プロローグ.3 ※改訂済み
やっと死にます(何)
もっと短くするつもりだったんですが長くなってしまいました。ご容赦を。
※2015/11/30 改訂
改訂したら文字数が増えた……一話9000文字近くとか通常の3話分やん……
アランが扉を開く。
そこはいわゆる王の間、というやつだろうか。昔見た謁見の間と似たような造りだ。
だけどここは華やかさはなく、ただ禍々しい雰囲気に包まれていた。
正面には玉座があり、黒いローブのようなものを身にまとった人の形をしたモノがいた。
突然の闖入者にも動じることなく、暇を持て余しているようにも見えた。
「ついにここまで来たか……」
目の前のモノが呟く。
人なのか? 男なのか? 女なのか? 形は確かに人の形をしているが、そのモノから出る雰囲気は完全に人ではない。
「お前が魔王か!」
アランが問いかける。
「お前達からすれば我は魔王なのだろうな。別に我がそう呼ばせたわけではないが」
魔王が答える。思ったよりも声は高い。が、一言一言に魔力が篭っているのか。そのプレッシャ-に威圧されてしまう。
「それなら話は早い、俺達はお前を倒しに来た。覚悟しろ!」
アランが聖剣を抜き放つ。
「意気やよし、だが些か性急に過ぎるな。所詮は若造ということか」
「なに!?」
マズい、アランが相手のペースに乗せられている。このままじゃ一人で斬り込みかねん。
「性急ってことは急ぐ必要はないってことか? てっきりいきなり襲いかかってくると思ったけどそうでもないんだな。むしろいきなり襲いかかりそうなのは俺達の方か」
「ほう? ただの人間が臆することなく我に話しかけるか……いや単なる怯えの裏返しか、あるいは勇者への献身が成したか。いずれにしろ、我を前にして大したものだな人間」
「一応コウって名前はあるんだがな。まぁ別に俺の名前はいい。結局は戦うために来たんだし、戦うことにはなるだろうが、何か話すことがあるなら話してからでもいいんじゃないか? なぁアラン、今お前がムキになって向かっていっても、正直魔王にビビってる俺達じゃ足手まといだ。ならせめて緊張がほぐれてからでもいいんじゃないか?」
「お前な……いや、お前がそういうなら何か考えてるんだろう」
「ふん、随分と緊張感のない奴等だな。今までここに来た奴等は問答無用で我に斬りかかってきたぞ」
そりゃ斬りかかりたくもなるさ。めっちゃ怖いもん。
「そりゃどうも、褒め言葉として受け取っておくよ。それで何か話があるんじゃないのか?」
「相変わらずコウは図太いというか……大物なのかしらね」
「コウさん……やっぱり回復するのやめようかな」
だが俺に対する女性陣の評価は右肩下がりである。どうしてこうなった。
「ふむ? まあ立ち話もなんだ。そこに座るが良い」
魔王が言うが早いか、俺達のすぐ後ろに椅子が出現した。あれ意外と親切?
「こりゃどうも……なにこの椅子。すっごいふかふかなんだけど」
「コウ……緊張感がないにも程があるだろう……」
あ、アランが呆れてる。そう言われてもだな。今はこうするしかないだろうよ。
「で、話はなんだ? 今更戦いはやめる。など命乞いをするわけではないだろうな?」
俺に魔王が不思議そうに首を傾げる。どうやら今は勇者であるアランよりも、俺に対して興味が湧いたようだ。
「そもそも言っておくがな、我は貴様等に戦いを仕掛けた覚えはない。我からすれば貴様等がわざわざ戦いを仕掛けに来た。という認識なのだ。それがどうも不可解に思えて仕方がない」
心底不思議そうに尋ねられる。まぁこっちからしたら何言ってんだコイツ? という印象だが。
「何を言っている! 魔王! 貴様が魔物に人を襲わせていることが原因だろうが!!」
あ、やっぱりアランも思ってたらしい。
「我が魔物を使役し、人を襲わせていると? 誤解、無理解も甚だしい。我は確かに魔物を使役することは可能だが、いちいち人を襲わせたりはせぬ」
ってあれ? なんか話が変だぞ?
「だったら魔物が人を襲う理由は? 魔物は人を食べないと生きていけないわけではないのよね?」
「知らぬ。第一我が生まれ、魔王と呼ばれるようになるよりも前の時代から魔物は存在している。その時には既に魔物と人は争っていたからな。なればこそ、我がわざわざ手を下すまでもない。女、貴様が先ほど言ったように、魔物は人を食べなくても生きてゆける。ならば尚の事、魔物に人を襲わせる理由が見当たらんとは思わぬか」
うんまぁ納得出来ないにしても一理ある。のか?
