プロローグ.2 ※改訂済み
まだプロローグ、長いかな? ゴメンネ
※2015/11/30 改訂
--勇者選定の儀式。
教会管理の下、集まった希望者が順番に聖剣を手に取り、手に取った者が勇者であれば聖剣が何かしらの反応する。という内容だった。
よほど悪評のある冒険者には手に取ることが許されなかったものの、一般人からも募集する。という状況だったことから、俺達が知らない間に、魔物を統括する者。--魔王の脅威がこの国に迫っていたのだろう。
面白半分ではあったが、俺とアランも参加することにした。誰も聖剣がどういう反応をすれば勇者なのかは分からない。
それも無理はない。先代の勇者という存在が数百年前の言い伝えでしか残っていない存在だし、語られるその内容すら事実なのか、あるいはただの御伽噺なのかを判断出来る人もいないのだから。
実際今まで幾人も手に取ってきたであろうに、未だ勇者と認められた人間はいない。
いよいよ俺達の順番が回ってきたので、まず俺が手に取ってみる。が、今持っている剣よりも重い、としか感じることが出来ず、聖剣にしろ、俺自身にしろ、何の反応もなかった。
分かっちゃいたけどやっぱり少し残念な気分になる。
次にアランが聖剣を手に取った時だった。その時の光景を反応、と言う言葉で片付けていいものか。明らかにアランを中心に異常が発生していた。
それはまるでお伽噺の一節。アランに握られた聖剣が光りを放ち、アランが光に覆われていった。光の中で何があったのかは俺も知らない。もしかしたら光っただけで何もなかったのかもしれないが。
やがて光が止み、周囲がざわつく中、一人の男が人垣を割いて歩いてきた。
周りの反応を伺う限り、その男は王都にある聖教会の司教だったという。確か名前はラスクだったと思う。--うん多分。
名前すらうろ覚えなので、この際司教と呼ぶことにしよう。
司教はその場でアランのことを伝説の勇者だと宣言した。そしてその勇者には身体のどこかに刻印が現れ、神の祝福を受けることになるはずだと言った。
確かにアランの右手の甲に不可思議な紋様が刻印されていた。恐らくそれが勇者の証なんだろう。
--その日からアランは一介の冒険者ではなく、勇者となった。
それからしばらくは大変だった。
アランが勇者と分かってから「自分の娘を妻に!」と、王都の貴族達がこぞって願い出る。何故か俺がそれを断るという役割になったのも記憶に新しい。ちなみに今もそういう貴族はいるが、いつの間にか断る役割がミリィに移ったので少し楽になった。
中にはカナリアの冒険者ギルドの関係者に接触し、俺達の生まれた村を聞き出そうとしたりしていたらしい。
本人に直接言っても芽がないなら、ではまず家族を取り込もうという考えなのだろう。もしかしたら人質にして脅迫するつもりの者もいたのかもしれない。思惑は様々なのだろうが、とにかく権力を欲する者達は、色々な手段でアランを自分の者にしようとした。
だが幸いと言って良いものか、俺の幼馴染兼勇者様は、とにかく真面目だった、
悪く言えば堅物とでも言おうか。提示される物、女、金に釣られることはなかった。
何より俺との冒険者生活を優先したいと言ってくれた時には、こいつは俺の親友。いや兄弟だ。なんて舞い上がった。
でも今考えるとちょっと怖いよね。本人に全く他意はないんだろうが……
とは言え、本人の意思とは裏腹に、つまるところ勇者とは大陸の救世主であるべき人間であることはお互いに認識していた。当然貴族だけではなく、アランを勇者と宣言した教会、何より国そのものが黙ってその存在を看過出来るはずがない。
ある日、外遊に出ていた王が勇者誕生の知らせを受け、王都に戻ってきた。
早速アランは王に呼ばれ、王城に招かれることとなった。
当然呼ばれたのはアランだけ。俺はアランの友人でも、結局はどこにでもいるような冒険者の一人でしかない。つまりわざわざ城に招かれる資格はないということだ。
それが悔しくなかったわけじゃない。情けなくなかったわけでもない。
だが聖剣に選ばれたのはアランであり、俺じゃない。それに俺には特別な力も才能もなく、冒険者としても有名というにはほど遠い存在だった。
当然かー、等と思う反面。今思えばアランに嫉妬して卑屈になってしまっていたかもしれない。
しかしそれでもアランは言った。「コウと俺は一緒に生まれ、一緒に人生を歩んでいく兄弟だ。兄弟を捨てることが勇者なら、俺は勇者でなくてもいい、この聖剣も返す」と。
俺が女性だったなら一発で落ちただろう。だが残念、俺は男です。べ、別にときめいてなんかないんだからねっ!!
