悪い知らせ
急展開であります。
ジャックス達と別れた日、俺はアラン達と合流し、今日あったことを話した。
キングボアのこと、ジャックスのこと、それからロッテが使っていた、あの他者にライトニングを付与するような魔法なこと。そして偽勇者、というのはあくまで周囲が言っているだけで、どちらかというと本人達は否定している。また少しの間だったが、接触した印象としては決して悪人ではないということ。
それらを引っくるめて、ミリィはどこまで情報を開示するかは会ってから決めるらしい。まぁ自身の立場が王女だということもあるし、アランが元聖剣の勇者だということもあるんだろう。顔が知られているかどうかは別として、慎重に判断する必要があるそうだ。
とりあえずボアの群れに対して大立ち回りをした件については不問となった。どうやらキングボアも含めて放っておけば街に雪崩れ込む可能性もあったらしく、今回はそこまで人目に触れていないからオッケーとのこと。うーん、一応基準的な物もあったんだな。てっきり何やっても怒られると思ってた。少し反省しよう。
そんなこんなでその日はヴィエラが決めたという宿に泊まることになった。なんでも色々話を聞いて回った結果、ここが一番食事が美味しいんだとか。すっかり食いしん坊キャラへと進化しつつあるようで何よりだ。
そしてその後は何事もなく、翌日の朝を迎えた頃のことだった。早速全員で冒険者ギルドに向かい、情報を整理しつつジャックス達を待つことに俺達だったが、ギルドの中は不穏な空気に包まれていた。
「あぁっ!! ミリシア様!!」
ふと声のする方を見てみれば王都の兵士がいた。何故こんなところに? それに随分慌ててる上に鎧にも汚れが目立つ、何かあったんだろうか。
「落ち着きなさい。何があったのですか?」
それを見てもミリィは特に焦るでもなく、冷静に声をかける。その態度を見てか、兵士も自分の状態に気が付き、あらためて姿勢を直す。
「はっ! 失礼致しました!! 団長より伝令を仰せつかったケビンと申します!!」
「ケビン、ご苦労様。続けて?」
「はっ!! 王都はどこからともなく現れた魔族の軍勢の手により壊滅状態!! 至急勇者一行の助力を願いたいとのことです!!」
は? 昨日の今日で壊滅状態とかいくらなんでも急展開すぎやしないか?
「魔族? 魔物ではなく?」
「はい、私もあのような魔族の大群を見るのは初めてでした。魔物を数百従えた魔族が何人も、それこそ数を把握しきれない程です!!」
「そんな……魔族は私も以前戦ったことはありますが、それこそ聖剣を携えたアランでも苦戦した相手だったはず。それが何人も……」
「ミリシア様! 一刻も早く王都へ!!」
「ミリィ、迷ってる場合じゃないだろう。王都にはそれこそ多くの住民達がいる。まだ命が助かっている人達だっているはずだ。俺達がすぐに動かなくてどうする。」
「アラン……ええ、そうね。こんな時こそ私達が、私がしっかりしないと。」
そしてミリィが俺達の顔を見渡す。
「では皆、よく聞いてください。情報はこのケビンが出発する前、恐らく全力で駆けてきてくれたはずだから半日から一日前の状況だと思われます。もちろん我が王都の騎士団も必死で戦っているはず。で、あれば全ての住民が死に絶えているとは到底思いません。だからこそ私達は少しでも早く王都にたどり着く必要があります。」
ミリィが毅然とした態度で状況を話す。恐らくわざわざ改まっているのはこのギルドにいる冒険者、ないし職員に状況を説明するためでもあるんだろう。
「当然王都が陥落するようなことがあれば、隣接するこのカナリアの街にも影響があるかもしれません。だからこそ私は、王位第一継承者、ミリシア=セラ=オルデンスの名に置いて、ギルドに依頼します。どうか王都を救ってください。」
その場にいた人々の誰もが固唾を飲んでミリィを見る。そうだよな。こんなところに王女がいるなんて思わないし、王都が陥落の危機なんて聞かされてもすぐに反応は出来ないだろう。
「そして聖剣の勇者アラン=バート、そして魔導師コウ=キサラギ。そして異邦の剣士、イガラシ。貴方達は一刻も早く王都に向かい、少しでも多くの敵戦力を削いでください。危険は百も承知、ですがかのベヒモスを打倒した貴方達三人の協力無しには王都を救うことは出来ないでしょう。私達もすぐに駆けつけます。どうか王都を救ってください。」
