レインVSフラッグ
つい新作の方を書いていたらこっちも書きたくなったので書いてしまいました。
こんな感じで意欲が湧いたら書くスタンスになると思います(ゴメンネ)
新作側は基本的に毎日更新中です(二日空いちゃったけど)
https://ncode.syosetu.com/n7222eh/
こっちもよろしくお願いします。
--圧倒的、だった。
レイン爺さんの動きが悪いとは思わない。
実際にフラッグという仇敵を目の前にした為か、気力は十分に漲っていたし、剣にもそれが反映されていた。
とは言っても俺やレイン爺さんの剣術は、いわば静の剣。気力が充実しているからといって、それを剣に乗せるものではないが。
もう一度言う。レイン爺さんの動きが悪いとは思わない。いや、思えない。
俺と修行している時とは違い、実戦--相手を殺すための剣を振るい、それは実際にフラッグの身体のあらゆる場所を切り裂いていく。
その姿はまさに剣鬼と呼んで良いほどだ。
イガさんの様に一太刀で相手を屠る剣技とは異なり、的確に相手の急所を狙いつつ、相手が急所を庇ったところで、四肢の機能を奪っていく。
まるで剣術のお手本の様な流れる剣舞だった。
だから俺は少し拍子抜けしてしまった程だ。このままレイン爺さんがフラッグを倒してしまうのではないかと。
ひょっとしたら俺やイガさんが戦うまでもなく終わってしまうのではないかと。
けれど相手は流石と呼ぶべきか。やはり堕ちても神だった。
物理的な傷は即座に修復され、一時は機能を失った身体も立ちどころに回復してしまう。
理由は一つ。レイン爺さんが使っている剣は、きっと名のある剣なのかもしれないが、それでもただの剣でしかない。
俺達のように聖剣や魔剣といった、精霊を宿した獲物ではない。
俺だってそんなもの、ただの武器の優劣でしかなくて、勝負の優劣を左右するものではないと思っていた。
この目で今の光景を見るまでは。
「ハハハハハ!! どうしたんだいレイン、もう終わりかい?」
「フラ--ッグウゥウウ!!」
レイン爺さんが怒気を飛ばす。だけどそれとは裏腹に、剣はただ静かに相手を切り裂いていく。
「まだ続けるのかい? 無駄だって分かっているんだろう? そんな鈍らじゃボクは殺せないよ」
「黙れ!!」
この場にいる誰もが理解している。レイン爺さんがいくらフラッグを切り刻もうとも。
一見圧倒的な優勢に見えるこの剣戟の果ては--
「いい加減出し惜しみは止めなよ。あるんだろう? 君の魔剣--サニーがさ」
「黙れと言っている!!」
自分と同じ名前が出た為か、俺の隣にいるサニーの身体がビクンと反応した。
恐らく、というべきか。きっとそういう事なんだろう。それがどういう経緯の果てのものかは分からないが。
「いいさ、キミがあくまでも使わないというのなら--ただ殺すだけだよ」
「くっ!!」
対するフラッグはいつもの手刀で応じる。
それは決して早くもないし、避ける事は苦にもならない。
だけどレイン爺さんがフラッグを斬るタイミングで繰り出されては、回避が一拍遅れてしまうのは誰にも責める事は出来ないだろう。
普通の相手なら、自分の身体を捨ててまで攻撃してくるなんて事はないのだから。
「ほらおいでよ。キミがボクを斬る度に、首を斬り落とす度に、ボクはキミに一つかすり傷を付ける。それだけさ--ただそれだけの事なのに、もうキミはそんなにも傷だらけじゃないか」
そう、既にレイン爺さんの身体はボロボロだった。四肢は無事だし、致命傷はない。
だけど塵も積もれば、だ。
幾百の攻撃を加えた結果、フラッグは無傷。レイン爺さんはズタボロ。一体なんの冗談かと思うくらい、圧倒的な差がついていた。
今は怒りの為か動きは鈍っていないが、いずれは血を流しすぎて身体が動かなくなるか。それとも心が折れて動きが止まってしまうか……いずれにしても、このままではフラッグを倒せるイメージが見えない。
「レイン爺さん。これ以上は--」
「コウよ、止めてくれるな。ワシとて分かっておる」
「だったら!!」
言いたくはない。決して言いたくはない。
だけど分かってしまう。この戦いは無駄に終わってしまうと。
