対峙
さて、前半のクライマックスに差し掛かります。
「ヒースさん! 無事だったのか!」
冒険者ギルドに付いてすぐ、魔物と相対する冒険者の中にヒースさんを見つけた。流石というか、多くの冒険者の中でも実力は指折りらしい。ヒースさんの周囲には多くの魔物の死骸が転がっていた。
「キサラギ君、来てくれたのか!!」
俺の姿を認めるや否や、近くにいた魔物の首を槍で貫き、俺に駆け寄ってくる。どうやら疲労が溜まっているようで、身体が重そうだ。
「団長から伝令が届いてね。ミリィの願いもあって救援に来ました。アランとイガさんもこっちに向かっています。ミリィがカナリアの冒険者ギルドを通じて王都救援の依頼も出してますから、少し時間はかかるでしょうが助けは来ます。」
「そうか……助かる。正直キリがなくてね。特に経験の浅い冒険者を前線に出すわけにもいかず、思ったよりもこちらの戦力は手薄だったんだ。」
だからヒースさんも直接戦闘に加わっていたのか。
「とりあえず俺がこの周辺の魔物をぶっ飛ばします。あっちに人はいませんか?」
「ああ、私が先頭に立っていたからな、魔物の群れの方には誰もいないはずだ。それにいたとしても流石にもう……」
そうだよな。群れの中にいて無事とは考え難いか。
「わかりました。じゃあ遠慮なくやります。」
「建物などの被害は気にしなくていい。どうせ命あっての物種だ。君に任せるよ。」
「怒らないでくださいね?」
というわけでヒースさんのお墨付きを貰ったのでキサラギ印の浪漫武器第二号を放つことにする。
「流麗なる水よ。汝は槍、凍てつかせ、貫け、砕き尽くせ。」
ドリルと被ってると言われたくないので、オリジナリティを持たせることにしよう。
「苛烈なる炎よ。汝が掲げるは鋼の槍。鬨の声。」
炎を球体に凝縮、もっと、もっと集束させろ。
「爆裂、射出。抉り尽くせ! フリージング・パイル!!」
当然ドリルと言えば次はパイルバンカーだ。凝縮した炎の魔力の塊を槍の尾の部分に触れさせ爆発させる。ブースターを使いまくったおかげもあって、推進魔法に関してはもはや不自由はない。
爆発に押された氷の槍が魔物の群れに一直線に飛んでいく。
--パリーンッ!!
触れる直前に魔物が凍る。凍った魔物を槍が貫く。貫いてそれでも足りず砕けていく。そんな凄惨な現象が広がっていた。そして思ったことが一つ。
「やばっ……これ溶けたあとのこと考えてなかった……」
今は凍ってるからまだ良いが、これが溶けたら肉片やら臓物やらがそこら中に散乱して大惨事になること請け合いである。
「どうしよう、フレイムツイスターは流石に使う訳にはいかないし……」
少し悩ん結果、ファイアボルト(極小)でそこら中に散らばった肉片を燃やしていく。肉が焼ける匂いが漂ってくるが仕方ない。これは自業自得だな。
「ふう、こんなもんでいいか。今度からはもうちょっと考えないとなぁ。」
とりあえず終わったみたいだしギルドに戻るとしよう。つか今回は魔族の姿すら見えなかったな。まぁいいか。
「ヒースさん、終わりましたよ。」
「……」
「あれ? おーい、ヒースさん?」
この反応はどこかで見たことがあるような気がする。
「キサラギ君、今のは……?」
「男の浪漫、パイルバンカーです。」
あとは高周波ブレードなどだが、ちょっと無理がありそうだ。また色々考えなければ。
「これが魔導師と呼ばれる男の魔法か……正直この光景を受け入れるのは厳しいよ。」
と、苦笑されてしまう。
「まぁ……とりあえずこの辺の魔物は一掃したんで良しとしてください。」
「確かにそうだ。いやすまない。私は助けられたというのにな。」
「いえ、気にしてないです。それにうちのパーティにはもっと大袈裟な反応をする子がいますから。」
そうか、アイラも同じようなリアクション取ってたな。
「ありがとうキサラギ君。おかげでこの辺は大丈夫そうだ。私達はこれから助けを必要としている場所を探し、一人でも多くの人を助けるつもりだ。キサラギ君は行くんだろう? 決して無理はしないでくれ。」
「はい、俺も死ぬつもりはないんで。」
言葉少なめに、次の戦場を探して移動を開始する。ゆっくり話すのは戦いが終わってからでも出来る。今はとにかく少しでも多く魔物を討伐しなくては。
「あらら、なかなか王都を落とした報告がないから見に来てみれば、なかなか面白いねえキミ。」
と、頭上から声が聞こえた。忘れもしない。この声は--
「しかし今度の魔王クンは外れかなぁ? 自分は高みの見物を決め込んで、数だけ用意して相手の戦力も確かめずにただ襲うだけなんてね。美学も何もありゃしない。キミも分かるかな?」
「まさかこんなに早く出会うなんてな。ついてるのかついてないのか。」
「んん? ボクのことを知ってるのかい? 悪いけどボクはキミのことなんて知らないよ?」
「あぁそりゃそうだろうな。なんせ俺は一回お前に殺されてるからな。」
スラスターで同じ高さまで浮上し、上昇を停止する。そして俺は声の主と二度目の対峙を果たした。
「それこそボクが殺した人の数なんて覚えてられないよー。だって殺される程度の存在だってことでしょ?」
「そうか、ならこれでも食らうといい。」
「ボクに魔法かい? 止めといた方がいいと思うけどなぁ。」
黙れ。お前の声は、喋り方は、いちいち勘にさわる。
「地水火風。狂い舞え。スクエア・ロンド!!」
二十年前、こちらでは三年前か。あの時よりも速く、強く。デザート・イーグルの引き金を引く。
ーーズガアアアアアッ
四属性の球体が混ざり合いながら敵に襲いかかり、あの時と同じように掌で受け止められる。そして徐々に押し込み、大爆発を起こした。
--分かってる。倒せやしないんだろう? そんなことは百も承知だ。
「……ああ、この魔法は。キミか。覚えているよ。覚えているとも……コウ=キサラギクン。」
煙が晴れ、敵の姿が見えてくる。左手がダランとしているところを見ると、以前よりはダメージが大きかったようだ。
「それにしても随分と変わったものだね。その姿も、そしてこの魔法の威力も。」
「お前のおかげでな。文字通り生まれ変わって帰ってきてやったんだ。感謝しろ。」
「態度は相変わらずだね。しかし生まれ変わった、か。信じがたいけど本当のようだね。面白い! キミは本当に面白いよ!! 名前を覚えていた甲斐が! キミを殺した甲斐があったというものだ!! ハハハハハハハハ!!」
相変わらずの狂人、いや狂神か。
「今すぐお前のその鬱陶しいお喋りを止めてやる! 覚悟しやがれ!! フラッグウウウウゥ!!」
そして俺は吼える。俺を殺した張本人である。堕ちた神に向かって。
ここから徐々に色々な人の過去も出てきます。本編では多くは語られませんが、不定期更新の雲と雲にて補完予定です。(まだ全然書けてませんが。)




