道中
最近平和な回が多いなぁ。書いてる自分が言うのもなんだけど。
「オラァッ!!」
気合いと共にイガさんが刀を一閃し、ウルフの群れを切り裂いて行く。やっぱりあの攻撃力は反則だと思う。
「うーん、出番がないな。」
王都を出て数時間進んだところでウルフの群れに出会った。幸いにも他には人がいなかったので、今の内に掃除しておこうということになり、早速イガさんが突っ込んで行ったのだが、流石に相手にならないらしく、ウルフの群れはみるみる内にその数を減らしていく。
一応俺も構えていたのだが、一匹、また一匹と一撃で葬り去っていくその姿を見て誰もが呆れ、ただ傍観に徹していた。
「流石にイガラシは凄いな。ウルフはそれほど手強い相手ではないが、それにしても動きが速いから数が増えれば増えただけ面倒になる相手なのに的確に動きを捉えて一撃で絶命させている。しかも自分が攻撃を食らうこともないし、後ろにも目が付いてるんじゃないかと疑いたくなるな。」
と、アランが称賛する。確かにイガさんには傷がついていない。十匹以上も相手にしているのにどんだけだよ。
「それにしてもアレは正に暴風ね。私があの中に入っても邪魔になるだけだろうし、それこそ動きが合わせられるとしたらアランくらいのものかしら。」
実際にベヒモスの時には息が合っていたようだし、その見立てで間違いないだろう。俺もあんなとこ突っ込みたくないし。
などと話している間に戦闘を終えてイガさんが戻ってくる。つかもう終わったのかよ!?
「ふう、数だけは多かったな。とりあえずこれで全部だ。ボウズ、死体をそのままにしておくのも忍びねえ、頼めるか?」
「はいはい、じゃあちょっと離れててね。」
というわけで久しぶりのフレイムツイスター(ミニ)の出番だ。腰からベレッタを抜いて魔力を集中させる。
「フレイムツイスター!」
小規模の魔法であればいちいち詠唱はいらない。流石に魔法名は唱える必要があるが、その程度だ。
前回よりも小さな炎の竜巻がウルフの死体を巻き込み、切り刻み、焼き尽くしていく。
やがてウルフだったものは跡形もなく消え去っていった。
「うーん、やっぱりその魔法滅茶苦茶だよー。詠唱もなく使えるとかいくらなんでも非常識だよー。」
「私もこの目で見るのは初めてですが、その、滅茶苦茶ですね。」
はいはいー、誉め言葉ありがっとー。
「俺はもう慣れてきたけどな。コウだと思えばまぁ色々納得だ。」
「私もよ。今更驚くほどでもないわ。」
ただしこの夫婦(仮)は既に馴染んだらしい。いや、昔の俺はこんなに魔法使えてなかったからな?
「いや、魔法がどうとかじゃなくて、無茶苦茶に滅茶苦茶やってたのは今も昔も一緒だろう? 俺達が慣れたとって言ってるのはコウの行動のことだ。」
「そうね。魔王を目の前にして話し合いに応じるとか正気の沙汰じゃないものね。」
「そんな評価いらん。つか戦わずに済むんだったらそっちの方がいいじゃないか。」
平和が一番、殴っても殴られても痛いんだから話して済むならそれが一番良いに決まってる。
「それが人間相手なら尤もだと思うわ。けれどあの時私達はヴィエラを憎むべき人類の怨敵として認識していたのよ? とてもじゃないけど常人なら有無を言わさず一蹴すると思うわ。こんなことを言うのはヴィエラには申し訳ないとは思うけれど。」
「気にするなミリィよ。我とて当時自分がどのような立場だったかくらいは認識しておる。話し合いを提案したのは今まで襲ってきた人間共の相手をするのにも飽いてきておったのでな。一人くらいは話を聞いてくれるのではないかと無理を承知で提案してみたまでよ。本当に応じる人間がおったことには我も驚いたがな。」
なんだよダメ元で言っただけだったのか。理由が飽きたからってのも喜んでいいのか悲しんでいいのか。
「まぁボウズはあんまり戦うのは好きじゃなさそうだしな。あっちでも俺との立ち会いを嫌がってただろ?」
いいえ、それは貴方と立ち会ってるといつか殺されると思ったからです。
「確かに魔王と初対面で話し合いに応じるなど私には出来そうにありませんね。むしろふざけるな! と言ってしまいそうです。」
「おお、アイサさんもか。実は俺もそう言ってしまったんだ。ヴィエラ、あの時はすまなかった。」
律儀にアランがヴィエラに謝罪する。勇者が魔王に謝罪ってすごい構図だな。どっちも元が付くけど。
「気にするな勇者よ。貴様の反応が当然であったことは我も理解しておる。逆の立場であったとしたら我も同じように一蹴するであろう。」
「そうだよねー。だって私達からすれば魔物の親玉なんだから、今みたいに襲ってきたウルフの親が話をしようって言っても聞く気にはならないと思う。」
「なるほど、アイラの言うことは分かりやすいな。」
うーん、だとしたらなんで俺はあの時ヴィエラの提案を受けたんだろう?
