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帰還 後編

後編ですです。

あ、イガさん無双してない……(汗)

「久しぶり、というべきなのだろうな。コウ=キサラギよ。ところで……どっちだ?」


(どっち? 箸を持つ方が右で茶碗を持つ方が左だが……)


まだ頭がボケているのか、何故かそんなことを考えてしまう。


「う、うーん。久しぶりに飲みすぎたか? 頭がクラクラするぜ……」


と、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。驚いて後ろを振り向くと。


「い、イガさん? え? どういうこと?」

「ふむ、反応からして手前がコウか。となると後ろの男、貴様は誰だ」

「あん? オレか? オレは五十嵐ってもんだが、むしろ真っ黒なてめえは誰だ?」

「真っ黒……面白い男だな。我はヴィエラ。ヴィエラ=ティヴィーだ。魔王などとも呼ばれておるがな」


ヴィエラ=ティヴィー……なんかどこかの黒物家電を連想してしまう。


「珍しい名前だな、外人か? それよりここはどこだ? おいボウズ、お前はコイツと知り合いなのか?」

「あぁうん、話せば長くなるんだけど……」


俺は今までのことをイガさんに話した。


元々この世界で生きていたこと。勇者と呼ばれた幼馴染とともに魔王討伐を目指していたこと。そして魔王と対面した後、堕神に殺されそうに……じゃない。殺されたこと。


話を聞いたイガさんは一瞬俺のことを可哀想なモノを見るような目をしたが、大気中の魔素を感じることが出来るのか、今までいた世界との空気の違い、何より目の前の魔王と名乗るモノを見て、そうそう冗談でもないと理解してくれたらしい。


「で、つまりお前はこの魔王「ヴィエラだ」……ヴィエラに連れ戻されたってわけだな?」

「うん多分、そういうことでいいんだよな?」


イガさんの質問に肯定しながらも、目の前のヴィエラに確認する。というかなんだ? もしかして魔王って呼ばれるの嫌いなのか?


「その回答は是だ。我はコウが死ぬ前に力の一部を譲渡した。無論、転生などという確証のない事象については賭けのようなものだったが、そのまま存在が滅してしまうのであればそれはそれで仕方ない。だが、コウ、貴様はその賭けに勝ったと言ってもいい。まさかここまで早く戻ってくるとは思いもよらなんだ」

「早く? っていっても二十年も経ったんだぞ? 俺としては結構長く感じたけどな」

「む? 二十年と言ったか? てっきり成長の早い種族にでも生まれ変わったのかと思っていたが……それに」

「ちょっと待て、今は俺が死んでから何年後なんだ? 二十年後じゃないのか?」


反応からして、ヴィエラが長命だから短く感じた。というわけではないらしい。流石に死んだ翌日ってことはないだろうが……


「そうだな……我はそれほど一日というモノに頓着はない。だが朝があり、夜があり、また朝が来ることは認識している。おおよそではあるが、貴様が死んでから三年ほどだったと記憶している」

「三年後……ってことはそれほど状況が変わっているわけじゃなさそうだな」


内心安堵する。たった三年ならアイツ等が戦死などしていなければ会えるだろう。約束も果たせるというものだ。


しかし何故イガさんまで連れて来られたんだろうか。どうやら魔力を感じる素養があるようだが、それだけでは説明がつかない。俺はヴィエラにそのことを尋ねてみた。


「正直なところ、我にも分からん。偶然か、あるいは必然なのかもしれんが、想定外であったことには相違ない。イガラシと言ったか、貴様には申し訳ないことをしたが、今は帰す手段も持ち合わせておらぬ。許せとは申さぬが、受け入れて貰いたい」

「あぁ、それは構わない。どうせ天涯孤独の身だ。帰ったら帰ったで師範にはコッテリ絞られるだろうし、最近はボウズに構いっきりだったからな。特に連絡が取れないからって不審がる奴もそんなにいねえよ」

