X
私はある用があって館に来ていた。用について、詳しくは言えない。
この館には噂があるので、私は館をまわりながら語ることにする。
私は扉を開けて寂れた洋館に一歩を踏み入れた。
まずこの館には噂がある。それは「この館は人を喰う」と言う噂であるが、抽象的でどこにでもあるような噂である。実際は、館の寂れた外見から勝手に想像され一人歩きしたのだろうと、容易に想像できる。普通の人は寄り付かないし、寄りたくもないと思うだろう。こんな所に入るのはそれを逆手にとったホームレスか、浮浪者くらいだ。
そして、中央を上らず左から上ると廊下が一直線に続いている。赤いカーペットは薄汚れていて血が乾いたようにも見えてくる。
しかし、この館も最初からこんなに廃れていたわけではない。最初は人が住んでいた。もちろん、館に住むようなそれは裕福な家庭だったらしい。しかし、ある時娘が首を吊って死んでいた。両親は嘆き悲しみ途方に暮れ、そのまま娘の後を追うようにして、死んだという。その部屋には一冊のノートがあり、そこには娘の不幸が書き連ねられているとも噂されている。
廊下を進みある部屋にたどり着く。部屋の窓にくっつけるように机があり、その机には噂通りノートが一冊、机の縁と平行になってそこに佇んでいた。手に取ってみるとノートには裏も表もなく、どちらから読めばよいのか迷った。しかし右開きが普通だろうと思い、私はノートをひろげた。するとそこにはこう書いてあった。
「私は洋館に入ると即座に暖炉を求めて部屋を乱雑に開けては薪になりそうなものを集めていった。その途中でこのノートを見つけたのである。私は不意に何が書いてあるのかを知りたくなって、ページをめくると白紙であった。なんだ、と私はノートを薪材として持って行こうと振り返った」
しかしあのノートにはそんなものはかかれていない。私には確証がある。なぜなら……。
振り返った所で文章は止まっていた。次のページをめくると、その文章もまた、振り返った所で終わっていた。次も、その次も。振り返って、何があったのだろうか。いや、そもそも何故「振り返った」以前までこのノートに書いてあるのだろうか。振り返った先に、何があったのか。そこで私は急に、何か薄ら寒い感じを覚える。背後には、人の気配があった。私はゆっくりと、後ろを振り返った。
「私は最近頻発しているホームレスの行方不明が、噂の洋館にあるのではないかと思い捜査に来た。洋館は思いのほかボロい。昔娘の自殺をきっかけに後追い自殺した家だと聞いた。それ以降だれも近寄らない内に廃れていったのだろう。私はふとその娘の部屋に興味を持ち、行ってみることにした。噂なのだから、あるはずもないだろう。そういう感じだった。しかし、噂は真実であった。そのノートを観察した後右からめくると、薪材にしようとした男の話が載っていた。そして数ページほどめくり、私はゆっくりと振り返った」
最初に言った言葉を訂正しよう。ホームレスと浮浪者。そして稀に警察が入ってくるようだ。
どうでしたでしょうか? 個人的にはバレないかな? と若干の自信を持っていたりします。実は改行で視点が変わっていました。お気づきの方、完敗です。気づかれなかった方、残念です。まあ口調が一本調子なのでわからないかもしれませんね。次回からはもっと精巧にやりたいと思います。
感想や批判がありましたら書いてくださると嬉しいです。