「確かに魔物と人種の争いは、それこそお伽噺になるほどの遠い過去からの話です。だけど、だったら、何故物語はいつも勇者と魔王が戦っているのですか? 僕は魔王が勇者に倒される度、力を蓄えて復活するものだとばかり思ってましたが」
「それはあながち間違いというわけでもなかろう。実際先代の魔王は勇者に破れたと聞いている。だが我は生を受けてたかだか50年ほどしか生きておらぬ。それより旧い話ともなれば、魔王を自称した何者か、あるいは我と同様、人間に畏怖されるべき存在が、ただそう呼ばれていたのだろうと察するが」
ミリィとシャルの疑問ももっともだ。もっともだがそれ以上に魔王に戦意がないことが気になる。少し核心を突いてみるか。
「つまりなんだ。魔王、アンタは魔物に人を襲わせるような命令は出していない。しかし魔物を使役することが出来ること、この魔王城に住んでいること。今まで挑んできた人間をことごとく返り討ちにしたこと。人と魔物は元々争い会っていたこと。いっぱいあるが色々ひっくるめて、魔王が魔物を使って人を襲っている。という誤解を受けている。と言いたいわけか」
「概ねその通りだろうな。無論信じるか信じないかは貴様等次第だがな。……で、どうする。貴様等は我に戦いを挑むのか。それとも立ち去るのか。立ち去るのなら是非もなし。我も貴様等に危害を加える理由は特にないのでな」
あらら見逃してくれるとまで言ってるよ。なんだかなぁこの展開。
「なら……」
アランが口を開く。
「なら……この聖剣は一体何のために、勇者とは何のために選ばれるんだ。俺は一体何のために……」
俺達四人の空気が重くなる。確かにそうだ。アランは魔王を倒すための聖剣に選ばれ、ここまで旅を続けてきたんだから。
「ふむ、その聖剣とやらには心当たりがある。それは確か」
「はいそこまでー」
魔王の言葉を遮って声が響く。声のした場所は魔王の後ろ。だと感じたが誰の姿も見当たらない。
「困るなぁヴィエラ、いや今は魔王だっけ? そんなペラペラと勇者とお話なんてされちゃあさあ」
「貴様か……堕ちた神風情が我の名を呼ぶなど汚らわしい。とっとと去ね」
「怒らない怒らない。まぁボクとしては目的の物が目の前に来てくれたんだから次点ではあるけど及第点かな。本当は魔王クンに勇者を殺してもらえれば万々歳だったんだけどね」
ん? 今なんて言った? 堕ちた神?
「おや? ボクのことが気になるかい? そうだよ、今魔王クンが言ったようにボクは元々この世界の神の一柱だったんだけどね……色々あって今は神ってほどじゃないけど、キミ達に遅れをとるような貧弱な存在でもないんだなこれが。アニスとかダガンとかがよってたかってボクをいじめて、神界を追い出されちゃったんだよねー」
--堕ちた神。それこそ御伽噺の世界だが、確か絵本にも名前が出てくる神がいたはず。その名前は確か。
「何をするつもりだ……堕ちた神、フラッグ」
そう、フラッグだ。悪戯好き、争い好きで神界を追い出されたとされ、子供が悪いことをしたら仲間外れにされる。家から追い出される。等々、子供に言い聞かせるための御伽噺だったはず。
「何をするって? 言ったじゃないか。ボクの目的の物が目の前にあるんだから、壊すしかないよね。その聖剣--ボクを縛る楔の一つをさ」
「なっ!?」
堕ちた神の目当てが聖剣? その言葉に俺達は驚愕を禁じ得ない。
「というわけだからゴメンね、その剣は破壊させて貰うよ。ついでだからキミ達も殺してあげる。この事実を知った上で、キミ達の誰かが他の楔に選ばれても厄介だしね」
目の前の存在から殺意が溢れ出す。先の魔王の威圧感はあくまでこちらを牽制する目的のものだったが、これは違う。話し合う余地もなく、俺達を殺すつもりだ。それが分かるほど濃密な殺意だった。
「ワケあってボクは魔王クンに直接手は出せないけど、同じように魔王クンもボクに手を出せないだろうしね。あ、もちろんキミ達も反撃しても良いよ。その方が面白そうだし」
「みんな立つんだ! 来るぞ!!」
アランが叫び、聖剣を抜き放つ。抜刀と同時に聖剣を横薙ぎに一閃、『光刃』を飛ばすが、フラッグに素手で止められてしまう。