などと冗談めかしてはいるが、その時のことは本当に嬉しかった。
王としても、今更勇者をやめるとまで言われると思っていなかったんだろう。特別ではあるが、俺の同行が許可された。
生まれて初めて訪れた王城に萎縮しながらも、アランと共に豪華な廊下を歩いていく。やがて謁見の間と呼ばれる部屋に辿り着き、王と対面することとなった。
王が口にした言葉は想定の範囲内とでも言おうか。魔王を倒してほしい。そのための仲間を紹介しよう。という内容だった。
アランは俺がいるから仲間の紹介はいらない。と言った。一体コイツは俺に何を見てるんだろうかと、若干正気を疑ったのは秘密だ。
だが流石に国として、王として何もしないのは面子が立たない。ということなのだろう。半ば強引ではあるが、王立騎士団でも有望株であるという。女騎士のミリィを同行させるように頼まれた。いやむしろ命令された。
男二人の中に女紹介するってどうなんだ? とは思ったものの、流石に王命と言われては断るわけにはいかない。
それからは俺達とミリィと三人で魔王討伐の旅に出ることになった。冒険者としてではなく、勇者一行として。
今でも決してアランの前では言わないが、正直言って、王都になら上級魔法の使える上魔法師もいるだろうし、更にその上、魔導師に近い存在もいたはずだ。
魔導師は魔法師にとって憧れの対象であり、大陸でも有数の力を誇る存在である。だがアランはそんな人材より俺を選んだ。
俺はアランの幼馴染というだけの存在でしかないし、心中では勇者一行に加わることは場違い、分不相応な気がして仕方がなかった。
きっと当初はミリィも俺のことを快くは思っていなかっただろう。大した実力もない腰巾着が。と。
それでも、兄弟が選んでくれたんだから、俺は俺が出来ることで、少しでもアランを支えていこうと、そう誓った。
勇者一行となったが、いきなり魔王を倒せなんて言われてもその実力は未知数。
まずは冒険者として様々な依頼をこなし、金を稼ぐ傍らで、立ち寄った村や街で情報収集を行い、俺達は魔王がいるというゼデンス大陸を目指した。
本当に色々なことがあったが、世界を旅し、色んな物を見て、色んな事を知った。女騎士のミリィの剣術は確かに素晴らしく、そこらの魔物には苦戦することもなかった。おかげで俺の出番は更に減ったが。
--そして何より聖剣を手にしてからのアランの能力は凄まじいの一言だった。
今までもその実力、才能は知っているつもりだった。
--いや、知っていたつもりだった。
今まででも、他の冒険者と比べて、剣術の冴えは一級品。魔法も中級魔法を使えるという点で、なんとか俺が一歩リードしているものの、それでもほとんど遜色ないレベルで魔法を使えた。むしろ剣術に魔法を織り込むことで、効果的に魔法を使えるという点で俺よりも上手く魔法を駆使していたように思える。
正直俺いらないんじゃね? と思ったことも数知れない。
俺自身もその辺で徘徊している程度の魔物に遅れをとることはなかったが、それでも魔物の拠点を攻める際には、オーガやゴブリンの群れには苦戦したし、竜族で一番弱いと言われているワイバーンですら、出会おうものなら、迷わず逃げるレベルだった。
ところが聖剣を手にしたアランは、人間という存在でありながら、魔物の中でも腕力は上位に位置するだろうオーガ相手に、素手で殴って一発で絶命させるまでになっていた。本当に人間かコイツ?