ミリィが俺達を見て申し訳なさそうな目で見る。そんな顔をするなよ。だって。
「当然だ。俺達は仲間だろう。王都にはミリィの家族だっているんだ。頼まれなくたって向かうさ。」
「そうだなアラン、理由は王都だからじゃない。ミリィの故郷を、家族を守るために戦おう。」
「ああ、難しい理由なんて知ったこっちゃねえ。要はミリィの嬢ちゃんが助けて欲しいってんだろ? 水くせえこと言わずにオレ達に任せやがれ。」
俺達は三者三様に言葉を返す。言葉は違えど意味する事は同じ。仲間が助けを求めている。なら全力で助けるだけだ。
「ありがとう……相手の戦力が未だ不明です。救援がたどり着くまで、無理はしないで。」
「「「任せろ!!」」」
アランとイガさんの体力ならものの数時間で王都にたどり着くことが出来るだろう。となると俺が真っ先に駆けつけて状況を把握して、団長にこのことを伝えるべきだな。
「なら俺が先陣を切ろう。アランとイガさんは済まないが走ってきてくれ。到着してもバテてちゃ意味がないから気を付けてね。」
「はっ! ボウズも言うようになったな。オレを誰だと思ってやがる。」
「見くびってもらっちゃ困るな。これでもこの三年間、傭兵として戦地を渡り歩いてきたんだ。その辺はよく心得てるさ。」
どうやら心配はいらないようだ。なら俺は今すぐ出発しよう。
「ミリィ、俺は今から出てまず団長と合流する。アランとイガさんもすぐに出発してくれ。ミリィは出来るだけ多くの人を集めてから来て欲しい。どっちにしろお前が危険に会うような事態になっちゃ元も子もないからな。」
「コウさん、私も!」
「私も行くよ!」
アイサとアイラが声をかけてくる。
「アイサ、アイラ。申し出はありがたいが、二人はミリィを守ってくれ。王都が最悪の事態に陥ってた場合、ミリィの存在は絶対に欠かせない。」
なんせ次期女王だからな。オルデンさん。もとい王の状態によっては、旗印になる必要もあるだろう。
「うぅ……確かに……分かった! ミリィは私が守るよ!!」
「アイラ……ええ、貴方がそう言うのなら、姉である私がわがままを言うわけにはいきませんね。コウさん、どうかご無事で。」
「ああ、滅茶苦茶するつもりだけど、無茶はしないさ。」
ちょっとした意趣返しである。まぁこんな時に士気が下がっても困る。なら俺は道化で構わない。
「じゃあちょっとひとっ飛びしてくるよ。」
「コウ、気を付けて。」
ミリィが心配そうに見てくる。大丈夫だ。俺はもう死なない。
「任せろって、そう何度も死にたくもないしな。じゃあ行ってくる。」
そう返して出口へ向かう。そこでジャックス達がやってきた。
「ああ、コウじゃないか。どうしたんだ? やけに建物の中が騒がしいようだけど。」
「すまない、ちょっと時間がないから、中で話を聞いてもらっていいか? 出来ればお前達にも手伝って欲しいことがあるんだ。」
「どうやらただことじゃなさそうだね。分かった。私達で力になれるのなら。」
「恩に着る。じゃあ俺は先に行くよ。」
チラリとロッテの方を見る。特に昨日感じた脇腹への違和感は感じなかった。腹でも減ってたんだろうか?
「あの人達は……」
と、呟きが聞こえた。うん? ミリィが王女だって知ってたのかな? まぁいい、今は時間がないから帰ってきたら聞いてみるとしよう。
腰からベレッタとデザート・イーグルを抜き、スラスターを発動させる。そしてある程度の高さに来たところで、交互にブースターを発動させての高速移動を試みる。
「うおっ! デザート・イーグルの方はどうしても威力が出てしまうな。これは慣れないと使いづらいかも。」
威力が出るのは攻撃魔法には有用だが、今この場面では使わない方が良さそうだ。いったんベレッタのみでブースターとスラスターを切り替えつつ、王都を目指す。
--団長、王様。無事でいてくれよ。
どうも嫌な予感が拭えない。若干モヤモヤしたものを抱えつつ。俺はただひたすらに空を飛び続けた。
はい、まだ出会えません。あ、違う出会いならあるかも。
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