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キングボア

お待たせしました。続きです。

「ジャック! そっちから魔物の気配がする!! きっとそいつの仲間だよ! 早く仕留めて!!」


 と、ロロが大声を上げる。どうやらコイツは策敵能力に秀でているらしく。どういう理由か魔物の気配に敏感なようだ。


「ルル! ジャックのフォローに回って! 多分間に合わない!!」

「了解! ジャック! すぐ行くからね!!」


 どうやら数が多いのか、思った以上の慌てようだ。俺も助太刀する準備をしておいた方が良いかもしれないな。


 ルルとロロ、そしてロッテがジャックスの方に駆けて行く。俺も心配だったので、男に声をかけてから駆けつけようと思い、男がいた方向に顔を向けるが、既にそこには誰もいなかった。


「逃げたか。そりゃ助けが来たんだから逃げてもおかしくはないな。」


 特に気にも止めず、手間が省けたと思いジャックス達の元に向かう。すると確かにワイルドボアの群れが近づいてくるのが見えた。二桁ほどはいるだろうか。


「コイツ等ってなにかと群れたがるよなぁ。まぁそれが正しいとは思うけど。」


 こちらにとってはいい迷惑ではあるが。


「くっ! ルル、援護を頼む!! ロロ!! 君はロッテを守って!!」


 ちゃんと仲間の心配もしているし、悪い奴等でもなさそうだ。偽勇者なんて思ったら失礼だったかな。


「炎よ。その苛烈さにて敵を射よ!! ファイアアロー!!」


 ルルがファイアアローを放つ。どうやら中級魔法までは使えるようだ。にしても数が多い。彼等だけでは厳しいか。


 あまり目立たずにいたかったが仕方ない。もう目標とは接触しているし、やり過ぎなければ大丈夫だろう。そう思い、ベレッタに手をかけた時だった。


 --ブオオオオオッ!!


 と、一際大きな鳴き声が聞こえた。


「な、なんだ今の声は!?」

「ジャック! 大きいのが来る!! 逃げて!!」


 ロロが悲鳴のようにジャックスに声をかける。と、その直後、群れの背後から巨大なボアが現れた。ワイルドボアが通常のボアの2倍ほどの大きさなのに対し、コイツは10倍近くもある。


「嘘だろ……こんな大きなボア種、見たことがないぞ!! まさかキングか!!」


 キングとはそれぞれの魔物種の頂点に位置する魔物のランクだ。通常はただの魔物種名が付けられ、強さも最低ランクであり、ワイルド種はその二つ上、キング種は更にその三つ上になる。


「ワイルドボアの大群にキングボア……もうダメだよ。ロッテ、君だけでも逃げて!!」

「ロロ、私も今や貴方達のパーティの一員なんです。それにこんなところで逃げてちゃあの人に笑われてしまう。諦めずにいればきっとなんとかなります。戦いましょう。」


 ロロの悲痛な叫びに対し、毅然と答えるロッテ。うん、やっぱり見捨てるには惜しい。


「話の途中すまん。ちょっといいか?」

「貴方は……まだ逃げてなかったんですか?」

「まあね。それより俺にも手伝わせて欲しいんだが。ちょっとお願い聞いて貰ってもいいかな。」

「お願い……?」

「ああ、ロッテって言ったな。アンタはあのジャックスが怪我をしたらすぐに治してやってくれ。ルルはジャックスと一緒に一匹ずつワイルドボアの殲滅を頼む。ロロはジャックスの言った通り、ロッテを守っててくれ。」

「その指示だと、自分がワイルドボアの大群とキングボアを相手にするって聞こえるよ?」

「うんまぁその通りだ。こう見えて俺も冒険者の端くれだし、なんとかなるさ。」


 そう言ってボア共の群れに飛び込んでいこうとした時だった。


「分かりました。せめて貴方の名前を聞かせてもらえますか?」

「あ、そうか。俺はコウ。ウィザードだ。」

「コウ……さん? いえ、分かりました。それではコウさん、無茶はしないでください。決して私達は貴方を犠牲にして助かりたいわけではないのですから。」

「もち。俺もそう何度も犠牲になりたくはないしね。」

「何度も……?」

「あいや、こっちの話。それよりジャックス達が危ないからもう行くよ。さっきの指示通り頼む!!」


 そう言ってベレッタを抜き、ブースターを発動して一気にボアの大群の中に飛び込んでいく。キングボアを相手にしてたらワイルドボアの大群にジャックス達が飲まれてしまうだろう。頭を叩きたいところだが、まずは雑魚掃除からといきますかね。


