自由時間
不足分の戦闘描写追加である。
「どうしてこうなった……」
--事は2時間ほど前まで遡る。
王との謁見から一週間ほど経ったが、いかんせん王都を出るにしても、今回ミリィも連れていくことになったわけだし、色々と準備に時間がかかるとのことで、思った以上に暇を持て余していた。
ちなみに研ぎの方は大盛況だったが、そろそろ王都を離れることもあって、マリオさんに軽く研ぎ方を教えて自分でやってもらっている。
ちなみにあのおっさんは「何故自分がやらなきゃいけないのか。」的なことを言っていたが、流石に自分の店の客だろうと言ったら「あ、そうだった。」とか抜かしやがりました。絶対俺にやらせて自分は楽してたに違いない。そんなこともあって王都では研ぎ商売は止めることにした。
なら何をやっているのかというと、もっぱらギルドの依頼を受けたり、アランやイガさんと戦闘時のフォーメーションについて話したりしている。
実力としてはアランとイガさんは恐らく同格。ただしベヒモス戦で二人が使っていた身体活性化魔法--ライトニングに関してはアランに一日の長がある。発動もそうだが、ライトニング使用時の動きに関してもアランの方が上だろう。イガさんはどっちかというと、ライトニングを使っていない時の方が動きのキレはいい。
元々あの身体で流れるような体捌きをしてただけに、瞬発力が出るのは逆効果なんだそうだ。今は常時発動ではなく、攻撃する一瞬にだけ発動出来るようにアランと目下練習中らしい。
で、フォーメーションに関しては俺達を知っている誰もが予想した通りだが、アランとイガさんが前衛、俺が中衛、アイラが後衛だ。ここにミリィが入ってくるわけだが、流石にアランとイガさんと比べては差がありすぎるように思う。元々前衛タイプだったが、この面子だと俺と同じく中衛待機だな。
ただ元々頭も回るし、よく考えたらこのパーティには司令塔がいない。以前アラン達と旅をしていた時はほとんどがアラン一人で回っていたようなものだったからあまり必要とされていなかったが、今は俺も含めて極端な火力パーティになってしまっている。ミリィには司令塔として活躍してもらうとしよう。
これは王女という立場であるミリィを守る意図も含まれるが、これを伝えては本人も釈然としないだろう。が、事実人数が増えれば増えるほど連携は難しくなるし、遅かれ早かれキーとなる司令塔は必要なはずだ。
そう思い、ミリィと面会する機会があったのでパーティ全員で騎士団の訓練所に押し掛けた。団長は笑顔で迎えてくれたが、とても気持ち悪い。あ、ちなみに騎士団入りの話は丁重に全員揃ってお断りしました。
それからアイラはミリィと初対面だったのでこの機会に紹介したのだが。
「お、王女様……!?」
と言ってしばらく動かなくなってしまった。先日のベヒモス解体の時といい、立ったまま気を失う才能でもあるんだろうか。
ミリィは元々身分など気にする女性でもないので、アイラにも気さくに話しかけていた。アイラの緊張さえ解ければ仲良くなるだろう。ちょっと似てる気もするし。特にテンパった時のリアクションとか。
で、その時に団長にも俺の考えを聞いてもらった。
