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新たなる旅路

さて、駆け足気味ながらも第二章が始まります。

 さて、これからまずどうするか。


 アクリスに戻ってきたのは良いが、場所が場所である。ある意味いきなりゴール地点から逆走するようなものだが仕方ない。


 というかイガさんもいるのに、こんな魔物の多い大陸からスタートするとかハードモード過ぎるのではないだろうか。そう思っていたのだが。ヴィエラ曰く。


「あぁ心配せんでも良い。今のゼデンス大陸にはほとんど魔物はおらぬよ。いたとしても積極的に人間を襲うこともない」


 とのこと。なんでも勇者が聖剣を失って人間に反撃するチャンスだったにもかかわらず、特に侵略を開始することもなかったのでヴィエラに対して魔族の間で不信感が芽生えたらしい。何度か上級魔族から何故人間の住む大陸--オルデンス大陸に攻め込まないのかと具申もあったそうだが、元々魔王という立場に執着もなかったヴィエラはそれを無視したそうだ。


 そしていつしか上級魔族の中ではヴィエラは魔王として崇められることはなく、新たに別の魔族が代理の魔王として台頭したとのこと。その魔族の名はレディオというらしい。また黒物家電かよ。いい加減にしろ。


「それじゃあ外は安全なんだな。とは言っても歩いていくには食料もないし、食える魔物がいるのかも分からないし、近くの街まで行くにしてもきついな……」


 逆に魔王城に来る際には装備も食料もアイテムも準備出来るだけ準備することが出来た。その差があまりにも大きすぎて、途中で飢え死にするのではないかと思うと動きづらい。


 と、思って気が付く。そうだ、一人無茶なこと出来る奴がいるじゃないか。


「ヴィエラえも~ん「殺すぞ」俺達を近くの街まで飛ばしてくれよー」


 こちらに戻ってきてからというもの、すっかりヴィエラにも慣れてしまった。コイツの威厳ある声というのは、闇魔法の一種らしく、慣れてしまえばそれほどプレッシャーを感じることはない。


 それに死ぬ前もそうだし、戻ってきてからもそうだ。言葉は重々しいのだが、最後まで話は聞いてくれるし、色々アドバイスをくれたりもする。魔王という肩書きのせいで余計に会話をしようなんて者がいないだけかもしれないが、よくよく考えたら死ぬ前に話し相手になるという約束で仲間の命を助けてくれるような奴だ。実はかなりイイ奴なのである。


「ふむ、そうだな。街まで、というには距離がありすぎるが、ある程度座標を特定して飛ばすことは可能だ。あるいはコウ、貴様が手伝えば場所はともかく、もっと遠くまで転移出来るかもしれん」

「手伝うというとどうすればいいんだ?」

「簡単な話だ。貴様には一度我の力を譲渡し、回収したであろう? それと同じ要領で、貴様が変換した闇属性の魔力を使わせてもらう」

「なにその便利仕様。初耳もいいところだ。というよりも俺の魔力ってヴィエラに持って行かれ放題なの?」

「いや、もちろん貴様が拒めば魔力を持っていくことは出来ない。強制力のある力ではないからな。それに貴様の魔力量は今や大きすぎる。我とておいそれと使える量ではあるまいよ」

「マジでか」


 俺も男である。こうなったらいちかばちか、いっきにオルデンス大陸まで戻れることを期待してヴィエラを手伝うことにする。というよりも本当は俺達が手伝ってもらってる立場なんだがな。


 イガさんに声をかけ、今からやることを説明する。


「それじゃイガさん、準備はいい?」

「準備も何も、俺は元々自分の刀しか持って来てないから着の身着のままもいいところだ。いつでもいいぜ」

「確かに、俺もそうだった」

「では行くぞ。コウ、イガラシ、手を出せ」


 言われるままに二人して手を前に出す。するとヴィエラが手を伸ばし、俺達の手を握った。……ん? これって俺達と同じ手じゃ? というか随分線が細いというか……


「さぁコウよ、魔法のイメージはこの際どうでもいい。むしろ吸い取られる感覚をそのまま魔力に変換するイメージだ。言葉では説明し辛いが、分かるか?」


 その感覚は知っている。地球からアクリスに召喚される際に味わったからな。確か身体の内側から引っ張り出される感覚だ。これを魔法としてイメージするのは微妙だが、元々吸い取られる魔力だし、魔法の発動に失敗しても暴発の心配はない。魔力変換する分には差し支えはないだろう。どんどん魔力量を増やしていく。


「……よし、魔力量は十分だ。転移するぞ」


 あれ?まだ半分も渡してないんだが。


「あ、ちょっと待って、まだ半分くらい魔力余ってる。つかこれまだ魔力持って行かれてる気がするんだが」

「む? なんだと!? 待て!! こんなにもいらん! 止めろ!!」

「いやいや無理だって!! もう魔力にしちゃってるもん。止まるわけないだろうが!!」

「おいおい二人とも落ち着けよ、つーかこのノリ、すっげえ既視感を感じるんだが……」

「ええいもう知らん!! 俺の魔力全部持ってけえー!!」

「いらぬと言っておるだろうが!! この阿呆が!! キャッ!!」


 キャッ?


