謁見-前編-
不定期更新で別(?)のお話を書き始めました。ですがメインはメインできっちり更新していきたいと思います。
「ふあぁ……ねみぃ。」
完全に飲みすぎたようだ。まだ少し頭がボーッとする。
あの後、再開の祝杯ということで、珍しくアランも飲みまくってたし、ザルのイガさんや団長は他の客と飲み比べなんて始めるし、挙げ句の果てにミリィは絡み酒でヴィエラと俺にやたらと絡んでくるしで大変だった。
特にヴィエラは災難だった。酔ったミリィに無理矢理フードを剥がされて飲まされまくってたくらいだ。
思い出し笑いを噛み殺しながら、宿の外にある井戸から水を汲み顔を洗う。冷たい水がボーッとした頭を覚醒させていくようで、とても気持ちがいい。
「皆はまだ寝てるか。とりあえず昨日中途半端になったから、今日こそ二人の得物を研がないと。」
今日の目標を口に出し、早速工房へ向かう。
道中、出会う冒険者達と軽く挨拶をかわしつつ、俺もすっかり王都の生活に馴染んだなぁ。と実感した。恐らくはベヒモス討伐の件が大きいのだろう。
でも俺って二人の活躍の影でこそこそ動いてたようなもんだからな。何をしたのかは知られてない気もする。
そんなことを思いながら、しばらく歩き続け、工房に到着する。中に入るとなんというか、むわっとした空気が漂ってくる。掃除も適当にしかしていないので仕方ない。
だがそれがいい。工房なんてのはこうじゃなきゃ。
ちゃんとした職人さんが聞いたら怒られそうだが、この独特の空気があってこその鍛冶職人。という印象もあるので、人それぞれだと思っていただきたい。
「さて、まずはイガさんの刀だな。」
イガさんの刀は言わずもがな、父さんが打った刀だ。俺が打った刀よりも格段に質がいい。
にしても、少し気になる点もある。なんというか材質は鉄だし、形も日本刀は日本刀なんだが、僅かに魔力が篭ってるような、そんな印象だ。
心を込めて打った刀には魂が宿るというが、もしかして知らずのうちに地球でも物質に魔力が宿ることなんてあるんだろうか?
「とは言っても父さんに魔力とか言ったって理解出来ないだろうしなぁ。もしかしたらイガさんがこっちで使ってる内にそうなったのかもしれないし。」
ちなみに魔力の宿った武器には様々な恩恵がある。
アイスブランドと言った刀身部分が氷のように冷たく、斬った部分から相手を凍らせるような魔剣もあるらしいが、そこまでの武器は見たことがない。
せいぜいが武器が通常よりも頑丈になるとか、切れ味があがるとか。そうそう、自己修復する剣なんてのもあったっけ。
作られた時から魔力が宿っていたり、使い手が魔力を送り続ける内に変質したものなど、理由は様々だと聞く。
ちなみにイガさんの刀は魔力が宿っている。と感じるくらいで、特別目につくような現象は起こっていない。本人も気付いていないだろうし、これから変質するのかもしれないな。
「まぁ頑丈にはなってるみたいだな。思ったより傷も曲がりも少ないみたいだし。それともイガさんの腕が上がったのかな?」
ぶつぶつ呟きながら刀の状態を見る。うん、それほど悪くなってないから、普通に研ぐだけにしておこう。
さて、アランのシルバーソードはどうかいねっと。
「うわ、こっちはちょっときついな。まぁ材質からして、元々耐久力のある剣じゃなかったしなぁ。」
正直欠けてると言っていいほどに刃がこぼれている。更に曲がりも酷い。
「これはもう材質の差としか言えないな……前と同じで曲がりを直して研いでなんとかなるにしても、これじゃ近い内にダメになりそうだ。」
そうなるとアランも困るだろう。うーん、かといって今貸してる刀もそれほどもたないだろうし、アランの腕についていけないだろうな。
そうなるとやはり答えは一つしかない。武器の新調だ。
「これは本人と話してみるしかないなぁ。せっかく王都にいるんだし、旅に出る前に一本剣を買うように言っておくか。」
アランの剣についても前回同様、普通に研ぐことにしよう。
