。思っていた以上にイガさんは男前だったようだ。
「しっかしまぁ俺が小学生に負けるとはねえ、最近負けることもなかったからな。調子に乗ったバチでも当たったのかもしれないな」
「そうだな、五十嵐は基本からやり直しだな」
「げっ……師範帰ってきてたんすか……」
いつからいたのか、師範がイガさんに声をかける。俺も全然気づいていなかった。というか足音も聞こえなかったし、気配も感じなかったぞ。
「しかし今のは体格、力の差を理解したいい戦法だった。五十嵐もいい勉強になったんじゃないか?」
「そうすね、確かに極端に身長差のある相手なんてあまり機会もないですし、あんな攻撃してくるヤツも滅多にいないすからね」
「うむ、五十嵐は単純な力や技術を競うだけならそうそう負けることはないだろう。だが相手に勝つ、ということは、ただ力や技術が相手より上ならいいというものでもない。特に実戦という舞台では、相手が何をしてくるかわからないからな。いずれ剣を振るうだけでは勝てない相手も出てくるだろう。そういう意味ではお前にうってつけの相手だとは思わないか?」
なんだろう、今聞き捨てならないセリフが聞こえた気がする。
「そっすねー、正直言って、ただ立ち会うだけなら、うちの道場でそれほど苦戦する相手もいません。それにボウズも同年代の相手とじゃあ持て余すでしょうし、俺としては将来のライバルを育てて、更に上を目指せるんじゃないかって思えてきましたよ」
更に聞き捨てならないセリフが聞こえてきた気がする。
「よし、お前のことだから子供の相手なんて嫌だ。というと思ったが、なかなかどうして、いい刺激になったようじゃないか。なら話は早い。如月の指導役は五十嵐、お前に任せる。お前もそろそろ人に教えることで自分を省みることもいい経験になるだろう。好きに教え、好きに育てるといい」
「はい! ボウズはオレが育てます!! ボウズ! 明日からはオレと一緒に稽古だからな!!」
なん……だと……?
「えっと……その……僕は別に普通の稽古でも……」
「オレの弟子になるんだから僕なんて言ってんじゃねえ! 明日から自分のことをオレって呼べるようにしておけ!!」
えー、それって無茶振り過ぎじゃないですかやだー。
「返事はどうした!!」
「は……はい!」
まぁ元々自分のことは俺って呼んでたし、ちょうどいいきっかけか。
--こうして俺の剣術人生が幕を開けた。
いやいやいや!? 剣術人生なんてスタートしないよ!? 俺魔法師だからね!? 剣術も必要だと思ってるけど本職は魔法師だからね!?
ああもう、帰ってプリン食べたい……
きっかけってそっちのきっかけかよ!!と思った貴方。
かかったな!!