その隙に横からミリィが斬りかかるが、これも振り向きもせずに素手で止められ、蹴り飛ばされてしまう。かなり吹っ飛んだが大丈夫だろうか。心配だが今はコイツから目を離すことは出来ない。
すかさずシャルがミリィに駆け寄り、傷を癒す。特に大きなダメージというわけでもなさそうだ。
しかしそもそもアランの光刃が通用しない時点で俺達の攻撃が通用するとも思えない。ほぼ詰みの状態だ。理由は知らないが魔王はフラッグに対して手が出せない……ん? フラッグに対して手が出せない? となると、だ。
「魔王! 俺達を助ける義理がないことは分かっている。それを承知で頼む!! お前くらいになれば転移魔法を使うことが出来るだろう!? 俺達に転移の魔法をかけてくれ!! 場所はどこでもいい! むしろ無意識に飛ばしてくれた方が好都合だ!!」
フラッグの眉がピクリと動く。そうか、有効なんだなこの方法は。
「ふむ、確かに貴様等に助勢する義理はないが……そうだな、時々話し相手にでもなってくれるなら請け負おう」
「乗った! まずは生き延びてからが条件だ!!頼む!!」
「キミ、五月蝿いよ」
フラッグの身体が俺の方を向く。同時に殺意の全てが俺に向けられる。
「コウ!!」
俺に注意が向いた隙にアランが飛び出し、フラッグを袈裟斬りにする。
「やだなぁ、今の相手はキミじゃないよ」
--そして俺は見てしまった。フラッグの手刀によって、聖剣が半ばから折れてしまう様を。
そのままフラッグの右手刀がアランを襲う。アランもかろうじて回避するが避け切れていない。肩から斜めに血飛沫が舞った。
「おや、これはラッキーだ。目的が一つ達成出来ちゃったよ」
「アラン!! くそっ! シャル!! アランを頼む!!」
ダメだ、アランがダメじゃどう考えてもアイツは倒せない!!
「コウ、と言ったな。いいだろう。コイツの思い通りになるのは気に食わん。望み通り貴様等に転移の魔法をかける。但し少し時間がかかるからその間は自力で生き延びろ」
魔王からの返答。ありがたい。もうそれに賭けるしかないんだ。
ふとアランに目をやれば、シャルが回復魔法でアランの傷を癒している。重傷のようだが、傷が癒えているところを見る限り、命にはかかわらなさそうだ。
「回復かぁ。へぇ、キミはハーフエルフなんだね。チョロチョロと鬱陶しいからまずキミから退場してもらおうか」
そしてそれを目にしたことにより、殺意がシャルに向けられる。
--ダメだ、それだけは許さない。
ほぼ無意識に風の魔法を背中で炸裂させる、背中が多少裂けるが知ったことか。聖剣を折った、あの手刀がシャルに襲い掛かる。
--間に合ええええええ!!
間一髪でシャルを抱き抱え、そのまま地面を転がる。
良かった。シャルに怪我はない。
「シャル、怪我はないな、ちょっとアランを引きずっていいから後ろに下がっててくれ」
出来る限り平静を装って声をかける。背中が、熱い。
「コウさん……? その傷は……」
やっぱり見られてたか。全く。アランとは腐れ縁とは言え、同じような傷までいらないんだがな。
それに多分、俺の方が傷が深い。
「こっちを見るな。アランの傷も浅い傷じゃない。それにアランは勇者だ。聖剣がなくなったとしても、俺達の中で守るならアランでなきゃいけない。少しでもアイツを倒せる可能性が残ってるとしたらアランしかいない。だから今はアランを守れ!!」
「でも! でもコウさんが!!」
「シャル! 早く行け!!」
突き飛ばすようにシャルをアランの方に押し出す。どうやらミリィの方は心得ているようで、いつの間に回復したのか倒れるアランの前に立っている。
「ったく、魔王を倒してハーレムだって言ってたのにな……」
最後の最後でケチがついた。正直泣きたくなるがそうも言ってられない。どうせなら最後の賭けだ。
「じゃあ元神様。俺の最後の悪あがき、とくとご覧あれ」
「その状態のキミに何か出来ることがあるのかい? いいよ。見る限りキミは魔法師なんだろう? ボクに少しでも効果があれば魔王クンの転移魔法で彼等は助かるだろうし、面白ければ特別に彼等は見逃してあげよう」