レイン爺さんの戦いは、フラッグにとってただの時間の浪費でしかない。時間稼ぎであればまだいい。意味はあるのだから。
けれど俺達の戦いは時間を稼いで何かが変わるものではない。だから無駄でしかないのだと。
「この……ィ」
「サニー?」
サニーが急に何かをぶつぶつと呟き始めた。レイン爺さんの事が心配でおかしくなってしまったんだろうか。
「この……クソジジイ!!」
「え?」
「サ、サニーちゃん?」
いきなりサニーがレイン爺さんに向かってクソジジイ呼ばわりをした。
流石にこの展開は予想していなかったので、俺もレイン爺さんも固まってしまう。
「ふざけないで!! どう見てもこのままじゃ無駄死にじゃない!!」
「い、いやワシは……」
「何か方法があるなら使いなさいよ!! 私の事を気にしてるのかなんなのか知らないけど!! 私だって邪魔になるためにここまで来たわけじゃないんだから!!」
サニーさんブチギレである。
俺はバレないようにそっとサニーから距離を取った。だって声大きいし怖いんだもの……
「それに、私だってなんとなく分かってるわよ。自分の事なんだから」
「まさか……」
レイン爺さんが目を見開き、サニーを見つめる。それは一体どういう事なのかと問うように。
「おかしいとは思ってた。先生に教わるまでは--違う。本当の魔法を見るまでは全然魔法なんて使えなかった私が、魔法を見ただけで魔法を使えるようになった事も。その魔力の流れが見える事も--」
サニーが独白する。フラッグですら興味深そうにサニーを見ている。どうやらこの隙にレイン爺さんに襲い掛かる、なんて事はなさそうだ。
「自分の身体を流れる魔力がおかしい事も、もう知ってる」
「サニー、それは--」
「--剣、なんでしょう?」
サニーは自分の胸に手を当て、そう言った。剣なのだろうと。
「この身体は先生のビゼンと同じ、仮の姿。本当は私も剣なんでしょう。きっと」
「……」
辺りを静寂が包み込む。
「だったら、だったら今使わないでどうするのよ!! このままジジイが死ぬのを黙って見てろって言うの!? そんなのまっぴら御免よ!!」
「サニー……」
「だって--」
サニーを大きく息を吸い込み、そして--
「自分の父親が死ぬのをただ見てるだけだなんて、そんな事出来るわけないじゃない!!」
「サニー、よく言った」
俺はサニーの意志を認めた。同時にレイン爺さんがもっとも求めていたであろう、父と呼んだ事も合わせて、だ。
「爺さん。娘にここまで言わせて、あんたはまだ続けるつもりか? 違うだろ?」
「コウ、サニー……そうじゃな。その通りじゃ」
「ふうん、剣が娘、ねえ。しばらく会わない内に面白い事になってるじゃないか」
お前は黙ってろ。それにしても自分の楔となるサニーがここにいるというのに、サニーに対して何もする気配がない。
……妙だな。
「ならばワシはそれに応えよう。魔剣サニーよ、再びこの手に--」
レイン爺さんはサニーに手を向け、契約の言葉を結ぶ。
その言葉に応えるかのように、サニーの身体が光り輝いていく。
「そして今一度レインの名において命ずる。我が--いや、コウ=キサラギの剣となり、神を断つ剣とならん事を!!」
「え……?」
俺? なんで……
「チィ、やってくれたなレイン!!」
「ふん、貴様の考えなど……お見通し……じゃわい」
輝きを放ちながらその姿を剣へと変えていくサニーに目を奪われていた俺達は、レイン爺さんへと視線を向けた。
そしてそこには--
--フラッグに身体を貫かれたレイン爺さんの姿があった。
「貴様の……事じゃ、どうせワシがサニーを手にした瞬間に……砕くつもりだったんじゃろうが」
「そりゃあそうさ、サニーの隣にはコウクンがいたんだから簡単には手を出せないしね。まったく、老いたと思って油断したボクがバカだったよ」
「ふふ……ざまあみろ」
レイン爺さんはニヤリと笑い、俺に向き直る。
「コウよ、そういうわけじゃ……サニーちゃんを、頼むぞ」
「爺さん!!」
「サニーよ、長い間すまんかった。そしてお前を置いて逝くワシを許してくれ……」
あれは致命傷だ。レイン爺さんは助からないだろう。
それを自分で分かっているからこそ、サニーを俺に託そうとしたのか。
