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シュウヤとトモヤ

 アスファルトの道の右にはスイカ畑、左には森。

 ぼくはこの道を、段ボール箱を抱えて歩いていた。

 手ぶらで家を出たぼくは、集落を抜けてすぐのところにある納屋でこの箱を拾った。箱の中身はのこぎりとか金づちとかの工具。全部ぼくが用意したものだ。でも納屋はうちのものじゃない。近所の農家のうちのものだ。

 だけど、中を見てみたら古くて壊れた農具しか置いてなかったし、この納屋自体壁に穴開いてて屋根もはがれてる。きっと持ち主も今はこんな納屋なんか使ってないんだろう。だからぼくは――本当はいけないことだって分かってるんだけど――この納屋の隅っこを、倉庫としてこっそり借りていた。

「よい、しょ……と」

 道端の雑草をまたいで森に入る。舗装されてない、むき出しの土にかかとが沈んだけど気にしない。段ボール箱を落とさないように気をつけて抱え直して、ぼくは目的の場所に急いだ。

 道から少し森に入ったところに、ぼくの目的――木は立っている。大きくて太い枝が二本、地面とほとんど水平に、しかも同じ方向に伸びている木だ。ぼくは段ボール箱を根元に置くと、近くの茂みに隠してあった板を幹に立てかけて、木によじ登った。

 二本の枝の間には板が渡されている。板は枝に釘で打ちつけられていて、二畳くらいの床になっている。

 床を作ったのはぼくだった。先月から少しずつ、木の上に板を運んで、木の上に床を作ったんだ。これからもう一枚、板を並べたら完成だ。そうしたら今度は壁を作って、屋根も作る。

 ぼくはここに、ぼくだけの秘密基地を作るんだ。

 枝の上から手を伸ばして、幹に立てた板をつかむ。引っ張り上げて枝に渡して……その時ぼくは、ぼくの方を見てる人がいることに気がついた。

「お前、何やってんだ?」

 同じクラスの、隣の席の、トモヤだった。

「え、トモヤ、何でここに……?」

「畑から見えたんだよ、シュウヤがでかい荷物持って歩いてるのが」

 どういうこと? と聞きかけて、思い出した。トモヤの家は農家だ。道路を挟んで反対側は、全部トモヤの家の段々畑なんだ。

 そうか、見られてたんだ……。

 ぼくは何となく恥ずかしくて、トモヤの顔を見ることができなかった。こんなところで誰かに、しかもクラスメイトに会うだなんてちっとも思わなかったから。

「べ、別に……何でもないよ」

「何でもなくねーだろ、結構大がかりなことしてるじゃん」

 トモヤの言うとおりだ。木の上に床を作っておいて、何でもないわけがない。

「その板どうしたんだよ。お前んちから運んできたの?」

「う、うん……」

「お前んち父ちゃん、大工か何かだっけ」

「違うよ。うちのお父さん、趣味で日曜大工やってるから、余った板をもらってるんだ」

「へー。なあ、オレもそこ登っていい?」

「え、い、いいけど」

 ぼくがうなずくと、トモヤは幹のこぶに手をかけて軽々と登ってきた。タカアキたちと話してるのを聞いてると、いつもはテレビゲームばっかりやってるみたいだけど、意外と木登りもできるアウトドア派みたいだ。

「おっ、ちゃんとしてるじゃん」

 トモヤがジャンプしても床はびくともしない。

 大きく息を吸って、はいて、覚悟を決めたぼくは言った。

「秘密基地……作ってるんだ」

 ぼくは四人兄妹弟の一番上だった。妹と、妹の下には双子の弟たちがいる。お母さんは何かにつけてまだ赤ちゃんの弟たちを優先するし、その度にぼくはがまんをしなきゃならない。弟たちが花びんを倒しても片付けをするのはぼく、弟たちが遊んだおもちゃの片付けもぼくがしている。それもこれも、ぼくが『お兄ちゃん』だから。『お兄ちゃん』はしっかりしてなきゃいけないんだ。

 そんな『お兄ちゃん』でいることに、ぼくは少しだけ疲れちゃった。だからぼくは、家の中じゃない別の場所に、ぼくだけの居場所がほしかった。だからぼくは、ここに秘密基地を作ろうとしたんだ。

 だけど四年生にもなって秘密基地だなんて、やっぱり恥ずかしい。そんなの、幼稚園児がするコドモの遊びだし、トモヤにもバカにされるんじゃないかって思ってた。だからこのことは仲良しのサトルにも内緒にしてた。

 でも、トモヤは。

「お前、面白いことやってんじゃん」

 って言ったんだ。

「……面白い? コドモっぽい、って思わないの?」

「そりゃあ、穴掘ってビニールシートしいて『秘密基地です!』なーんて言われたら幼稚園児かよって思うけどさ。お前のは、こんな家なんか作っちゃって、すげーじゃん!」

「まだ床だけだけど」

「でも屋根まで作るんだろ?」

「もちろん」

「すげーよ! 木の上に家とか、かっこいいよ!」

「そ、そんなことないよ」

 一応ケンソンしてみたけど、でも、ぼくはトモヤの言葉がすごくうれしかった。『お兄ちゃん』のぼくじゃなくて、ぼく自身をすごいって言ってくれた。ぼくのことをそう評価してくれたことがうれしかった。

 しばらくは床から下をのぞいたり逆に見上げたりしていたトモヤだったけど、「そうだ」と言うとぼくの方を振り返った。

「知ってるか、シュウヤ。この山、うちの土地なんだ」

 ぼくはうなずく。

「知ってるよ」

「ってことは、お前が秘密基地を作ってるこの木も、この場所も、オレんちのものだ」

 確かに、言われてみればそのとおりだ。ぼくはトモヤの家の敷地の中に、勝手に秘密基地を建設中……ということになる。

「ええと、つまり……何が言いたいの?」

 ぼくが首を傾げると、トモヤは笑顔でこう言った。

「オレも入れてくれよ、秘密基地!」

 地主(の息子)の申し出を、ぼくは断ることができなかった。断る理由もなかった。

「もちろんだよ!」

 だけど、ひとつだけ条件があった。

「でも、約束があるんだ」

「分かってるって。みんなには内緒なんだろ?」

「そう! だってここは」

 ――秘密基地だから。


 かくして、隣の席同士のぼくたちは、共通の秘密をもつことになった。

 誰にも内緒のぼくたちだけの場所。

 シュウヤとトモヤの木の上の秘密。

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