彼ら、か。俺は勘定に入ってないか。まぁ当然だな。どっちにしても助からんだろうし。
「太っ腹だな、じゃあやらせてもらうとするさ」
所詮俺は中級魔法師、その肩書きの通りに、中級魔法までしか満足に使うことが出来ない。上級魔法も全く使えないわけじゃないが、錬度が、精度が足りない。
だけど。
「母なる大地よ、其の堅牢を用いて核と成せ。アーススフィア」
声に出して地の中級魔法を詠唱する
「なんだ、ただの中級魔法かい? そんなものボクじゃなくてもこの辺りの魔物には通用しても殺すまでは至らないだろうに、多少詠唱は短縮出来ているようだけど、これじゃ期待外れもいいところだよ」
--五月蝿い黙れ。その声はカンに触るし集中の邪魔だ。
『燃え盛る炎よ、其の苛烈さを用いて核と成せ。ファイアスフィア』
同時に炎の中級魔法を詠唱する
「んん? 同時詠唱? へえ、どういうカラクリかは分からないけど、それでも魔法の二つくらいでボクには通用しないかなー」
『全てを流す水よ、其の激しさを用いて核と成せ。アクアスフィア』
それを無視して、俺は詠唱だけを紡いでいく。
『奔放なる風よ、其の暴虐を用いて核と成せ。ウィンドスフィア』
「ちょ……ちょっと待って? 四つの詠唱を同時に? キミの身体、どうなってるの?」
『地水火風、集いて混ざれ、混ざりて狂え、狂いて混ざれ。其の名は--』
さぁ、最後の魔法だ。目に物見せてやろう。
「スクエア・ロンド!!」
前方に突き出した俺の手から、四つの魔法が混ざり合い、球体を型作った魔法が放たれる。
対するフラッグも未知の魔法に少しの危機を感じたか、それでも余裕の表情で両手で魔法を受け止めようとする。
「こんな……こんな魔法があったなんてね。二属性以上の混合魔法か、過去に使い手がいなかったわけじゃなかっただろうけど、流石に四属性は聞いたことがないね」
混ざり合いながらも、魔力が荒れ狂う球体がフラッグに到達する。奴は球体を両手で受け止めるが、少しずつ、少しずつ押し込んでいく。
「ん、これは……ちょっときついかな。ちょっと我慢するしかないか!」
そして球体が爆発する。竜巻が炎を巻き込み炎の渦を、水が大地と混ざり合い、水に削られた光沢のある岩の塊が炸裂する。
--やがて炎の渦が消えてゆき、岩は地に落ちる。
フラッグの姿は……無傷ではないが、多少の傷が伺える程度だ。
「……これが人間か。--ハハハッハハハハハハハ」
堕ちた神が狂ったように笑う。
「いいよ、いいよキミ! ボクに傷を負わせるなんて50年前のヴィエラ以来だよ!」
楽しそうに、心の底から喜悦を表して、笑う。
「約束だからね、彼等は見逃してあげるよ。良い物を見せてもらったお礼だよ」
「そりゃどうも、でももう一回見せろって言われてももう無理だからな。なんてったって腕が足らん」
自分の放った言葉通り、俺の両腕は肩の付け根から消失してしまっている。どうやら魔法を放った反動で千切れ飛んでしまったらしい。
血は止まることなく出続けているが、不思議と痛みはない。どうやら麻痺してしまっているようだ
「それは残念。まぁ約束は約束だからね。ボクは約束は破らない主義なんだよ。だから魔王クン、もう発動しちゃってもいいからね」
言うが早いか、魔王の身体から魔力が漏れ出す。どうやら転移魔法の準備が整ったらしい。アラン達の身体が光に包まれていく。
「アラン、父さんと母さんに会うことがあったらよろしく言っといてくれ。ミリィ、お前はとっととアランとくっつけ。シャル、お前は人を殴るな。……今までありがとな」
ああ、確かに楽しかった。いつまでもその日々が続くと思っていたんだけどな
「コウ! 諦めるな!! 転移したらシャルに治してもらえ。そして俺達ともう一度旅に出よう!!」
「ありがたいがそりゃ無理だ。だって俺もう立ってるのが不思議なくらい限界だもの」
つか立ってるのかどうかすら分からん。ほとんど目も見えないし。
「コウ、さっきの発言はどういうこと!? それに貴方だけが助からないなんてことは許せないわ」
「ミリィ、無理だ。ごめんな」
うん無理、奇跡でも起これば別なんだけどね
「コウさん……僕……」
