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はるまげどん

「降参!まじ勘弁!おじさん達死んでしまいます!」

「「ええぇー~~!!」」

ステラとスズメ、二人の不満そうな声が同時に響く。

「せっかく久しぶりにいっぱい闘えると思ったのにー!」

「せっかくだからお嬢様に人間との戦い方を覚えさせようと思ったのに。」

二人それぞれの腹黒い思惑をこめて男達に不満の視線をぶつける。

しかし当然と言えば当然だが、男達はだらだら冷や汗を流しながら曖昧な笑いを浮かべるだけだ。

「いや……、あんたら何しに俺らのところきたんですか……?」

「退治しに!」

「お嬢様が行くから仕方なく!」

ステラはともかくスズメが胸を張る理由がわからない。

「じゃあもうそっとしといてくださいよぉ!?大人しく捕まるから!!ね?もう普通のおじさんに戻るから!!」

未だにやる気満々の二人に盗賊頭は泣きそうな声をあげた。

「いや、でも正直二、三発ボコらないと退治した気にならないというか、下手したら退治するよりよっぽどそっちが目的というか。」

ステラはポキポキ指を鳴らしている。

期待するような瞳でそんな道徳的にまずい事を言われても困る。

しかし彼女を止めるべき従者は彼女に拍車をかけてこれで終わらせる気がないようだ。

「どうせ捕まえるんだから結果は同じです。ふん縛って自警団か憲兵に突き出される前に死にはしないけど気絶するぐらいのダメージを与えられる攻撃の練習台になりなさい。」

「あ、あんたさっきまでめんどくさそうにしてたじゃないか!?」

「どうしていきなりやる気を急速チャージしてるの!?俺達の見てないところでウィダーでも飲んだ!?」

「ふぅ。貴方達のような不細工に繊細な女心を理解できるわけないでしょう。」

「鼻で笑われただと!?」

腕を組んで男達を見回すスズメの目には慈悲というものが決定的に欠落している。もともと感情が欠落しているような奴だが。

「あ、あんたら鬼か……!?」

「「まあ、似たようなもんかな。」」

「「「「「ど畜生!!」」」」」」」

二人で声を揃える主従の、こんなときだけの息のぴったり具合に盗賊達が泣いた。

ステラは当然のように闘る気満々で近付いていくが。

どうやら彼女に捕虜に対する人権保障の条約は通じないらしい。過激派並みにタチが悪い。

「ま、待て待て!な?話せばわかる!」

へっぴり腰になりながらお頭はステラを制止するが、そんなことでは止まらない。

「手加減って言うけど、具体的にはどうすればいいの?」

とりあえずスズメに教えを請うている。

勝手に話を進めていく二人に男達は絶望的な苦悶の表情をしている。

「お嬢様の四肢は全部余さず凶器の枠すら超えた馬鹿力の破壊兵器なので、刺したらいいだけの剣の方が手加減が楽だと思ったのですが、いきなり文字通りのぶち壊しですからね。プランが崩れました。帰りたい。」

ステラの手足に男達の恐怖の注目が集まる。

振った剣を破壊するほどの信じられないパワーである。スズメの言葉もあながち嘘ではないだろう。

「素手だとお嬢様のパワーが小細工なしで振るわれる訳ですが、何の用意もなくていいので、まあ便利ではあります。仕方ないのでお嬢様には殴った相手が死なない程度の攻撃の仕方と力加減を練習してもらいましょう。」

「待てーーッ!?」

盗賊一同仲良く顔を真っ青にして叫びをあげる。

スズメの言葉は裏を返すと、盗賊達じっけんだいには生死の危険が伴うということである。

それは叫ぶだろう。

実際、すでにステラのパワーの犠牲になった剣の破片が散乱しているわけであるし。

『お嬢様が加減に失敗するとおっさん達は死んじゃうかもしれないけど、私達はあんまり困らないから頑張ってそっちで死なないように。気張れ。』

盗賊達にはこういう要求が突きつけられているわけである。

正直可哀想だ。

「よっし!そうと決まれば早速いってみよー!?」

説明を聞いたステラが腕をぐるぐる回しはじめる。

この人には加減をしろという部分が聞こえていなかったのだろうか?