『クソジジイ!!』
「サニー、頼んだ……ぞ」
『嫌だ……嘘だって言ってよ、ねえ!? 今から二人でアイツを倒すんでしょ!?』
剣へと姿を変えたサニーが悲痛な叫びを上げる。だがレイン爺さんはそれには答えない。
いや、答える事が出来なくなっていた。
『お父さああああん!!』
サニーが剣の姿のまま、地に倒れたレイン爺さんへと寄り添う。
--その時だった。
「あれは……」
「これは一体、何が起きている!?」
フラッグの焦った声が聞こえる。
まったく嬉しくないが俺も同じ気持ちだ。あれは一体何が起きているんだろうか。
サニーがレイン爺さんに触れた瞬間、レイン爺さんの身体が光り始めたのだ。
『これは……ワシは一体--』
「爺さん……なのか?」
まるで精霊が語りかけてくるかの様に、頭の中にレイン爺さんの声が聞こえて来た。
『そうか、サニー。これはお前の--』
『お父さん?』
サニーはサニーで何が起きているのか分からない様子だった。
もはやレイン爺さんの事もクソジジイではなく、お父さんと呼んでいる。
『ほっほっほ、長くも生きてみるもんじゃのう。てっきりワシもただ老いていたわけではなかったようじゃわい』
「えっと、どういう……?」
レイン爺さんはいつもの調子を取り戻したかのように笑う。
『コウよ、先ほどの続きじゃ--魔剣サニーはワシの命によってお主の剣となった』
「あ、ああ」
『ついでで悪いがもう一つじゃ--コウ=キサラギよ。魔剣レインの名において問う。お前にワシと契約する覚悟はあるか?』
「魔剣……レイン!?」
それってつまりこういう事か? レイン爺さんも魔剣になったって?
え? どういう事? 全く意味が分からない……
だけど。
だけど爺さんが力を貸してくれるって言うんなら--
「当然だ!! 爺さん、俺に力を貸してくれ!!」
--こんなに心強い事はない!!
『--ここに契約は成った。我が名はレイン。精霊の盟約に従い--いや』
契約の詔が中断される。
『魔精霊、といったところかのう。どうやらワシは普通の精霊とはならんかったようじゃ。ま、ええじゃろ』
「魔精霊……?」
普通の精霊とは違うんだろうか。
『ワシとサニーはコウ=キサラギを主と認め、其の存在が滅する時まで力を与えよう。我は水。我は剣を司る魔精霊なり。そしてサニー--』
『ええ、我は闇。我は魔を司る精霊なり。コウ=キサラギを主と認め、其の存在が滅する時まで力を与えよう』
だからなんでサニーなのに闇になるんだよ!! 今更だけど色々おかしいだろこの世界!!
思わずツッコんでしまったが、それよりも二人がまた俺の傍にいてくれるというのは何よりも嬉しい。
例えその身体を剣に変えたとしても--
「魔剣レイン、魔剣サニー。俺は二人を受け入れる。俺に力を貸してくれ!!」
『『契約は成った!!』』
レイン爺さんとサニーが一際大きく輝き、今まで人の形を保っていたレイン爺さんも剣の姿へと変わっていく。
そしてサニーの姿が一回りほど縮み、二つの光が俺の手へと収まった。
「これは……」
俺の手に握られていたのは、今までビゼンを変化させていた小太刀と同じ形状だった。
『コウよ、娘共々よろしく頼むぞい』
『先生、よろしくお願いします』
「二人とも……ああ!!」
右手に魔剣レインを、左手に魔剣サニーを握り、感触を確かめる。
驚くほど手に馴染むと同時に、身体に力が漲って来る。
試しに素振りしてみたが、まったくと言っていいほど違和感がない。
--これならいける!!
「バカな……いくら魔族とは言え、精霊化するだなんて知らない!!」
「残念だったなフラッグ。サニーはこの通り無事だ。それにレイン爺さんもここにいる。悪いがお前には負ける気がしない」
「この……どこまでもボクの邪魔ばかり……!!」
「さあ、年貢の納め時だ。覚悟しやがれ!! お前は俺が--」
「おい坊主、オレの事も忘れんなよ?」
「俺達がぶっ倒す!!」
……すいません忘れてました。
二対一だからって卑怯だなんて言わせない。なんせ相手は神なんだからな。
--さあ、最後の戦いといこうか。
出来れば頑張って完結させたいなぁ。
でも二つ同時並行ってなかなかアレなんだよなぁ(自業自得)




