銀閃という男
もう5時じゃないか……寝ないと仕事が……
「ありがとうございました。おかげで解体作業も終了し、死体も処理していただけたので魔物が寄ってくる心配もなさそうだと報告がありました。」
「役に立ったようで何よりだよ。」
ベヒモスの死骸を焼却処分した後、俺とイガさん、アイラの三人は冒険者ギルドに戻って依頼の完了を報告していた。
「報酬は小金貨二枚と銀貨五枚になります。後はベヒモスの素材を融通するようにとヒースさん経由で団長からの伝言を預かってますが、素材のままお渡しするか、あるいは加工出来そうな目処が立ったら職人を紹介するとのことですが、どちらが良いですか?」
「うーん、そうだなぁ……」
正直職人のツテなんてないし、素材のまま持っていても俺が加工出来るわけでもない。いや、何かには使えるかもしれないが、防具を作る技術なんてないし……うん、やはり防具として加工して貰おう。
「じゃあ職人さんを紹介して貰っていいかな? 素材も預かってもらってていいから。」
「分かりました。では責任を持って預かりますね。」
「イガさんもそれでいいよね? アイラも。」
「もちろんいいぜ。正直素材なんて貰ってもオレにはどうしようもないからな。」
「え!? 私も?」
「あ、そういえばアイラが加入したのは騒ぎの後だっけ。アイサさん、その辺ってどうなるのかな?」
気になって尋ねてみる。なきゃないで可哀相だし、その時は俺の分を融通しても構わないか。
「そうですね。確かにアイラは直接この件とは関係ありませんが、そこは私から融通してもらうように伝えます。恐らくあの大きさから見てそれでも余るくらいでしょうし。一人分くらいはどうにかしてみますね。」
と、すんなり請け負ってくれる。流石仕事の出来る女性は回答も早い。
「お願い。連絡はアイラにして貰うのが一番早いかな?」
「そうですね。私とアイラは一緒に住んでますし、その方が早いかと思います。この後はどうされますか?」
「疲れてはないけど微妙な時間だし、ちょっと工房に寄ってから帰るよ。」
「工房と言えば、この前マリオさんがコウさんを探しに来てましたよ。」
「げっ、あの親父まだ俺に仕事させる気なのか。」
「特に受付で聞いたりはしてなかったようですけどね。」
アランの剣を研いでから若干一日の注文数は減らしているので、その分マリオさんの店に押しかける客も増えたんだそうな。自分の店なんだから自分でやれっての。俺は知らん。
「後で顔出しとくかなぁ、見つかってからじゃうるさいだろうし。」
「大変ですね。」
「俺に頼みたいってのは嬉しいんですけどね。流石に身体は一つしかないんで。」
「お察しします。」
アイサさんもギルド内では人気みたいだしな。よくある隠れファンなんてのもいるそうだ。まぁ美人な方だし物腰も丁寧だからなぁ。
「アイサさんも頑張ってね。それじゃ。」
「ありがとうございます。それではまた来てくださいね。」
「お姉ちゃんまた後でねー。」
別れの挨拶をして工房に戻る。
--と、その道中に人だかりが出来ていた。気になったので中心の方を除いてみると、一人は銀閃だった。隣に知らない女性がいる……あ、女の人は走って逃げちゃったな。
「てめえ!! 俺の邪魔をするとはいい度胸じゃねえか!! 顔くらい見せやがれ!!」
「悪いが見せたくない理由があるんだ。それに邪魔とは言うが、どう見てもこの女性は嫌がってただろう?」
「あん? てめえにゃ関係ねえだろうが。ほらとっととその女寄越しやがれ!」
「いや! 誰がアンタみたいな男についていくもんですか!!」
「ほら嫌がってるじゃないか。それに寄越すも何も女性は物じゃない。彼女に失礼だろう。」
「だからてめえにゃ関係ねえっつってんだろ! おいお前等! この野郎をやっちまえ!」
どうやら口論のようだ。見た感じ振られた男が無理矢理女を連れて行こうとしてるところを銀閃が助けた。と言ったところだろうか。ベヒモスの時といい、随分人が良いというかなんというか……
そう考えながらもやはり一人の男の影がチラつく。
などと考えていると、どこにいたのか、ぞろぞろと身なりのよろしくない男達が現れる。どう見てもチンピラにしか見えない。
だがチンピラとは言え、数も多い上に得物まで手にしている。流石に銀閃に敵うような奴はいないだろうが、それでも多勢に無勢という言葉もある。助けに入るべきか。
「イガさん、銀閃の助太刀にいこう!」
と、声をかけるがイガさんからの応答はない。
「あれ? イガさん?」
変に思って振り向くと、そこにイガさんの姿はなかった。
「えっと、イガラシさんならあそこに……」
「え?」
と、アイラが指差す方向を見てみると、確かにイガさんがそこにいた。
「なんだてめえは!!」
「いちいち名乗る程のもんじゃねえよ。」
そう、既に銀閃の隣に立っていたのだ。
