カナリアの街にて
めっちゃ長くなった……分けます。
一夜明けて昼を過ぎた頃、俺達はカナリアの街に辿り着いた。
「しかしイガラシの料理は旨かったな。向こうではいつもあんなものを食べているのか?」
ちなみに昨日の夜は結局イガさんが料理担当となり、簡単な物ではあったがスープを作ってくれた。鶏を丸々一匹使うということだったので、丸焼きにでもするのかと思いきや、鶏ガラで出汁をとり、地球で言うところの鶏ガラスープのような料理を作ってくれた。
野菜もちょうどいい大きさに切られてたし、鶏肉も肉の部位によって味付けを変えるなど、見た目にそぐわず繊細な気遣いが見てとれる料理だった。
皆がイガさんの評価を改めた瞬間だったと思う。多分。
「材料と設備がありゃもっといいもんが作れるぜ。昨日のはそれほど手もかからない簡単な方の料理だ。」
「なんと……我もあのように深い味わいの料理を食べたのは初めてだ。イガラシ、是非ともまた作ってくれぬか?」
「お、おう。もちろんいつでもいいぜ。」
意外なところでヴィエラの好感度が上がった模様。やったねイガさん。これからは毎日ご飯係をお願いしよう。
「しっかしこんなに近かったか。昔はもうちょっと遠かった気もするんだが。」
記憶と現実の齟齬を感じ、月日が流れたことを思い知らされる。アランが聖剣の勇者と認定される前の頃だから、地球での生活も考えるともはや30年近いかもしれない。
「そうね。今は街道がある程度整備されていることもあって、昔よりは往来に時間がかからなくなったかもしれないわね。」
と、ミリィが言う。そうか、前とは道の状態も違うのか。そこまで記憶にないからなぁ。
ともあれ到着である。まずは宿を取ることと、情報を集めることか。どう分担しようか。
「私は早速冒険者ギルドに行って話を聞いてきますね。王都のギルド職員であることを告げれば、多少は話も聞けるでしょうから。」
「あ、じゃあ私もお姉ちゃんと一緒に行くー。」
アイサとアイラが名乗りを上げる。確かに適任だと思うし、任せるとしよう。
「じゃあアイサ、アイラ、よろしく頼むよ。」
「お任せください。」
「じゃあまたあとでねー。」
と言って早速行ってしまった。あの姉妹は本当仲良いな。
「じゃあ俺は宿を探してこよう。」
「我も特にやることがないしな。そちらに同行しよう。」
「ん? ヴィエラもか? 意外だな。」
「そうか? 勇者が行くと言うならミリィも同行するのだろう? なら我はミリィと話でもして時間を潰したいのでな。」
「ちょ、ちょっとヴィエラ! 何を……」
「あー分かった分かった。それなら納得だから一緒に行ってきてくれ。」
「コウまで……もう! じゃあいいわよ! 私も一緒に行くわよ!!」
やけくそのように振る舞ってるがどうせ自分でも決定事項だったんだろうが。あーやだやだ。
「イガさんはどうする?」
「オレも同行するぜ!!」
「ですよねー。」
まぁ想定の範囲内である。そうなると俺だけなんかお邪魔虫みたいになっちゃうな。
「じゃあ俺はちょっとその辺ブラブラしてくるよ。久しぶりだし。」
「分かった。後で俺達もギルドに行くつもりだから、そこで集合しよう。」
「あいよ了解。そしたらまた後で。」
集合場所だけ決めていったん別行動となる。つか結局俺だけぼっちかよ!!
今さら文句を言っても仕方ないので、言葉通りその辺をぶらつく。特に昔と変わったところはないようだ。まぁそりゃそうか。
街の中央辺りに来ると一体の石像が目につく。なんでも昔カナリアの街を救った剣士の像なんだったか。もう結構ボロくなってるから原型が怪しくなってきてるな。
「ん? でもこの顔、どっかで見たことあるような……」
気のせいだろうか? そんな昔の人がいるわけもないし、もしかしたら地球で似たような人がいたのかもしれない。
「というかあんまり気にしてなかったけど、そう考えるとちょっと誰なのか気になるな。えーっと名前は……」
石像の下に名前を刻んだと思われる箇所があるが、やっぱり風化してしまっていてよく読めない。うーん、……ラ……モ? これじゃ分からん。
「これじゃ読めないな。まぁ流石に古い物みたいだし、そのうち知ってそうな人がいたら聞いてみるかな。」
とりあえずいったん忘れよう。他に何かあったっけなぁ。
特に目標もなくうろついていると、街の外れに出てしまった。仕方ない、戻ろうかな。
と、思ったその時だった。
「うわあ!! たっ、助けてくれー!!」
と、男の悲鳴が聞こえた。魔物でも出たんだろうか。とにかく急いで助けに行かないと。
ベレッタを抜き、ブースターを連続で発動しながら声のした方に向かう。恐らくそう遠くない距離だとは思うんだが……
「いた! おーい、大丈夫ですかー?」
助けが来たとわかるように大きめに声をかける。男もこちらに気付いたようで、大きく手を振っているのが見える。
「どうしました?」
「あ、あそこにワイルドボアが!!」
またワイルドかよ。王都の時もそうだったけどこの辺多すぎだろ。
「分かりました。それじゃあ俺が……」
「どうした!? 大丈夫か!?」
俺と同じく男の声を聞いたのか、剣士風の男を先頭に、4人組が駆け寄ってくる。一人だけ白いローブにフードをすっぽり被っている人が目に付いた。言ってしまえばヴィエラの白バージョンといったところか。
「あ、あんた達は!!」
「なんだ、知り合いなのか?」
「あんた知らないのか? 彼等はこの辺じゃ有名な冒険者。いや、勇者達だぞ?」
「勇者だなんて、私達は当然のことをしているまでですよ。」
おっといきなりビンゴか。どうやらコイツ等が噂の偽勇者らしい。とは言っても今のやり取りを見る限りでは、本人が名乗っているわけじゃないのか?
