強襲
なんとか書けたので本日二話目です。
「で、俺ただいまって言ったよな?」
「ええ、私もおかえりなさいって言ったわ」
なのに何故だろうか。一つ納得がいかないことがある。
「じゃあなんで俺等まだ牢の中なの?」
生死を共にした仲間だよ? さっき名前だって呼んだじゃん。
「それとこれとは話は別ね。だって貴方達身分証持ってないんでしょう? だったら今出たとしてもまた帰ってくる羽目になるわよ?」
「解せぬ……」
言ってることは分かる。冒険者登録さえすれば身分証の代わりにはなるが、まず王都に入るのにその身分証がいるって矛盾してるんじゃないのか?
「それは仮にも王都というだけあってこの国の王がいるんですもの。基本的には誰でも受け入れるけど、賊が紛れ込まないとも限らないし、ね」
「そう言われちゃ納得するしかないな。でも早い内に出してもらえるんだろ?」
「もちろん、色々説明が面倒かもしれないけど、きっと今の話を聞いてた人もいるだろうし」
「あぁ、団長だっけ? あの人マジで怖いんだけど」
「怖くて悪かったな」
暗闇の中から団長が顔を出す。近づいてくるまで気配を感じなかったぞ。怖い怖い。
「ワシは姫様と違って貴様との接点はほとんどない。だから全てを信じるわけにはいかないが、姫様が信じるならそれに否やはない。とっととここから出られるようには手配してやる」
「そりゃ助かる。流石に狭いしここにいるとどんどん腐っていきそうだ」
いずれにしろ早く出してもらえるのであればこれ以上何も言うまい。と、納得しかけたその時だった。
「団長っ!!」
「どうした? そんなに慌てて」
監視役の兵士が駆け込んでくる。慌てぶりからするに何か起こったのだろうか。
「外回りの兵士から伝令です!! 多数の魔物が王都を目指して進行中!! 既に門付近には動ける兵を集めております!!」
「またか……よし分かった。ワシもすぐに向かう。お前等は門のすぐ外で隊列を作り待機。ワシが行くまで先走るんじゃないぞ!」
「はっ、直ちに! おい! 今のを兵長に伝えろ!!」
流石に監視は必要らしい。後ろに控えていた兵士に指示を出し、団長も入り口へ向かっていく。
「さっきまたって言ってたが、そんなに魔物が攻めてくるものなのか?」
ミリィに問うてみる。
「ええ……と言ってもここ一年ほどではあるんだけど、急に攻めてくる時期があってね。理由はまだ定かではないんだけど……」
「それなら我に心当たりがある」
「知っているのか、ヴィエラ」
思いもよらない人物からの回答が帰ってくる。
「転移前に少し説明したであろう? 勇者を下してなお、我がこちらの大陸には積極的に侵攻することがなかったために別の魔王が立てられたことを。恐らくそのものが今までの鬱憤を晴らす意味も含めて好戦的になっているのであろう」
「あぁ、そういやそんなこと言ってたな……そうなるとその魔王がこっちに来てるのか?」
「いや、流石にそれはないだろう。あやつ自身が行動することはあまりない。どちらかというと好きにさせている結果がこの状況を生んでいると推測する」
「なんだ、下っ端が暴走してるようなもんか……そうだな、ミリィ、俺達にも手伝わせてくれないか?」
「コウ? 貴方何言ってるの? 魔物は確かに毎回多いけど、王都の兵士は団長をはじめ優秀だと自負してるわ。貴方の手伝いがなくても……」
「ああ違う違う、そういうことじゃなくて試してみたいことがあるんだよ。この世界に戻ってきて、どれだけ自分の魔法が通用するのかってな」
要は実験みたいなものである。俺としてはファーストアタックだけ魔法をぶっ放して、戦果があればそれで良し。なきゃないでヘコむだけだ。
「うーん、さっきの魔王「ヴィエラだ」……ヴィエラの言ってたことも気になるしね。いいでしょう。団長に掛け合ってみるわ。だけど普通は素性もしれない人間を戦闘に巻き込むなんてことは許されない。だから貴方がどれだけ戦果を挙げられたとしても褒賞を与えるわけにはいかないし、逆に危険に曝されたとしても勝手に騎士団を使うわけにはいかないから、助けられるかどうかは分からないわよ?」
「あぁ、それでいい。そんときゃヴィエラに助けてもらうさ」
「何故我が……」
なんか聞こえた気がするけどとりあえすスルーだ。
「そうと決まったらとっとと行こう。魔物の大群が王都に近づけば近づくほど邪魔になるだろうしな」
「分かったわ。なら監視に頼んで一時的に貴方達を釈放します。急ぎましょう」
そうして俺達は牢を出て、王都の外へと向かった。