「おいボウズ、おせえと思ったら面白いことになってやがんじゃねえか。」


 と、おもむろに声をかけられる。どこから出てきたのか、既にライトニングを発動しているようで、ブースター状態の俺と遜色ない速度でついてくる。予想外ではあるが、この場面では何より頼りになる存在だ。


「見ての通りだよ。それよりしばらくあのでっかいのの相手をお願いしていい? 俺は先に周りの雑魚を片付けてくるから。」

「振り向きもせずに無茶なこと言いやがる! だがおもしれえ!! 乗ったぜ!! それと土産だ。こっちにいる間は貸してやる。絶対に失くすなよ!!」


 そう言って何かを投げて寄越してくる。俺は慌ててその物体を受け取った。


 --これは……試してみる価値はあるか。


 そのまま俺は速度を落とし、ワイルドボアの群れに向かう。光を纏った侍が一陣の風となってキングボアに向かっていく。普通に考えればあの体格差だ。いくらなんでも無茶な話ではあるが。


「オルァアアアアッ!!」


 雄叫びを上げ、イガさんが刀を一閃する。何せあのベヒモスの固い外皮を斬り裂いた一撃だ。いくらキングとは言え、ボア種に耐えれるものではないだろう。


 サイズが大きいため、首を落とすようなことはない。が、イガさんの放った一撃はキングボアの片足を深く切り裂き、そのままに留まらず、目にも止まらぬ速さで次々と切り刻んでいく。


 ワイルドボアが片付いたら加勢しようと思ったが、あの調子なら一人でも大丈夫そうだ。心配も不要そうなので、ワイルドボアに集中することにする。


 ベレッタを左手に持ち替え、右手にイガさんから寄越された銀色の銃--デザート・イーグルを構える。


 まさかイガさんがこっちに持ってきてるとは思わなかったが、嬉しい誤算だ。正直ベレッタで飛びながら剣で戦うのは攻撃が直線的過ぎて相手によっては通じないことも懸念してたからな。


 それに引き金を引くというアクションにさえ集中してしまえば集中力を割く必要もないし、恐らくスラスター、ブースターを発動していても単純な魔法ならデザート・イーグルから発動出来るだろう。


 試しにブースターで移動しつつ、右手のデザート・イーグルを一匹のワイルドボアに向け、引き金を引く。


 イメージは一瞬。発動する魔法はルルが使用したのと同じく、ファイアアローだ。


 だが魔力量の違いか、はたまたデザート・イーグルという銃の特性か。極太の矢がワイルドボアへと向かう。


 そしてそのまま命中し、ワイルドボアを燃やし尽くしていく。


「やべ、まさかファイアアローであんな威力になるとは……」


 この様子ならファイアボルトでもいいかもしれない。俺はブースターで、時にはスラスターに切り替えながら、ワイルドボアを次々と撃っていく。


 そして十数発撃ち終えた頃、ちょうどジャックス達がワイルドボアを仕留める光景が見えた。


 そして周りに動いているワイルドボアがいなくなった頃。


「村雲流剣技、(くびき)落とし。」


 イガさんの声が静かに響き渡り、身体がブレたように見えた瞬間、キングボアの首が胴体からずれ、落ちていく。そしてイガさんはそのまま刀に付いた血を払い、刀を鞘に納めた。


 辺りにチンッという小さな音が響き、戦いの終わりを告げる。いや、確かにカッコいいけど、あんなでっかい奴の首を斬り落とすとかどうなってんの?


「ボウズ、こっちは終わったぜ。」

「こっちもちょうど終わったよ。」


 声を掛け合い、辺りを見回す。どうやら生き残ったボアはいないようだ。それにしても死屍累々、といった惨状である。


「君達は一体……」


 呆けた顔でジャックスが俺達二人を見る。うん、そうだよね。どう考えても異常だよね俺等。


「あー、っとどうしようかな。とりあえず後で話すってことでいい? とりあえず怪我の治療とかが先だろうし。」

「分かった。ロッテ、すまないが私とルルの治療を頼む。」

「……はい、分かりました。すぐに治しますね。」


 どうも逆に警戒されてしまったみたいだな。さてどうするか。


 とりあえずこういう時はミリィにお願いしよう。そのための司令塔なんだから。


 --多分怒られるだろうなぁ。


 その光景を想像してため息を吐いてしまうのだった。

もうね。二刀流とか二丁拳銃とかやりたい放題なわけですよ。

two sword,two gunってね。


さて、前話で出てきた石像の正体はそのうち「雲と雲」で明らかにします。

本編では出すかどうかはまだ考えていません。

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