 と思ったら目の前が暗転する。地球からアクリスに来る時には数十秒間の浮遊感があったが、今度は一瞬だった。でもまた倒れてるらしい、おもむろに起き上がる。


 ふと手を握る感触があった。そういえば転移する時に手を握られた気がする。


 ……ちょっと待て、転移する前に手を握られた。それは誰にだったか。


「あいててて、ったくボウズに付き合うとロクなことがねえな……んでここはどこだ? ってうお!?」

「イガさんどうかしたのか? ってはぁ??」


 俺達は揃って驚いた。繋がった手の先を見れば転移のショックでフードが捲れたのか、真っ黒なローブを着た女の顔がそこにあった。年齢は……俺と同じ二十歳か少し上くらいだろうか。髪の色は炎のように紅く、気を失っているのか、目は閉じられているが、恐らくは切れ長の目だろうと想像が付く顔付きである。つかこの人は一体……?


 などとは考えてみたものの、状況からして該当するのは一人しかいない。なんてこった。テンプレテンプレ言い続けてたら実は魔王はクールビューティーの女性でした。ってオチか。


 俺達が言葉を失っている内に、気が付いたのかピクリと瞼が動いた。


「いったたた。もーなんなのよあの魔力、ホント信じらんない。バッカじゃないの全く!!」

「「は?」」


 男二人で間の抜けた声を出す。いや、いくらなんでも口調違いすぎやしませんかねえ!?


「しかもなんか私まで飛ばされてるし……あーもうサイアク!! どうしてくれんのよ!?」

「いやいやちょっと待てって、お前……ヴィエラなのか?」

「はぁ?どっからどう見ても私でしょうよ? 何? アンタの知り合いには他にこんな真っ黒なローブ着てる女がいるっての?」

「いや、じゃなくて口調がだな……しかもお前の顔なんて見るの初めてだし」

「顔……? あっ!? ちょっ、ちょっと待ってなさい!!」


 ヴィエラがいそいそとフードを被る。すると。


「全く……貴様といると調子が狂う。というより貴様ら、見たな?」

「あぁうん、見たけど。それよりなんなのお前? フード被ったら別人なの?」

「うぬ……このフードにはとある理由で魔法が付与されておってな。我の発した言葉を相手を威圧する言葉に変換することが出来る、いわばマジックアイテムだ」


 良かった。どうやら中二病の類ではないらしい。しかし言葉が変換されるってことは、フードの中で話してる言葉はさっきの口調そのままだってことか。


「ったく驚いたよ。まさか魔王様が女だっただなんてな。ねえイガさん? イガさんも流石に驚いただろ?」

「……」

「イガさん?」


 イガさんは未だにヴィエラの方を見たまま、呆けた顔をしている。


「イガさん? どうしたんだ?」

「お、おう。なんでもない」


 これはなんでもある系ですね。


「ヴィエラの顔がどうかしたのか? もしかして知ってる顔だったとか?」

「いや! 知らん!! あんな美人見たこともねえ!!」

「っ!!」


 あ、これはアレですわ。完全にイカれてますわ。


「イガさん……もしかして」

「ボウズ!! それ以上なんか言ったら頭カチわんぞ!!」


 はい確定。いやいいんだけどね。俺も美人だとは思ったし。


「と、とにかくだ。我もここがどこかは分からん。そうなると我の城に戻るにしても転移は使えぬ。そうなるとまずはどこか休息出来る場所を探さねばいずれ日が落ちて魔物も出よう。そうなる前に動く方が懸命だと思うがな」

「あ、あぁ、確かにそうだな。俺もこの辺には見覚えないし、とにかくこの道はかなり使われてるようだからきっと街道だろう。ってことはこの街道沿いに進んでいけば村なり街なりがあるはずだから、とりあえず移動しようか。イガさんもそれでいいよね?」

「……おう」

「じゃあまずはこっちに行こう。どっちでもそんなに変わらないだろうけど、若干こっちに向かってる足跡の方が新しい物が多いように見えるしね」


 そう言って俺は進むべき方向を指差した。


 こうしてアクリスでの旅が始まった。それも今度は勇者パーティならぬ魔王パーティだ。俺の人生一体どうなってやがるんだか。


 でもまぁ……これはこれで面白いから良し!!


「じゃあ出発だ!!」


 こうして俺達の新しい物語が幕を開けた。

しかしこの男、周りを巻き込むのが大好きである。

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