そこからミリィの行動は早かった。団長を見つけ(デカくて目立つ)、先ほどの話を持ちかける。当然ながら団長はいい顔をしなかったが、魔物が近づいてくるまでに一度だけ、成功しても失敗してもすぐにここに戻ってくることが条件として許可された。恐らく失敗しても囮として魔物を集中してここに向かわせることも出来ると判断してのことだろう。
「うお、ここまで地鳴りが聞こえてくるのか。どんだけいるんだよ……」
「ボウズが言い出したこったろ。俺はこの世界での戦闘経験もないし、邪魔にしかならないからここで見物させてもらうとするか」
あ、イガさんいたんですね。
「じゃあ行ってくる」
「コウ、気をつけて」
「流石に何度も死にたくはないしな。失敗したらすぐ逃げ帰ってくるよ」
ヴィエラにフラッグ、魔王に堕神と関わった経験からか、普通の魔物を見る分には全く恐怖心が沸いてこない。むしろ新しい魔法が試せることに高揚感が沸いてくる。
門から離れて少し歩くと、先頭集団の魔物の姿が見え始める。速度はそれほど速くはないが、とにかく多い。
--ワイルドウルフ、ワイルドボア、ワイルドシープ、ワイルドキャット
……っておい!? 全部ワイルドの名前が付く奴ばっかじゃないか!! どんだけワイルドなんだよ……
よく見れば上空にもワイバーンの姿が見える。が、比較的小型だし、あれなら確かに騎士団でも倒せるだろう。
「近づかれたら困るし、そろそろやりますかね」
「大丈夫なのか? 見た感じすげえ数だが……」
イガさんが心配そうに俺の方を見る。言葉は不安を滲ませるような言葉だったが、イガさんの方を見ると、特に怯えているわけでもない。魔物なんて見るのは初めてだろうに、大した胆力である。流石、と言うべきか。
「うーん、とりあえずやってみて、かな。無理ならすぐ逃げるし」
「分かった。じゃあ俺は危なくなったらボウズを担いで逃げてやるよ」
「よろしく」
そう言って俺は魔素を取り込み始める。時間もそれほどないから、ゆっくり取り込んでる暇はない。少し魔素酔いなどの反動があるかもしれないが、イガさんが担いでくれるというのなら甘えよう。
一秒、二秒、三秒…五秒ほど経ったころだろうか、体内に魔素が満ちてきた感触を掴んだ俺は、そのまま属性魔力へと変換を始める。今回使う魔法は四属性。前世では腕が吹っ飛んだし、地球にいた頃には出来なかったが、今なら……!!
腰につけたホルスターからベレッタを取り出す。闇夜に紛れて僅かながら光沢のあるそれは、俺にはとてもカッコ良く見えて、テンションも上がって行く。さあ、詠唱を始めよう。
「炎は苛烈に全てを焼き払い。水は流麗に全てを流し尽くす。地は堅牢に全てを押し潰し、風は鋭利に全てを切り裂く」
中二病という言葉に苛まれながらも、自分がイメージ出来る言霊を紡いで行く。そういう面でも地球では魔法を型作るイメージの宝庫だった。
「焼き払い、流し尽くし、押し潰し、切り裂き。やがて全ては無に帰る」
変換した属性魔力をベレッタに送り込む。やはり素手よりも魔力の流れがいい。収束し、凝縮した魔力が暴れ狂う。
「其れは乾かず、其れは飢えず。全てを飲み込み、それでも満たされぬ飢餓の果て」
魔物は空に、地に大群を形成している。ならそれを全て飲み込んでもまだ足りないというほどの。
「暴食せよ! バァル・バースト!!」
顕現するは暴食という名の大罪を冠する悪魔。
ベレッタの大きいとは言えない口径の銃口から、目に見える全てを滅ぼす滅びの魔力。
それは赤、青、黄、緑と色を変えながら、扇状に広がっていく。そして魔物達を、木々を、空を蹂躙しながらも留まることなく放出されていく。
時間にしては数秒ほど、余韻を残すように役目を終えた魔力は魔素に戻り、キラキラと舞っては落ちて行く。
気を抜かず、クリアになった視界を先を見つめ……唖然とした。
「マジかよ……」
テンションが上がっていたことは認める。それは認めるが、眼前には認めたくない光景が広がっていた。
--何もなかった。
街道を挟むように生い茂る森の木々も、大量に押し寄せていた魔物の群れも、扇状に何メートルも先まで何もなかった。
「やり過ぎた……」
さて、魔物を全滅させたのはいいが、どう見てもやり過ぎだった。逆に王都に戻るのが怖くなった俺はしばらく立ちすくんでいたが、やたらと良い笑顔のイガさんに担がれ、王都まで戻るのだった。
やっとこさ魔法の場面が書けました。にしても魔法の詠唱って恥ずかしがると逆に歪になっちゃいますね。これはもう中二病全開するしか。




