守るべきもの
さて、記念すべき? 100話目は、ところ変わって残った人達の物語です。
二話の予定です。
「みんな、なんとしてもここを守りきるんだ!! 辛いだろうが頑張れ!!」
私は押し寄せてくる魔物の大群を前に、王都の入り口を守る冒険者達に向けて檄を飛ばす。
私自身も既に多くの魔物を倒してはいるが、いつまで経っても止まる気配がない。
それどころか、徐々に魔物が強力になってきており、もはや中級程度の冒険者一人で立ち向かうことすら困難となっているようだ。
いくら魔物を倒せたとは言え、生物を斬ることは体力ももちろんながら、気力をも疲弊させていく。
それが狙いだとして、序盤に弱い魔物を向けてきたのであれば、敵ながら相手を認めざるを得ない。
--もっとも、弱者を捨て石にするようなやり方は認めるわけにはいかないが。
「ヒース!! 怪我人は出来るだけ前線から外せ! 軽傷のうちに治療を受けさせるんじゃ!!」
「わかっております! 団長!!」
少しずつ増えていく負傷者が気にかかったのか、団長からの指示が飛ぶ。
こうして騎士団と冒険者達が共に立ち向かうのは初めてではない。かつて王都が半壊した際にも戦力を総動員し、王都を守るために皆戦った。
が、それはあくまで騎士団と、冒険者が王都を守るために戦った。というのみであり、実質騎士団との連携はなく、同じ志ではあるのに、適材適所に人材を振り分けることすら出来なかったのが非常に悔やまれた。
結果、キサラギ君達の活躍によって王都は守られたが、彼等は既に最後の戦いに向かっており、救援は期待すべくもない。
いや、そもそもギルドの長である私や、騎士団の団長であるダンカン殿がこの王都を守っていかなければならないのだから、彼等を頼るのは筋が通らないだろう。
もちろん、彼等にこの状況を伝えれば、誰かが駆け付けてくれるかもしれない。
だがそれではこの王都は英雄に守られるだけの都市となってしまう。それでは意味がない。
--私達の家は、私達の手で守るべきなのだ。
「アイラ! 怪我人の治療は頼む!!」
「任せて! 私だって勇者パーティの一員なんだから!!」
アイラはキサラギ君達と出会ってから強くなった。
以前は典型的な中級冒険者達のパーティで活動していたが、そもそもそれは姉のアイサが引き合わせてのことだ。
アイラ自身は回復に特化した典型的な白魔法師だ。
だがその能力は高い反面、今の冒険者達はある程度攻撃魔法、回復魔法と使うことが出来るため、どちらかと言えば黒魔法師の需要が高いこともあり、攻撃魔法が苦手なアイラは自分に自信が持てなかった。
加えて、そのパーティはそれほど危険な魔物とは戦うこともなく、重傷を負うこともなかったので、彼女が活躍する場所はなかっただろう。
当然怪我がないに越したことはないが、冒険者たるもの、一度は限界を見極めるために、一つ上の段階に挑戦して欲しい。という思いはあったが……
いや、今はそんなことを考えても仕方ない。
とにかく一匹でも多くの魔物を撃退し、早く皆を安心させなくては。
やはり先ほど思案した通り、徐々に強力な魔物が前線へと出てくる。
もはやまともに戦えているのはベテランの冒険者パーティや、連携を取っている騎士団。個人で言えば団長に私、それにアイサくらいのものだ。
--そういえばアイサの姿が見えない。
「アイサ! どこにいる!!」
彼女は気配を消すことに長けている。とは言え、近くにいて気付かないとも考えづらい。
……まさか!?
