依頼
勘の良い方はこれも気づいてたかな?
盛大な宴も終わり、流石に疲れたのか宿に戻って爆睡してしまったらしく、起きた頃には既に太陽は真上近くまで上っていた。
団長からは明日にでも王に呼ばれるだろう。とは言っていたものの、ベヒモスが現れた原因調査や、死体を調べての今後の対策に余念がないらしく、今の時点では特に何も聞いていない。
そうなるとずっと待っているのもなんなので、たまには、と思い冒険者ギルドに足を運ぶ。
俺が入った瞬間、一瞬ギルド内がザワついたが、すぐに収まった。恐らく昨日の件で多少顔も知られてきたのだろう。ちょっと気分が良くなってしまった。
アイサのいる窓口に向かい、声をかける。
「どうも、ご無沙汰してます」
「あ、キサラギさん、話は聞きましたよ! 大活躍だったそうじゃないですか!!」
「いや、活躍したのは主に銀閃とイガさんだけですけどね」
「そうなんですか? イガラシさんにも話を聞きましたけど、えむぶいぴー? はキサラギさんだって仰ってましたよ?」
「ああ、イガさんもう来てたんだ……まぁ三人とも頑張ってことで」
「そうでしたか。私としてもほぼお二人の専任のようなものですから、こうしてお話出来るのは鼻が高いです」
なんかいつもよりテンションが高いな。というよりもこっちが素なのかな?
「正直あまり依頼を受けてないですけど、これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ! それで、キサラギさん今日は何か受注されますか?」
「あ、コウで良いですよ。なんかキサラギって呼ばれるのちょっと慣れてなくて……で、そうだなぁ。それも目的の一つなんだけど、ちょっとアイサさんに聞きたいこともあって」
そうだ、ちょうどいいからアイサさんに聞いてみよう。
「分かりました。それでコウさん。私に聞きたいこと、ですか? なんでしょう?」
「えっと、アイラっていう冒険者のことなんだけど、アイサさん知ってます?」
「アイラ……ですか。ええ、それはもうよく知ってますが、アイラが何か?」
なんだろうこの言い回し。昔からの付き合いとかなんだろうか?
「えっと、昨日の襲撃の際にたまたま助けることになったんだけど、なんか気に入られてパーティを組むことになったんですけどね?」
「まぁ、そうでしたか。それはなんというか……」
アイサさんの歯切れが悪い。
「確かにパーティを組むのなら知っておいた方がいいでしょうね。実はあの子は……」
「おねーちゃーん!!」
「……言うまでもなかったですね。あとは本人と話してみてください」
「お姉ちゃん!! 実は私ね!!」
「アイラ、落ち着きなさい。私は今コウさんの相手をしているの。見て分からない?」
「えっ? あっ……」
「お姉ちゃん?」
なるほど、そういうことか。よくよく考えてみればアイサとアイラ、名前も酷似しているし、並んでみればどことなく面立ちも似ている。
「あはは……ごめんなさい。私ったらついはしゃいじゃって」
「はぁ……なんとなく理由はつきますけどね。アイラ、貴方ここにいるコウさんとパーティを組むんでしょう?」
「うん! なんと昨日の騒動の英雄三人がいるパーティなのよ!! これが喜ばないでいられるわけがないじゃない!!」
やたらとテンションの高い理由はそれか。まぁ確かに王都を救った英雄と同じパーティに入れる。というのは栄誉なことなのかもしれない。俺が過去、勇者パーティに入っていたのと同じく。
「ならそれはそれで本人がいないところでやりなさい。いくらなんでも本人を目の前にして、英雄がいるパーティだから喜んでる。はないでしょう?」
「うっ……それはそうだけど」
「まったく。身体だけは成長しても精神的にはいつまで立っても子供なんだから」
「か、身体は関係ないでしょう? そういうお姉ちゃんなんて身体だけはほとんど成長してないじゃない!!」
「ばっ、貴方って子は……!!」
