これからの話
今回も会話多めです。
さて冒険者試験も終えたので一応ミリィに報告のために城に戻る。
先の戦いの件もあって兵士とはある程度顔見知りにはなった。とは言っても向こうが一方的に知ってるような感じで、俺はまだ全員の顔を覚えられているわけではない。
「ご苦労様です!!」
「あ、はいご苦労様です」
困ったことに挨拶されるのにも未だに慣れない。まぁずっと居るわけでもないし、明日くらいにはいくつか依頼をこなして宿を取ることにしよう。
そう思い、昨日より泊まっている部屋に戻る。一応城内は移動しても良いがいくつか立ち寄ってはいけない場所は事前に注意を受けているので、庭だったり訓練所くらいしか行く場所はないのだが。
「そういやイガさんは被弾してないから怪我とかないんだっけ? 俺はちょっとカスったりしたから治療しとかないと」
「おう、まだまだ戦えるぜ!! ところで治療ってどうするんだ? 医者にでも行くのか?」
「一応回復魔法もあってね。こういう風に……ってあれ?」
ところが回復魔法が発動しない。そういえば回復魔法ってあまり意識せずに使用していたがあれって基本的に水属性だったよな?
「うーん、発動しないや。何でだろ?」
「戻ってきたばかりだから調子が悪いんじゃねえのか? まあそのうち使えるようになるだろ。とりあえずツバでもつけとけ」
「かなぁ。まぁいいや大した怪我でもないし」
なんとなく引っかかりを覚えながらも気にしないことにする。確かにこっちに戻ってきてからも回復魔法は使ってないし、感覚を忘れているだけかもしれない。
--コンコン。
そうしている間に来客だ。ミリィかヴィエラかな?
「コウ、入るわよ」
「邪魔をする」
両方だった。本当コイツ等今まで話してたのか。随分仲良くなったもんだ。
「貴方達がさっき帰ってきたのを聞いたわ。試験はどうだったの?」
「あぁ、二人とも受かったよ。でもそれがさあ……」
俺は試験のあらましを話す。
「はぁ……道理で姿が見えないと思ったらそんなことしてたのね……」
「なんだ、聞いてなかったのか」
「そりゃ聞いてたら私も城でゆっくりなんかしてないわよ。ついでだから見学に行ったでしょうね」
「だから言わなかったんじゃないか?」
「うっ」
意外と細かい配慮も出来る人なのかなあの人。
「それで今帰ってきて怪我の治療でもしようと思ったんだが回復魔法が使えなくて治療出来なかったんだ」
「あら、得意じゃないにしてもシャルが入る前は貴方がメインで治療してたのに? 忘れちゃったの?」
「俺も良く分からないんだがそうらしい。そのうち思い出すとは思うんだが」
と、ミリィと話していた時だった。
「そういえば言っていなかったか。コウ、貴様、いやお主はもう回復魔法を使うことは出来ぬ」
「え?」
ヴィエラが横から発言する。しかし回復魔法を使うことが出来ないってどういうことだ?
「お主は我の力の欠片を体内に取り込み、今やそれはお主自身の力の一部となっている。それは転移の際にも闇属性の魔力に変換出来たことからなんとなく分かってるな?」
「ああ、まだ慣れないから魔法は使ってないにしろ、それは感覚で分かる」
「で、だ。回復魔法は基本的に水、風辺りの属性魔力を地盤として、僅かながら光属性の魔力が必要となる」
「光属性? そんなのもあるのか。今まで使ってる人見たことないけど」
「お主も見たことがあるはずだが? あの勇者が使っていた剣から刃を放つ技も光属性の魔力を帯びておったぞ?」
「あ、あれやっぱ魔力だったのか。なら納得だ。それでその光属性の魔力がどうしたって?」
あれ? なんでだろう。なんか嫌な予感がする。
「うむ、光属性の魔力は神の子である人間--亜人やエルフも含めてではあるが、本人の素養次第でかなり差が出る属性でな。基本的には魔族、魔物は闇属性を、人間達は光属性を生まれたことから少なからず持っておる」
「ふんふん」
「だがコウよ、貴様は光属性の魔力は持っておらん。というより持てなくなった。と言った方が正しいな」
「なんで?」
「闇属性と光属性は風と地や火と水のような反属性とは異なり、対属性の扱いとなる。つまりどちらかが存在する以上、どちらかは存在出来ぬモノだ」
「ってことはつまり……」
「そう、我の力の欠片--闇属性魔力を持った時点でお主の光属性魔力は無くなったと言って良い」
なんてこったい。そんなデメリット聞いてないぞ。
「えー……それって逆には出来ないもんなのか?」
「出来ぬ。幸いにもお主は生まれ変わってからは一度も光属性の魔力を練ったことが無かったようだからな、だからこそ闇属性の魔力を生み出すことに成功したのだろう。裏を返せば向こうの世界で一度でも光属性の魔力を発現させていたらこちらに戻ってくることは叶わなかった可能性が非常に高い」
「うーん、そうなるとやっぱり文句は言えないのか。まあ使えなきゃ不便だけどそれはなんとかするしかないか……」
「同様に我も光属性は使えぬ。他者に治療してもらう方法もあるが、闇属性を持った者は治療魔法などの光属性魔法の効果は薄くなる。その辺りは覚悟しておいた方が良いだろうな」