「ふむ、いいのではないか? 勇者とイガラシの実力は先日の一件で理解しておる。小僧についてもワシと直接剣を交えた仲だからな。もちろん剣の腕も二人に比べてそれほど劣るものではないが、いかんせん小僧は魔法が強力過ぎる。姫様にいくつか魔法を見せて場面毎に使う魔法を選択してもらうというのも一つの手だと思うがな。」
と、まるで騎士団長のような台詞を吐く。あ、団長って名前じゃなくて実際に騎士団長だったっけ。
「そうね、悔しいけれど私の実力じゃ剣の腕も、魔法の腕もこのパーティでは片手落ちだわ。多少回復魔法は使えるけれども、ヒーラーであるアイラほどではないだろうし、コウや団長の言う通り、私は司令塔として全体を見つつ、前衛をすり抜けた敵を止めたり、アイラの回復の補助をするべきでしょうね。」
よし、俺の構想は間違ってなかったようだ。
ただ間違っているとしたら会合の場に訓練所を選んでしまったという点だろうか。
「それじゃあ皆の実力を把握したいから模擬訓練といきましょうか。アランとイガラシはお互いしか相手にならないでしょうから、二人でやって頂戴。アイラはヒーラーとしての実力が見たいから、模擬訓練が終わったあとに怪我の手当てをお願いね。」
「うん? そうなると俺は何をすればいいんだ? どこから魔法でもぶっ放せと?」
俺の名前が出てこなかったのでミリィに問いかける。
「いいえ、コウは私と剣の模擬試合をしましょう。私はコウが剣を使っているところを見たことがないし、団長の話じゃ相当に使えるようになってるらしいじゃない。なら同じ中衛として、お互いの腕を把握しておかないとね?」
なんてこったい。よりによってミリィとかよ。
「それともなに? 私相手じゃ不足?」
「いやそんなことはない。だけどミリィ、お前剣持ったら人格変わるから怖いんだよ。」
「大丈夫よ、真剣じゃなくてちゃんと練習用の模擬剣を使うから。」
いやそういう意味じゃない。
俺がミリィと戦うのを拒むのにはワケがある。ミリィは剣を持つと人が変わったように斬りかかってくるクセというか悪癖がある。
決して魔物や人を斬ることを楽しんでいるわけではなく、ただ純粋に相手と戦うことが好きなのだろう。ある意味で言えば一番のバトルジャンキーなのかもしれない。
と、考えている間にお互い模擬剣を手に持ち相対する。ええい、出来るだけ早く終わらせたいが、実際ミリィも腕がいいからなぁ。どうなることやら。
ちなみに鎧は着ない。お互いスピード重視の剣術がメインなので動きやすい格好を優先した軽装だ。
「団長に聞いてはいたけど本当に二本使うのね……それじゃ準備はいい? 始めるわよ?」
「へいへい、いつでもいいですよっと。」
とりあえず諦めて真剣にやろう。下手に怪我したりさせたりしたらかなわん。
と、思考した一瞬にミリィが一足跳びに襲いかかってくる。いきなり突きかよっ!?
慌てて身体を横に逸らす。今の完全に喉狙ってただろ。殺す気か!!
「あら、よくかわしたわね?」
「今のかわしてなかったら冗談抜きで死ねる。なんでいきなり急所狙いなんだよ!?」
「ボーッとしてるコウが悪いんでしょ? さ、どんどん行くわよ!」
言うが早いか、今度は上段からの袈裟斬りだ。速いがイガさんに比べれば直線的でかわすのは容易い。
横にかわすのではなく、前に出て剣が振り下ろされる前に一歩踏み出し、ミリィの横を通過する。そのまま踏み出した足を軸に身体を反転、無防備な背中をねら……っていねえ!?