「そうか、感謝する」


イガさんの両親はイガさんが高校生の時に事故で亡くなったらしく、それからは一人で生きて来たんだとか。俺がとやかく言うことではないが、それはそれでとても苦労してきたんだと思う。


「しっかしなぁ……ボウズがこの世界の人間で、しかも一回死んで生き返ったってことは……今二十歳だろ? こっちでは何歳まで生きてたんだ?」

「二十四歳だよ」

「げっ、てことはあわせて四十四歳かよ。オレより九歳も年上じゃねえか。こりゃボウズなんて言えねえな」

「いいよボウズで、イガさんより年上にはなったことないんだからさ」

「てめえ……まぁいい、とりあえずオレにはこの世界のことは全く分からん。ボウズを頼るしかないんだからな。後でこの世界の常識とか教えてくれ」

「分かった。しばらくは俺と一緒に冒険者として依頼をこなして生活費を稼ぐことになると思うから、その辺も説明するよ」

「おおう、冒険者なんてのがあるのか、いいねえ」


やっぱりイガさんも男である。というかこの人以上に男! という感じの人には会ったことがないが。


「ところでコウよ、我が譲渡した力には今まで気付いていなかったようだが」

「え? こっちの世界に渡るための力じゃなかったのか?」


むしろ今の今までそんなこと忘れていた。


「違う。それは我の力を回収するという手段でこちらの世界に引っ張るための副産物に過ぎん。我の譲渡した力は闇属性の属性魔力に変換するための物なのだが……」

「は?」


とんでもない事実を聞かされる。なんだよそれ、もっと早く教えてくれよ!! 二十年間全然気づいてなかったよ!!


と、闇属性への変換を試してみようと思い、魔素を取り込んでみることにした。つっても闇属性か。使ったことないからイメージし辛い。


何をイメージしようかと考えながら、魔素を取り込み続ける。うーん、この感覚は久しぶりだ。地球には魔素がほとんどなかったし、砂が限界まで溜まることもなかったしな。


「お、おい……?」


しかし闇属性かぁ……イメージとしては影とか周囲を暗くするとか。あ、音を消すってのも闇属性なんだろうか。


「おい! コウ!!貴様聞いているのか!!」


あ、アニメで見た空間を削り取る黒球とかもいいな。相手から体力や魔力を吸収したりも出来るんだろうか。


「おい!!!!!!」


なんだかヴィエラが叫んでいる。なんだよ人がイメージ固めるのに集中してるってのに。


「ようやく気付いたか……ところで、貴様……いつまで魔素を取り込み続けるつもりだ?」

「あ、忘れてた。でもまだ取り込めそうなんだよなー」


なんだか知らないけど全然器が一杯にならない。いや一杯にする必要はないんだが、せっかくだから思いっきりやってみたいじゃないか。


「まだ……だと?」

「うん? なんかおかしいのか?」


あ、でもちょっと気持ち悪くなってきた。いや気持ち悪い。なんだこれ。


「馬鹿者!! 一度に魔素を取り込みすぎだ!! とっとと属性魔力に変換して放出しろ!!」


言われるがままにホルスターからベレッタを抜き、属性魔力に変換させる。変換させる属性はイメージし易い火と風の二属性魔法だ。さすがに人に向けて火傷させるわけにもいかないので、銃口を上に向けて引き金を引いた。


--ズゴオオオオォォォッ!!


今までは良くてガスバーナー程度だった魔法がとんでもない熱量を放ちながら上に伸びていく。というよりもこれは一番最初にイメージしたレーザー砲そのものだった。


レーザーは二十秒ほど放射し続け、徐々に弱まっていった。そして完全に威力を失ってから、数秒間立ち尽くす。


「な、なななん、なんじゃこりゃあ!!」


まさに太陽にほえた。いくら魔素が濃いとは言ってもこんな威力の魔法は使ったこともなければ見たこともない。


「貴様……一体今までなにをしてきた」

「何って……前いた世界では魔素が薄すぎて魔法はカスみたいな威力しか出ないし、魔力を練っても練っても大した量にならないからずーっと魔素を取り込んでは魔力に変換してカス魔法を使い続けてただけだけど……」