「マジかよ……それ聞いたらあんまりいいことないじゃん闇魔法」
「む、そんなことはないぞ。闇魔法は使い手こそ選ぶが、使いこなせば多様な使い方が出来るようになる」
「そういや闇魔法について詳しく聞いてなかったな。具体的にはどんなことが出来るんだ?」
王都までの旅路でキャンプ用に使った空間断絶魔法(俺命名)は確かに便利だったが、戦闘に生かせるかと言ったら微妙なところである。
「基本的に闇魔法の真価は『消す』『減らす』といった効果を及ぼすと認識するが良い。音を消す。色を消す。気配を消す。魔力を消す。などだな」
「要は暗殺や潜入、逃亡時に真価を発揮するわけか。魔力を消すってのはどういう?」
「阿呆が、戦闘中に視界を奪うだけでも十分に効果が見込めるだろうに。魔力を消すというのはその名の通り、魔法として発現してしまった後はほとんど効果はないが、魔素から変換した相手の属性魔力を打ち消すことが出来る魔法だが、体内に取り込んだ魔素自体は消せぬ。また無詠唱などの発動の早い魔法にも効果は薄い」
「そうなると詠唱の長い上級魔法とかには有効ってことか」
「そう考えて間違いではない。まぁ相手の魔力に干渉するにはそれなりの修練が必要となるがな」
ふむ。やはり一朝一夕には無理か。
「なぁお二人さんよ。魔法の話も良いが、これからどうするんだ? ずっとここに世話になるわけにもならんだろうし、冒険者として依頼を受けて金を稼ぐ。稼いだらここを出て行くことまでは分かってるんだが」
痺れを切らしたイガさんが問いかけてくる。
「そうね。私としてはここを貸し出していても良いけど、流石に周りに疑われるのも好ましくないし、早い内に宿を取るか、家を購入した方が良いでしょうね。私はあまり力にはなれないけど……」
まぁそりゃ王女だもんな。一介の冒険者に必要以上の助力は出来ないだろう。
「あぁ、じゃあちょうどいいから話そうか。まずイガさんとミリィが言う通り、金を稼いでせめて宿を借りれるようにはしておきたい。可能なら明日からでも」
「それはそれで随分急だな。もっともお主が決めたことなら好きにすれば良いが」
「まぁ可能ならってことで。で、ある程度金を稼いだらここから魔王城を目指そうと思う」
「ん? なんでまた魔王城を目指すんだ?」
「いやイガさん、ヴィエラは俺が巻き込んじゃっただけだし、帰さないといけんでしょ……」
「はっ!」
イガさんヴィエラと別れること考えてなかったな。
「ふむ、我としては急ぐ必要もないから飽きたら一人でも帰るがな」
「そう言うなって、一応俺も申し訳ないとは思ってんだから。で、目的はもう一つ。それは俺とミリィの仲間だった、シャルとアランを探すことだ」
「そうね、彼等もどこかの街でそれぞれ生きているでしょうけど、今は全く音沙汰がないしね。特にあの二人にとって貴方の存在は大きかっただけに、絶対に会いに行って謝るべきだと思うわ」
「え? 俺謝らなきゃダメなの?」
「当然でしょう? 人に心配かけたんだから」
「いやそう言われてもな……」
「男だったらつべこべ言わず謝りなさい」
「はい……」
やだ男って弱い。
さてそうなると再開したら再開したで、今回のように俺のことを信じてもらえない可能性が高い。その辺りのことも考えないといけないな。
「そうそう、それと私か二人宛の手紙を書いておくから、王都を出る時には声をかけなさい。どうせ貴方のことだから特にいい方法も思いつかないんでしょう?」
「よく分かったな」
「分からないわけないわよ。そこまで考えて行動出来るなら牢になんて入る必要すらなかったんだから」
痛いところをついてくる。どうせ俺はアホですよ!!
「でも手紙って言ってもそれも偽者だと思われたら?」
「貴方と一緒にしないで頂戴。公式文書とまではいかないけど、王家の印くらいなら押すことは出来るわ」
「アラン達はミリィが王女だってことを知ってるのか?」
「知らないでしょうね。だけど別人からの書状だとしても、王家に連なる者が貴方の身元を保証するというのであれば、何もないよりはよっぽどマシでしょう?」
「仰る通りでございます」
ヤバい、何から何まで頭が上がらないことばかりだ。
「ミリィ、すまない」
「何言ってるのよ。私はもう自由に動けない身だから、彼等を再び勇者にするのは貴方の仕事なのよ? いい? これはこの国を左右しかねない重要な案件なの。ヴィエラが言うように新しい魔王が好戦的であれば好戦的であるほど、彼等……いえ、貴方達の力が必要なのよ」
「そうか、でも礼は言わせてくれ。ありがとう」
「本当は私も付いて行きたいんだけどね……でも」
「分かってる。ミリィはミリィでやらなきゃいけないことがあるんだろう? ならこっちは俺に任せておけ」
「そうね、私は私に出来ることをする。だから貴方は貴方にしか出来ないことをやりなさい」
「ああ。必ず二人を連れて戻ってくる」
「お願いね。コウ」
決意を新たにこれからのことを決める。二人を探し出すためにまずは……
--ヒモ生活脱出だ!!
さてさて初仕事は何にしましょうか……