ある日俺達は、不運にもワイバーンに遭遇してしまった。「一撃加えて駄目そうだったら逃げよう」と決めて、ミリィが前衛で撹乱し、俺が後方支援で注意をミリィと俺に釘付けにしつつ、隙を見つけたらアランが切り込む。という作戦を立てた。
だがアランが「試したいことがある」と言ったので、最初の一撃だけ任せてみることにした。離れた場所から剣を横に振るっただけで、光る刃がワイバーンをスパッと真っ二つにしてしまったほどだ。その技は今でもよく使っているが、見る度に思う。なにあの切れ味、反則だろ。
そうしてメキメキと強くなって行くアランと旅を続けて、半年ほど経った頃だろうか。俺達は道中で盗賊に襲われていたエルフの少年……もとい少女を助け、彼女の住むエルフの里、アルラーンに送り届けることになった。
送り届けたはいいが、少女はあまり歓迎はされていないようだった。
後に知ったことだが、少女はアルラーンでは忌み子とされるハーフエルフだったという。少女に話を聞いてみると、母親は純血のエルフなのだが、父親はエルフが人族という存在。--つまり人間だったらしい。
母親は少女を出産してから一年ほどでその命を落としたという。残された少女は伯母にあたる母親の姉に育てられたそうだ。
だがその伯母にも子供がいて、少女にはそれほど愛情を注がれずに育ったらしい。
また、半分は人間だからか、エルフが数百年生きる種族であるにもかかわらず、少女は人間よりも少し遅いくらいのペースで成長し、年上だった伯母の子供達よりも身体が大きく成長してしまい、周囲からも奇異の目で見られてしまっていたらしい。
周りと違う成長速度、そして見た目はエルフでも人族と交わった女の娘。
そう陰口を叩かれ、里での立場は正直よろしくなかったらしい。
エルフは潔癖且つ排他的な種族だと聞いていたので、到底納得は出来ないが、確かに考えてみれば、自分達と違う存在がいる。ということを考えれば、理解出来なくもない話ではあった。胸糞悪いことだが
少女は故郷を、アルラーンを愛していたが、アルラーンは少女を愛さない。その事実は年端もいかない少女には非常な現実だっただろう
俺達は理由を付けて少女に声をかけ、旅の供にすることにした。その理由とは非常に強力な回復魔法が使えることである。
俺やアランも簡単な回復魔法は使える。だが少女は魔法に秀でたエルフとの混血児だからだろうか。
少女の回復魔法は俺達とは違い、凄まじい速度で傷を治癒することが出来た。俺達パーティ(剣士二人と黒魔法師)の状況から見ても、実際喉から手が出るほど欲しい人材だったのは確かだ。
少女にはそのように伝え、旅の一行に加えるた俺達だったが、事前に俺達三人はあらかじめ一つのことを決めていた。
それは少女が独り立ち出来るだろう。と判断した時点で、少女が望めば道中の街で別れること。俺達の旅には危険が多い。もしかしたら死んでしまうこともあるかもしれない。それは俺達の誰もが望まないことだったからだ
説得した結果、少女はアルラーンを去ることを惜しみながらも、俺達と共に付いて来る決心をした。少女は自分の名をシャルと名乗った。
それから二年ほど一緒に旅を続け、そろそろ頃合いかと思い、とある街で俺からシャルに「望むならこの街で暮らして行くといい」と言ったら、とてもナイスな角度でリバーブローを貰った。
普通こういう時は平手打ちが相場だろうに、予想外の一撃に腹筋に力も入れて折らず、モロに喰らって体のくの字に折り曲げてしまったのは、いい思い出である。あ、吐いてないよ。
そんなことがありながら、四人で旅をしたこの三年間、俺達パーティでの立ち位置は次第に決まっていった。
アランが次に目指すべき方向性を決定し、ミリィがそれに対して意見を言う。議論する二人を俺が茶化し、それを咎めてシャルが俺を殴るという役割だ。いつ肝臓が破裂するかと思ったが、なんとか無事ここまで来ることが出来たのは感慨深い。
そうやってこれまでやってきた。もちろん辛いことも苦しいこともあったが、それ以上に楽しいことの方が多かったと思う。
それから一年。四人での旅は三年ほどになる。
俺達は旅を続け、各自研鑽を重ねながら、少しずつ強くなり、同時に色んな人達を救うことが出来たと思う。
けれどその旅ももうすぐ終わる。あと数日もしないうちに、もしかしたら今日にも。
昔話も終わり、俺達は少しの緊張感に包まれる。
俺は結局上級魔法は少ししか習得することが出来なかった。だがミリィの剣の腕も既に達人と呼ばれる域だし、シャルの回復魔法もある。何より、俺達にはアランがいる。
だから実力で劣る俺は、まだこのパーティの道化でいよう。それが俺に出来る、最大の存在意義なのだから。
そして何があってもコイツ等を死なせたりしないと心に誓う。--例えこの命と引き換えにしても。
だから俺はこう言う。
「じゃあとっとと魔王倒して王都に戻ろうぜ。そしたら俺の輝かしいハーレムライフがふッ!?」
「コウさんうるさいです。それ以上言うと殴りますよ」
「俺には脇腹に突き刺さる拳が見えるわけですが、もしかしてまだ殴られるんでしょうか?」
「黙ってくれたら殴りません」
いやもうイイのが入ってるけどね?
「はぁ……コウとシャルはここまで来ても本当に相変わらずだな」
「本当に……これからという時に力が抜けるわ……」
どうやら結果は上々のようだ。今までありがとう俺の肝臓。お前のことは忘れない。いや潰れたわけじゃないけどさ
「さてじゃあ行きますか。魔王様のお部屋とやらに……あ、入るの俺一番最後ね」
「お前な……まぁいい、じゃあ俺が先頭、ミリィが二番、シャルが三番でコウが最後尾で入るぞ。みんな! 準備はいいか!」
「もちろんよ!」「はい!」「やだ! グフォッ!!」
「よしじゃあ行くぞ! みんな離れるな!」
既に痛みを感じないと思っていた俺の肝臓が悲鳴を上げる。が、全員華麗にスルーである。
--そしてアランが扉に手をかけた。