「タイムッ!タイムッ!あの人、殺る気満々じゃないですかっ?!何コレ熊と闘うための修行!?」

「……お嬢様、“加減”の練習をしてください。私、汚いおっさんの頭が花火になるところなんて見たくありません。」

表現に困るぐらい切羽詰まった様子でステラを指差し抗議する盗賊頭の言葉は、珍しく聞き入れられた。

スズメの声は相変わらずだが、呆れているようにも聞こえるのは気のせいだろうか?

「とりあえず、明らかに死ぬような威力で攻撃しても貴重な資源の無駄なので、そこの木を攻撃してみてどんな攻撃方法にするか決めましょう。」

「し、資源ってあんたら人の事を何だとっ?!」

「あー、はいはい。さっさといきますよ。一応は死なないように気を使われてるんだから感謝しなさい人間風情。」

スズメさんの言葉から一辺の慈悲も消えました。

もの凄く身勝手で尊大である。ようするに理不尽。

「木なんか相手にしても楽しくないのにー。」

練習プランにステラも不満げだ。男達に未来はあるのだろうか。

「家を出てきたのはお嬢様なんですから仕方ありません。これからの貴方には必要な能力です。さっさと身につけて下さい。」

とりつくしまもないスズメに、様々な思惑をこめた全員の視線が集まる。

しかし、やはり彼女の無表情と決定は覆せない。

「小細工はまあ後にして、とりあえず木、殴ってみて下さい。目一杯手加減してですよ?」

スズメは大人の男性が手を伸ばして一周できるかどうか程度の木を指差す。

このサイズの木が街道の脇にまばらに生えていた。

「お嬢様は格闘は得意分野でしょう?」

「しょうがないなあ。そう、なんだかんだ言っても私殴ったり蹴ったりが一番得意なんだよねー。まあ見ててよ。手加減ぐらい朝飯前ですからっ!」

手首と足首と何故か首までぷらぷらさせながらステラは木の前に立った。ムエタイでも始めるつもりなのだろうか彼女は。

「美少女の口から出ていい特技じゃないですね。……あと後半のその台詞は思いっきり失敗フラグですよ?」

相変わらず腕組みをして好きな事を言っているスズメが次はなにを言い出すのかに若干ビクビクしながら、盗賊達も固唾を飲んでステラを見守っていた。

「うーん…こんなもんかなあ?よっ。」

ステラはわりとあっさり木にパンチをしてみた。

例えるなら友達の肩を遊びで殴りつけるぐらいの強さ…には見える。

が、しかし…

「うげえっ!?」

爆発でも怒ったように打撃点が吹き飛び、衝撃にメキメキと派手な音を立てて木がへし折れる。

「ちょっ!危なっ!」

自分の方へ倒れてくる折れた木を咄嗟に受け止め、下敷きから逃れるステラ。

高さはそんなにないので他に被害はないが、この太さの木を軽々と持ち上げているステラの怪力はやはり尋常じゃない。

……というかあのパンチでこんな木を折れる時点が普通から果てしなく遠い。

「あ、あり得ねえ…。」

男達の顔色がますます悪くなる。一部始終を完璧に目撃したことで、彼女の力の異常性をより理解したということになるのだろう。

へし折れた木が自分の体であったら……結果は想像に難くない。

「…この辺の木って、もろいので有名なの?」

どっ、と明らかに重そうな音をたてて足元に木を下ろし、腰に手をあててステラはひどく不満そうな顔をする。

「どれだけ脆い木でも普通の人が殴ればあんな崩れ方はしません。……やれやれですね。」

折れた木の惨状を見てスズメが溜息を吐く。

実際実験してみて現実を思い知った気分らしい。

「この威力じゃ、まだまだほどよい手加減への道のりは遠そうですね。」

「えーっ!?結構手加減したのに?」