どうやら俺の狙いを察したのか、ミリィは剣を振り下ろした威力を下ではなく前方に調整し、つんのめるように大きく前進していた。うーん、荒っぽいけどよく今の一瞬で俺の狙いが分かったな。大したもんだ。
「……どうやら剣の腕が上がってるというのは本当のようね。少なくとも昔の貴方だったらかろうじて避けるか、後ろに飛び退くかしてたでしょう?」
「だろうな、どう考えても今の斬りかかりは後ろに避けるような一撃でもないし、横に避けたところで剣が邪魔で攻撃しづらい。なら前に出て背中を狙うのが一番、だろ?」
「ええ、前に出てくるとは思ってなかったわ。私ならいったん後ろに飛び退いてから、直ぐに突きを繰り出すかもしれないけどね?」
「残念ながらそんなに突きは得意じゃないんでね。」
つまり今のは俺を試す一撃だったってことか。生意気な。
「本気でやったら怪我させちゃうかと思ってたけど、今の一撃で分かったわ。」
「何が分かったんだ?」
「もちろん。全力でやっても怪我くらいで済むでしょうってことよ!!」
三度ミリィが駆け出す。彼女の恐ろしいところは剣の技術よりも、その瞬発力だ。
ライトニングを使ってるわけでもないだろうに異様に早い。最初はイガさんの踏み込みよりは対処が容易いなどと思ったが、どうやらあれも本気じゃなかったみたいだな。
「くっそ速いな。だが俺も伊達に二刀流なんてやってるわけじゃないんでな。」
スピード、手数なら俺だって多少の自信はある。それに最近はブーストや縮地の練習で高速機動に目が慣れてきたおかげもあって、ミリィの動きもよく見える。
「せやああああぁっ!!」
「ふっ!」
ミリィのが放った袈裟斬りを右手と左手でタイミングと角度をズラした剣で迎え撃つ。一発目で威力を殺し、二発目で剣の軌道を変え、相手の体勢を崩す防御技だ。
「っ!?」
流石に驚いたのか、僅かにだが体勢を崩すミリィ。そのまま追撃、と思ったが、崩れた体勢を無理矢理直すようなことはせず、重心がかかった方に身体を投げ出すように転がり、少し距離を空けたところで立ち上がった。こういう反応も流石だ。
だがそれでも隙は隙、遠慮なく攻めさせてもらう。
ミリィが体勢を立て直す暇を与えないように、速度を優先した横凪ぎを放つ。重さは必要ない。避けさせるための一撃だ。別に受けられても構わない。
予想通りミリィは更に後ろに跳ぶ。さっき言ってた突きを出すつもりだろうか? やらせないけどな。
そのまま更にもう片方の剣で上から斬りかかる。これは横にかわされるが、そこから更に一歩踏み込み、横凪ぎを払った腕を下から斜め上に振り上げ、下段からの逆袈裟の一撃を放つ。これはかわせなかったようで、剣で受けられる。
が、意外と下からの衝撃というのは受けるのが難しいもので、上段からの一撃と違い、力を込めづらい。予想通り、剣を弾くことに成功するが、まだ剣は手に握られている。少し弱かったか。
だがそれでも好機だ。ここは一気呵成に攻め立てるべく、右、左と連撃を繰り出していく。
「はああぁっ!!」
「ちょ、ちょっと。」
ここからは無酸素運動だ。息が切れるまで打ち続けてやる。
「ちょっと待って!! 降参、降参よ!!」
と、ミリィの叫び声が聞こえて我に帰る。が勢いがついてしまった腕が止まってくれず、そのまま前に倒れ混んでしまう。
「ちょっ!? あっ!!」
「むぎゅっ。」
そう、前にはミリィがいた。そりゃあ打ち込もうとした相手なんだから当然だろう。そのまま二人もつれあって倒れてしまう。
「いってて、なんだよ急に、そんなにいきなり止まれるわ……け?」
「ご、ごめんなさい。って、きゃぁっ!?」
きゃあ?
倒れた衝撃から復帰し、目を開いてから状況を整理すべく、しばし黙考した。
--そうだな、確かに俺前に倒れこんだな。で、倒せた時に顔の辺りがポヨンとした。つまりだ。
開いた目の前に広がる二つの膨らみ。うん、多分Dくらいか。とても立派です。そして柔らかさもGOODです。
ただし--
「コウ……」
--この状況はとてもBADです。
声がした方をおそるおそる振り向く。
--そこには身体を光に包んだ勇者が立っていた。
「驚いたな。コウがそこまで剣を使えるようになっているなんて、どうだ? このまま俺とも一戦やらないか?」
「落ち着けアラン、今のは事故だ。話せば分かる。」
「ははは、何を言ってるんだ。分かってる、分かってるさ。本気の勝負だったんだ。急に止まったら事故も起こるよな?」
分かってくれたか。流石は俺の幼馴染みだ。
「だから俺との勝負は急に止めるようなことはしないでおこう。さあ立て、剣をとるんだ。」
--どうやら分かってなかったのは俺の方らしい。
その後アイラの回復魔法の腕前は相当な物だったと判明した。理由は言わずもがなである。
さてさて、NTRには興味がないので、単なるラッキー(?)スケベです。
イケメンが静かに怒ると怖いよね?