「あ……おじさん怪我してるんですね。ちょっといいですか?」
「あ、あぁ。何を?」
男が言うが早いか、白ヴィエラが傷口に手をかざす。すると手の平から淡い光が発現し、男の傷はみるみる内に塞がり、傷自体がなくなっていく。つかやっぱり女性なのな。
「おお、これは……アンタが噂の白魔導師様か。傷を一瞬で治してしまうなんて……」
「いえ、私はそんな……」
確かに凄いな。回復魔法は今まで何度も見てきたが、傷を塞ぐ魔法は数あれど、まるで元から傷などなかったかのように治してしまうような魔法は初めてだ。
「確かに凄いな。これなら例え腕が吹っ飛んでも治せるんじゃないか?」
「貴方は……? それに私なんてまだまだですよ。本当に助けたい時に助けられないことだってあるんですから。」
「あ、いやすまない。別に悪気があって言ったわけじゃないんだ。気分を害したら謝る。」
過去になにかあったのかもしれない。余計なことを言っちゃったかな。
「ロッテ、話し中に悪いが、この人を襲った魔物が先だ。ロロ、どうだ?」
「んーと、あっちにいるっぽいね。深追いしてこないところを見ると、街が近くにあることを分かってて警戒してるか、仲間を待ってるのかも。」
「そうか。ルル、魔力の準備はいいか?」
「もち、準備万端だよー。」
ルルとロロと呼ばれた女性二人……というよりは女の子と言った方がいいだろうか。が、偽勇者の呼び掛けに応じる。
「ロッテ、すまないがいつものヤツを頼む。」
「分かりました。」
ロッテと呼ばれた白ローブの女性が偽勇者に向けて手をかざす。なんだ? どこか怪我でもしてるのか?
そう思ったとき、先程とは違って強い光が偽勇者の身体を包み始める。これは……ライトニングの光か!?
「よし、それじゃ私がワイルドボアに攻撃する。もし一匹なら私だけでもなんとかなるだろう。だが二匹、三匹と増えるようならルル、ロロ、援護を頼む。」
「「あいあいさー。」」
「ジャックス、気を付けてください。」
「あぁ、言ってくるよ。ロッテ。そこの君も離れていてくれたまえ。」
ほうほう、偽勇者はジャックスという名前なのか。つかくれたまえとかリアルで言う奴いたのな。
「気を付けてな。危なそうだったら俺も手伝うし。」
「一般市民に助力願うほど弱くはないつもりだ。が、気持ちだけはありがたく受け取っておこう。」
一般市民て。確かにそんなにゴツくもないし重装備でもないけどさ。
そう思っていると、早速ジャックスとワイルドボアの戦闘が始まった。ワイルドボアの突進をかわし、動きが止まったところに斬りかかり、また突進をかわし、斬りかかり。とボア種と戦う時のセオリー通りの戦闘風景だ。
確かに腕は悪くないようで、少しずつダメージを蓄積させていく。が、ロッテと呼ばれた女性がジャックスにかけた魔法がライトニングを同種の魔法であるとすれば、身体能力が向上しているにも関わらず、あの実力とも言えるのかもしれない。
「やっぱりアランとイガさんが異常なんだろうなぁ……」
と、誰ともなく呟く。
--と、誰かの視線を感じた。
なんとなく気配のした方を振り向くが、ロッテがこちらを見ている以外に特におかしいところはない。まぁ俺の後ろにいるんだから恐らく俺の向こうにいるジャックスの戦い振りを見ているんだろう。
見る限り、安定して戦っているし、特に心配はいらなかったのかもしれない。
そう思っていたときだった。
後編はちょっと書ききれてないので明日に。