……シャルか。
「シャル、お前に責任はない。これは俺が選んだ行動だ」
「でも僕なら……私なら治せるかもしれない!!」
「お、私ってのは初めて聞いたな……流石にこの状態が治せるのかどうかは俺自身が理解してる。それにまぁ、なんだ、お前の目の前でくたばるのも嫌だし」
本当に嫌になる。こんな格好悪いところ
「でも……でも……!!」
「ならこうしてくれ、ここでお前は転移する。俺は残る。だったら俺が死んだかどうかは分からない。そして次に会った時には俺とデートしようか」
だからせめて格好悪いなりに格好をつけてみるとしようか
「そんな……次なんて」
「大丈夫だ、信じろ。俺はお前に会いに行く。例え目の前の神や魔王が無理だって言っても、俺は俺が決めたことは曲げてやらない。だから信じろ。な?」
「コウさん……」
光が強くなっていく。もう時間か。
「それじゃあな、長いようで短かったけど楽しかったよ。こんな俺と一緒に旅してくれてありがとうな」
「「「コウ(さん)!!」」」
光が一際大きく輝き、顔を伏せた。顔を上げた時には既に三人の姿はなく、堕ちた神と魔王、それと両腕を失くした俺だけが、その場に残った。
「いやー、感動だねえ、しかしキミ本当に人間なの? 両腕がないのに痛がらないし、今から死ぬっていうのに妙に落ち着いてるし」
「痛みがないのはよく分からん。まあ多分感じられる痛みの限度を超えて麻痺したんじゃないかな。それに落ち着いてるっつっても。、結局お前に殺されるか、やるだけやって死ぬかのどっちかしかないって決まった時点で覚悟は決まってたさ。つーかそれこそ元凶が言うもんじゃないだろう」
今さら言っても仕方ないけどお前のせいだからな。死んでも許す気はない。
「ごもっとも。それじゃあ最後を看取って上げたいのはやまやまなんだけど、せっかく楔を一つ壊したんだし、他の神がここに来ないとも限らないからボクは行くよ。そういえばキミ名前なんだっけ?」
フラッグが俺の名前を聞いてくる。堕ちたとは言え、神に名前を聞かれるなんて光栄だね。
「コウ……コウ=キサラギだ」
「ふーん、それじゃコウクン、良い物を見せてもらったよ。来世でも縁があればいいね」
「せっかくだけど願い下げだ」
まあ縁があったらぶっ殺そう。
「あらら残念、それじゃボクは行くね。サヨナラ」
「ああ」
そしてフラッグの姿が消えた。あれも転移魔法なんだろうか。
「……コウよ」
「あ、魔王、ヴィエラだっけ? すまんねお願いなんかしちゃって」
というか随分可愛い名前だなヴィエラって。
「ヴィエラで良い。その様子では我との約束は果たせそうにないな」
おや名前で呼んでいいのか。つってももう呼ぶ機会もなさそうだけど。
「あー……それは本当申し訳ないんだが、流石に勘弁してくれ」
「いや、そうではない。少々気が変わった。貴様に我の力を少し分けてやろうと思ってな。運が良ければ約束は果たされるかもしれぬ」
「え? この状態の俺を復活させたり「それは無理だ」……あ、そう」
なんだ助けられるわけじゃないのか。じゃあ一体何を?
「なに、物は試し、というだろう。結果は約束できんがな」
「しかしなんでわざわざ俺に?」
「興が沸いた。と言わざるを得ぬ。思えば勇者を制して我の話に乗ったこと。そして仲間を助けるために倒すべき対象である我に取引を持ちかけたこと。我と約束を交わしたこと。そして最後の魔法の可能性……只の人間としてこのまま終わらせるには惜しいと感じたまでよ」
随分評価が高い。そういやこいつ倒しに来たんだっけ。なんでこうなったんだか……
「そっか、じゃあまぁどうするのかは分からんけど、どっちにしても死ぬだけだし、好きにしてくれ」
「分かった。なら目を閉じろ」
「あいよ」
軽く返事をして目を閉じる。
「それでは我ともさようなら、だ。また相見えることを期待している」
その言葉を最後に、俺の意識は無くなった。
--そして俺は、死んだ。
さてプロローグが終わったわけですが、ある意味次もプロローグな気がします。
プロローグ第二章と言ったところでしょうか。
出来るだけ早く投稿したいですが…頑張ります。