曲がりは直すが先日一度研いだばかりだし、これ以上刀身が減るようなことをしてしまえば、そのうち戦闘中にポッキリいってしまうかもしれないしな。
「さて、方向性は決まったし、まずはイガさんのからやっちゃいますかね。」
早速準備をして研ぎにかかる。まずは歪みの矯正から、そして下地研ぎ、仕上げ研ぎへと入る。
「ふう、こんなもんか。こっちはそんなに傷もなかったし楽だったな。さて問題はこっちか……」
シルバーソードを手に取り、曲がり具合を再確認しながら、ゆっくり、ゆっくりと曲がりを直していく。途中で折れようものなら全くもって笑えない。
「さて次は下地研ぎ……これも弱めに回数でカバーするか。」
半円に近い丸みを帯びた砥石を手に持ち、剣を研ぎ始める。それほど力は要らない。どちらかというとブレないように真っ直ぐ、真っ直ぐ研いでいく。
しばらくして、目立つ傷がなくなったことを確認したので、仕上げ研ぎに入る。これはこの前やったばかりだから、失敗のないように同じ手順で……
「おう小僧、いるか?」
急に野太い声がかけられた。
「うおっ、団長か、いきなり声かけないでよ。今剣研いでるんだから危ないよ。」
「おっとすまんな。ワシも少し急いでいるのでな。許せ。」
「怒っちゃいないけど次からは気を付けてくれよ?」
「分かった分かった。で、今少しいいか?」
それにしても団長が単独で来るのも珍しいな。今日は研ぎの依頼ってわけでもなさそうだし。
「うん、まぁ一段落ついたところではあるからね。何か用?」
「ああ、先日話しておいただろう? ベヒモス討伐の件で王より召喚がかかるだろうと。」
そういえばそんな話もあった気がする。やだなぁ、あの話なくなってなかったのか。
「随分空いたように感じるけど?」
「そう言ってくれるな。陛下も忙しい身であるが故な。」
「別に皮肉を言ったわけじゃないよ。てっきり呼ばれなくて済むのかと思っただけ。」
「嫌なのか?」
「嫌っていうか、どこまで話していいもんか正直判断がつかないんだ。死んで生まれ変わったなんて話が広まれば、死んでも怖くないなんて思う奴が出てくるんじゃないかって。」
俺が転生したことを人に話さないのは、別に隠さなきゃいけない理由があるわけでもない。
ただ「転生出来るから死んでも平気!!」なんて噂が広まってしまえば、命を大事にしない輩が出てこないとも限らない。
しかも自分の命を大事にしないだけであれば自己責任だが、他人の命を奪うことに躊躇がなくなるかもしれない。
などなど考えた結果、よほど親しい間柄でもない限り話さないと決めている。
「なるほど、確かにそこまでは考えてなかったな……分かった。お前の状況については姫様に判断を仰ぐとしよう。恐らくは話さないことになるだろうがな。」
まぁミリィならそうするだろう。別に言わなくてもデメリットはないし、言ってもメリットがあるかというと思い付かない。
言ったときのデメリットは先程話した通りだし、わざわざ俺の身の上話なんてする理由もないのだから。
「了解。それでいつ行けばいい?」
「明日の正午だ。いつもの宿にいてくれれば迎えを寄越す。」
「なら大丈夫か。分かった、二人には俺から伝えておけばいい?」
「そうしてもらえると助かる。一度宿を訪ねてみたのだが、どうもまだ起きていないらしくてな。」
やっぱりか。あの野郎どもめ。人に働かせて自分は寝てるとは随分エラくなったもんじゃないか。
「そうだと思った。じゃあ俺から伝えとくよ。」
「すまんな。それでは頼む。」
「はいはい頼まれました。」
軽く返事をして団長を見送る。それにしても明日か……ただ褒美を貰うだけで終わればいいんだがな。まぁ今考えても仕方ないか。
--さて、作業を再開しますかね。
俺は手元の小銀貨を砕き、剣の仕上げ研ぎに入った。
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