「ずっと取り込み続けた……? 二十年間ずっとか?」

「いや、そりゃ寝てる時は無理だけどさー。起きてる時はほとんどかな? 器がいっぱいになることもないし、全然魔力にもならないから砂も溜まる前に回復していくし」

「なるほど……いや、こちらの常識ではあり得ないほど器が満たされないからこそ、か。とにかく限界まで魔素を取り込むのは止めろ。貴様の器は今や人間が取り込める量ではない。それを遥かに超えていると言ってもいい」

「え? 俺の器そんなことになってんの?」


今まで全然魔法に威力がなかったから、死ぬ前よりも器が小さくなっているのかと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。


「恐らく、だが。ちょうどいい、そこのイガラシもいることだし我の至った結論を話そう。

このアクリスでは魔法を行使するために、魔素を取り込み、属性魔力に変換し、イメージした形を魔法として放出する。その際器に取り込める量には限界があり、何度か魔法を行使すれば砂が溜まり、いずれ器は一杯になって魔素を取り込むことが出来なくなる。ここまでは知っているな?」

「ああ、もちろんだ。そしてその砂が徐々に流れて器を塞いでいる岩を削って、取り込める魔素量が増えるんだよな?」

「然り。通常こちらで魔法を行使するにはそれなりの魔素を取り込む必要がある。そしてその分、砂が溜まる量もそれなりだ。だからこそ一日に何度も回数を行使することも出来ない」

「俺も前はそうだったしな」


初級魔法なら三十発や四十発は威力次第で打てたが、中級魔法になると五発から威力を落としても十発程度だった記憶がある。


「だが貴様のいた世界では魔素が薄いため、何度でも魔法を行使することが出来た。無論、魔素量が少なく、変換出来る魔力も微々たるものだったからこそ、魔法の威力も小さいものだったろう。だがその分、器に溜まる砂も微量であり、その砂も徐々に流れていく。繰り返し魔法を行使しても溜まった先から砂が流れていくから魔法を使い続けることが出来たと推測する。つまり貴様は寝ている間以外、常に砂を流し続けていたと言っていい。

それが岩を削り続け、本人でも気付かぬ内に器の容量が増え続けていった。というのが我の推測だ。無論、今まで他の世界で魔法を行使し続けてアクリスに戻ってきた者は人間、いや魔族であったとしても聞いたことはないからその是非は分からぬ」

「ってことは何か? さっきのはお前から貰った力とかじゃなく、単に俺の器の容量が増えたからあんな威力の魔法が出たってことか?」

「我の与えた力は先ほども言った通り、闇属性の魔力に変換する素養だけだ。あんな化け物じみた力、出来たとしても自身を脅かすだけ故、与えはせぬ」


--無駄じゃなかった。


今まで不安もあったからこそ剣術にも必死に打ち込んできた。アクリスに戻ったとしてもこんな魔法では魔法師としてはやっていけないだろうと思ったこともあった。


だが実際には違った。意味はあった。成果はあった。


明らかに前より強力な魔法が使える。剣術にしてもイガさんほどではないにしろ、それなりの技量がある。


今なら、今の俺ならアイツ等と再会しても恥ずかしくない仲間でいられる!


そう思い、俺は昔の仲間と再会すべく。旅を始める決心をした。


「おーい、魔法については分かったんだよ。俺のことも忘れんな?」


あ、イガさんいましたね。忘れてました。


「お前マジでオレのこと忘れてただろ」

「てへっ」


強烈な拳骨が俺の頭を襲う。そして近くで呆れたような溜息が聞こえた気がした。


と、ともかく、今日から新たに冒険の日々が始まる。


仲間との再会と、いずれ来る倒すべき敵との戦いに向かって。

さーて、次の展開考えなきゃーorz

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