ついつい二人の言葉に反応して身体を見てしまう。なるほど、身体が成長しているとはそういうことか。
「ふむ、りんごとメロンと言ったところか……」
バッと胸を隠す仕草をした後、ギロリと女性二人の視線が突き刺さる。実に息のあったシンクロ具合……つかやべっ、つい口に出してしまったらしい。
「いえ、何も申しておりません。申しておりませんとも」
ここは慌てたりせず、何も言ってませんよ作戦である。
「コウ、いくらなんでも直球過ぎると思うな」
「コウさん、いくらなんでもその表現はその、あんまりだと」
無理でした。ですよね。どう考えても手遅れですよね。
「申し訳ございませんでしたぁーっ!!」
まず土下座。日本の誠意を込めた文化的謝罪のポーズである。
「全く……男の子ってこれだから」
「まぁ謝ってることだし、良しとしましょう。元はといえばアイラ、貴方が余計なことを言うから……」
「えー、だってそもそもそっちの話振ったのはお姉ちゃんじゃない!」
「うっ……」
確かに、アイサさんが悪いとは思わないが話の発端は彼女だろう。だが俺はそれに感謝したい。だって僕男の子なんですもの。
「ま、まぁとにかく、アイラ、貴方コウさんのパーティに入ったんでしょう? だったら迷惑をかけないようにするのよ?」
「分かってるって! 私はヒーラーとして入ったんだし、邪魔はしないよ」
「そうですね。私は銀閃という方はよく知りませんが、コウさんとイガラシさんの実力なら多少は知っています。イガラシさんはヒースさんを下すほどですし、コウさんは魔法なのかなんなのかよく分かりませんでしたが、非公式ながら団長に勝ったほどですしね。お二人とも前衛でしょうし、ヒーラーの存在はいずれ必要になったでしょう」
「え!? コウって団長に勝ったことあるの?」
「あぁ、うん。正直勝ったと呼べるのかは分からないけど、本人がそう言ってたしなぁ」
「まるで空を飛べるのかと思うくらいの動きで私にはよく見えませんでしたが、団長に蹴りを入れて勝利した。というところは分かりました」
そういや確かにドロップキック決めたなぁ。
「蹴り? コウってウィザードじゃなかったっけ?」
「えっ? でも確かにあの時剣を持って戦ってましたよね?」
「うん、本職、というか俺はウィザードだよ。だけど色々あって剣術も嗜んでる。ちなみに師匠はイガさん」
「ということは直接的な攻撃魔法無しで団長に勝ったということですか……無茶苦茶ですね」
「なにそれ、ホント無茶苦茶じゃん」
ここでも無茶苦茶って言われた。なんだよもう皆して。
「ほら、魔法が効かない相手とか、使えない状況だってあるかもしれないじゃないか。そういう時のことも考えて少しは剣も使えないとなーって」
というか本当に使えなかった時期があったからですけどね。大っぴらには言えないけど。
「なるほど……確かに魔力が練れなくなった時は魔法師として絶体絶命の事態ですからね。剣が使えるだけでも生存率は上がります」
「そっかー、コウも色々考えてるんだね!!」
なんだろう。さっきからアイラの発言を聞いてると若干アホの子に見えてきた。
「俺のことは追々。で、アイラが来たならちょうどいいや。ちょっと実力を知りたかった事もあるし、一緒に何か依頼を受けないか?」
「いいの? 是非是非!!」
「コウさん、いいんですか?」
「うん、今日は特に予定もないし、アイサさんに聞きたいことって言うのもアイラの実力がどんなものなのか聞きたかったからだしね」
「なるほど……ならこの依頼はどうでしょうか。ちょうどヒースさんからコウさんかイガラシさんが来たら見せるように言われてたんです。イガラシさんは既にこの受注を受けて先に出ていますよ」
そう言ってアイサさんは一枚の依頼書を取り出し、机の上に広げだした。
さて、どんな依頼にしようかな。
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