私は遅い来る魔物を蹴散らし、群れの中へと飛び込んでいく。
私の考えが確かならば、魔物を統率している存在がいるはずだ。
基本的に知性に乏しいと言われている魔物の群れにしては、襲撃の順番、タイミングなどが何者かの指示によって行われている。そう思えてならなかった。
聡明な彼女のことだ。私と同じ結論には既に至っていたのだろう。そして隠密行動を得意とする彼女が取るべき行動と言えば……
「アイサ!?」
やはりそうだ、魔物の群れの後方に見えるのは、見たこともない魔物。
決して巨大というわけではない、が、見るからに強敵であると分かる存在感がそこにあった。
その姿は人の形をしていた。
だが、明らかに異形と分かる、ドラゴンのような翼。鱗に覆われた身体。
そして何よりその圧倒的な存在感。
団長と二人がかりでかかったとしても、私達が勝利する光景は浮かんでこなかった。
そしてその足元にはアイサが倒れている。息はあるようだが、魔物が見逃してくれると思えない。
「くっ! アイサ、間に合え……っ!!」
私は全力で走った。アイサだけは失うわけにはいかない。
例え彼女の心が他に向いていようとも、せっかく彼女は自分の意思で歩き始めたばかりなのだから……!!
全力で走った甲斐があったか、なんとかアイサを抱き上げ……
「ぐふっ……!」
背中から言葉に出来ないほどの衝撃が私を襲った。
なんとかアイサだけは落とすまいと、必死で抱き抱え、倒れこむように駆け抜ける。
だがそこまで、身体の内部をぐちゃぐちゃにされてしまったかのように、激痛が絶え間なく襲ってくる。
痛い。力が入らない。このまま眠ってしまいたい。
けれど、この腕には最愛の人がいる。
だからどんなに痛くても、辛くても、倒れるわけにはいかないのだ。
よろよろと頼りなく立ち上がり、槍を構え、彼女の前に立ちはだかる。
「ここは、ここだけは通さない……っ!!」
私にもっと力があれば、彼のような力があれば。
悔やんでも仕方がない。羨んでも意味がない。
ここには私しかいない。彼女を守れるのは私しかいないのだ。
ならば私がやるしかないだろう。
「さあ来い!! 死んでも彼女の元には行かせない!!」
私の叫びに反応したのか、あの魔物がこちらを睨み付ける。
恐らくは威嚇なのだろう。それだけで圧力に屈しそうになるが、今の私には通用しない。
それが気に入らなかったのか、魔物がこちらへと近付いてくる。
きっと私の元へ到達した時点で、私の命は潰えるのだろう。
私は槍を構え、魔物を待ち受ける。
否、待ち受けるのではない。もう身体が動いてくれないのだ。
立っていることが精一杯。事実、どんなに身体に命令しても動く気配はない。
一歩、また一歩と、死が近付いてくる。
だが決して屈することはしない。目は反らさない。構えた槍は下ろさない。
さあ来い。死体となっても貴様を通しはしない。
「ったく、そんな死に急ぐこともねえだろうに」
魔物が言葉を? そう思ったが、声のした方向が違う。
振り向くことは出来ないが、確かに後ろから声がした。
「まあ近頃の若いもんにしちゃ上出来だ。男はそうでなくっちゃいけねえ」
どこかで聞いたことのある声。聞いたことのある乱暴な話し方。
そんなはずはない。彼は今キサラギ君と共に……
「気に入った。だからオレが助けてやる。良かったなニイちゃんよ」
自信満々に、それでいて尊大に彼はそう言い放った。
だが私のことが分からない、ということはやはりイガラシ君ではないのか?
「チッ、そこの鱗野郎。何オレに向かって殺気なんざ向けてやがんだ」
だとしたら誰だ? 私の知る限り、そこまでの実力者は……
「グガアアァァァアア!!」
私のすぐ傍で魔物が吼えた。
これは威嚇、ではない。まさか彼を警戒しているのか?
「クソが、うっせえんだよ。まあいい、テメエはオレに殺気を向けた。つまりオレを殺そうってんだろ? だったら--」
背後で剣を抜く音がした。
「殺すぜ」
その台詞に、私は何故か安堵を覚えた。
そうだ。あまりにも彼と似すぎている。
キサラギ君と共にやってきた。聖剣の勇者と並び、恐らくは大陸一と呼んで良いであろう異邦の剣士。
それに先ほど言っていた弟子という言葉も気にかかる。
だからまだ、私は気を失うわけにはいかなかった。
まさかこの方の視点になるとは思ってなかっただろうHAHAHA
はい、私も書く寸前に決めましたすいません。