「イガさんいくらなんでも早すぎじゃね……?」
「それよりコウも助けに行かなくていいの?」
「うーん、完全に出るタイミング逃したし、危なくなったら乱入するってことで。街中で魔法ぶっ放すわけにもいかないし。」
「そうだね、コウの魔法なんて使ったら大変なことになるもんね。」
まああの二人なら大丈夫だろう。むしろチンピラ共が逃げ出した時に一般人に被害が出ない様にした方が良さそうだ。
そうこうしてる内にチンピラの一人が銀閃に切りかかる。が、銀閃は剣を抜くこともなく、チンピラの腕を掴み、そのまま捻り上げてしまった。
「街中で刃物を振り回すな。関係のない人に怪我させたりしたらどうするんだ。」
「銀の字よ、そんな奴等に常識説いたって無駄だぜ。こういう手合いの奴らは……」
と、イガさんがチンピラ達の中に突っ込む。相変わらずあの巨体で流れるような動きである。
「とりあえず殴ってしまえ!!」
イガさんが一人、二人と殴り飛ばしていく。どういう馬鹿力なのか、殴られたチンピラは数メートルほど吹っ飛び、意識を失ったようだ。
「乱暴だなイガラシは……まぁでもそれが正しいようだ。俺もやるとするか。」
そう言いながら銀閃が駆け出す。イガさんの流れるような動きに対し、こちらはまるで弾丸のように飛び出し、一気に相手との距離を詰める。
的確に相手の急所を突き、同じように意識を刈り取っていく。一人、また一人とチンピラ達は倒れて行き、俺から見ればもはやただの処刑場である。
「このっ……!! おいてめえら情けねえぞ! たった二人に何してやがる!!」
因縁を吹っかけた張本人が叫ぶ。というかお前何もしてないじゃないか。
「っるせえ!! だったらてめえがかかってきやがれ! このチキン野郎が!!」
イガさんも同じように感じたのか、相手を挑発する。十人以上いたチンピラ共は物の数分で全滅したようで、もはやまともに立てる者もいないようだった。この二人にケンカを売るのはやめておこう。うん。
「ぐっ……この! 覚えてやがれ!!」
あ、これ逃げる気だ。
と思った矢先にやっぱり逃げ出した。なんでこうチンピラって決まったこと言って逃げるんだろう。しかも逃げ足だけはやたら速いし。
だが予想通りの展開なので、ここは俺が手伝うことにする。ベレッタを抜き、チンピラとは逆方向に銃口を向ける。
「ブースト。」
団長戦でも使ったアレをお見舞いする。
「どっせえええええええい!」
「なんだおま……ぐぇっ!!」
チンピラの腹に俺の両足が食い込む。そう、俺が放ったのは伝説のドロップキックである。足の裏からちょっと嫌な感触がした。これ多分何本かアバラ逝ったかな。
そのままチンピラは地面に倒れ伏し、ピクピクと痙攣した後に動かなくなった。威力は弱めにしといたから流石に死ぬことはないだろう。
「おーい、こっちはトドメ刺しといたよー。」
「おう、ご苦労だったなボウズ。」
「すまないな、俺の争いごとに巻き込んでしまって。」
「いいってことよ。どっちにしろ俺達が手伝おうが手伝うまいがお前が怪我することもなかったろうしな。」
「そんなことはないさ。あの人数だ。万が一ということもある。」
うん、多分その万が一はなさそうだったけどね。
「しかし何だったんだコイツ等。」
「女性に絡んでいたから助けに入ったつもりだったんだがな。あそこまで過剰な反応をされるとも思ってなかったが。」
予想通りか。まぁ銀閃の正体が俺の知ってるアイツなら放っておけるはずがないだろう。
「あ、いたいた。おーい。」
アイラが駆け寄ってくる。
「アイラか。こっちは終わったよ。」
「うん、見てた見てた。ちょうど見回りの人がいたから声かけといたよ。もうすぐ衛兵さんも来るんじゃないかな。」
「あぁ、助かる。あとは騎士団に任せて戻ろう。ちょうど俺も工房行くところだったし。」
「お、じゃあオレの刀もちょっと見てくれ。最近満足に手入れも出来なかったからな。」
「俺の剣も頼む。先の戦いで消耗してないか心配だったんだ。」
「オッケー、じゃあみんなで行こうか。狭いけど我慢してね。」
「工房?」
そうか、アイラは知らないか。
「そうそう、俺一応刀工……まあ鍛冶屋みたいなこともやってるんだ。主に刀。俺やイガさんが持ってるような剣を作るのが主なんだけど。」
「へー、なんていうかコウって色々出来るんだね。」
「まだ見習いみたいなもんだけどな。まあ剣の手入れくらいならそこそこ出来るよ。」
「じゃあ私も見てみたい! ついていっても平気?」
「構わないよ。狭いけど我慢出来るなら。」
「それくらい平気平気!! じゃあ私もついてく!」
「よし、じゃあ行こう。」
「おー!」
アイラの掛け声を合図にして、俺達四人は工房に向かって歩き出した。
最近見直す時間も微妙になってきた……誤字、脱字などの報告は感想までお願いしまっす。