「まあその話はいいじゃないか。それよりほら、そろそろ日も落ちてきたし、夜営の準備といかないか?」
「そうね。暗くなってからの行動はいくら私達でも危険だと思うし、早めに準備しましょう?」
ちょっと早い気もするがそうだな。意外と人数も多いし、みんな何が出来て何が出来ないのかも把握してないしな。
「ちなみに聞くがこの中で料理の出来る人は? 確かアランは出来たよな?」
言ってから全員の顔を見渡す。あ、今顔を背けた奴と目元がピクッとした奴がいる。この二人は料理出来ないと考えた方が良さそうだな。
「言っておくが我は料理など出来んぞ。」
「知ってるよ。」
ヴィエラが恥ずかしげもなく一番に声を上げる。つか魔王が料理出来たら逆に引くわ。さて、さっき顔を背けた奴にも確認してみるか。
「ミリィ、お前料理は出来るようになったのか?」
確か昔は出来なかったはずだ。
「で、出来ないわけじゃないけど、ほらちゃんとした調理場がないと、ね?」
「分かった。出来ないんだな。えーっと他には……」
次は目元が反応した奴だ。
「アイサさんは? なんとなく出来そうなイメージだけど。」
「わ、私はその、あの。」
「お姉ちゃんは料理出来ないよー。家では私が作ってるもの!」
「ア、アイラ!!」
なるほどなるほど、アイラがご飯当番だったか。逆だと思ったがこれは意外だな。
「ところでイガさんはどれくらい料理出来るの?」
「こっちじゃどうかは分からねえが、あっちでは高校の頃から独り身だったからな。基本的に自炊してたし、一応調理師免許も持ってるぜ。」
なん……だと?
「調理免許ってなに?」
「あぁ、簡単に言えば料理人の資格を持っているってことだよ。しかしイガさん色々出来すぎじゃない?」
どう見ても作るより食べる方にしか見えないんだが。
どうやら当面の食事係は俺、イガさん、アラン、アイラで回すことになりそうだな。とは言ってもそんなに野営なんてしないに越したことはないが。
「じゃあここでいいな。インドア。」
周りから存在を消す闇魔法を使う。これ便利だよなぁ。
「コウ、今何をしたんだ?」
「アランは見るの初めてだっけ。周りから存在を見えにくくする闇魔法だよ。これはヴィエラに教えてもらったんだ。」
「うむ、確かに我の使った魔法とほぼ同じだな。少し異なっておるようだが。」
「あれ? 全く同じだと思ったけど?」
「なに、大した違いではない。我の魔法は存在を希薄にする魔法なのだが、コウの使ったこの魔法は存在を消すことを想像したのだろう。完全に消すには至っておらぬ故、生じる結果は同じのようだがな。」
なるほど、目標とする効果が少し違ったのか。多分周りから気付かれ辛くするのがヴィエラの魔法で、周りをシャットアウトするのが俺のインドアってことか。分かり辛いな。
「私はこの魔法のおかげで助かったよ!!」
そういやアイラにもこの魔法をかけたことがあるな。ただ人にかけるんじゃなく、空間を指定して発動する魔法だから、隠密行動には向かないのがちょっと残念だ。今度人にかけれるように改良してみよう。
「さて、じゃあ今日はここで休もうか。恐らく明日にはカナリアに到着するだろうし、ゆっくりしよう。」
そうして王都を出た初日の旅路は特にトラブルもなく過ぎていった。
さてそろそろ新展開といきたいと思います。多分。
あんまり突飛過ぎるのもなんなので、比較的緩やかにストーリーは進行していきます。
幼少期はすっ飛ばしたくせにね!!