ステラは隠すことなく驚きを浮かべ、もううんざりした顔をしかけている。

「全く以て足りませんわ。」

だが、スズメはその顔にキッパリと言い放つ。

「この程度でいやになるなら、やっぱり尻尾を丸めてお家に帰った方がいいですよ?……貴方の短い反抗期の責任は、私の首がとってあげますから。」

優しくも思えるような静かな声で、スズメはステラの耳元に囁く。

だが、そんな言葉はステラの導火線に火を付ける意味しかもたない。

「………だっ、れっ、がぁっ、短い反抗期だって―――!!」

一語一句ずつ呼吸を吐き出しながら、ステラは至近距離でスズメの顔を見返した。

その目には憤怒の炎が灯っていた。上陸してきた大怪獣を思わせる。

「スズメは私が誰に啖呵切って出てきたと思ってんのッ!?私のやってることをただの反抗期なんて言う奴がいるんなら、そんなこと言えなくなるまで徹底的にやってやるわ!!」

ステラは大ーきく息を吐き出した。そのまま無言でスズメと数拍にらみ合う。

「……当然です。私の首がかかっているんだから、ステラお嬢様には死ぬ気で頑張って周りを認めさせてもらわないと困ります。ていうかちょっと死んで下さい。……半分ぐらい。」

「……さっきと言ってる事違うんだけど…!?」

先に口を開いたのはスズメだった。ステラは、その姿をじとっと見つめる。

「いいんですよ。私はそういう種族なんだから。いい加減なのがデフォルトですわ。」

「ふーん……。」

肩をすくめてしれっと言い切ってしまうスズメを、納得のいかない顔でしばらく見ていたが、ステラは一つ鼻から息を吐いて新しい木に向き直った。

「ま、スズメの前で泣き言を言うとマジでムカつく嫌味を言われるって事ね。」

「ええ、そうですね。泣き言とかなしのニュートラルの状態でも全然言いますけど。んで、お嬢様は可愛いこと言ってて下さい。鼻血を出しながら見ててあげますから。」

「キモいよ!!なんでだよ!?」

「それくらいの役得をもらわないとやってられませんわ?」

相変わらず無表情なスズメに、ステラは頬を膨らませる。

「……腹の立つ従者だわ。」

そっぽを向いたステラに対し、スズメは肩をすくめた。

「まあいいわ!やったろーじゃん?」

しかしまあとりあえず再びやる気は出たらしい。拳を己の手のひらに打ちつけ、きっ、と木々を睨みつける。

次の瞬間には、力を溜めるようにぐるぐると肩を回し始める。

むしろやる気満々だ。

しかし。

「いや、お嬢様…」

それ、さっきと同じじゃねーか。

「よっしゃあーッ!!」

スズメがもはやどうでもよさげな顔で注意を入れる前に、横綱も納得の気合いのかけ声と共にステラは拳を振り切っていた。

木、南無三。

メキャア!!っと、木という命の悲鳴のような音がして、木が根元からてっぺんまで真っ二つに割れ、青々とした葉っぱが全て残らず散る。ついでに周囲の地面にも軽くひび割れが入る。

なんだろうかこれは。魔神でも降臨した時の描写?

「……あれ?コレって何の特訓だっけ?ハルマゲドン?」

「手加減ですわ馬鹿たれ☆」

一瞬悩む方で本気の目になったステラに対して優しい声でツッコミが入った。

同時にスズメが男の腕より太い木片でステラの頭をぶっ叩き、乾いた音で木が思いっきりへし割れる。

「………………痛い。」

「そうでもないです。」

「「いやいやいや!?」」

何を言っているんだと言わんばかりのスズメの言葉にギャラリーが一斉に首を振る。

普通なら脳天がかち割れます。

「丸太はひどくない?」

しかし痛いとは言ったもののステラはたんこぶ一つない。

ステラの頑丈さとか、体より大きい木片を持ち上げるスズメの意外なパワーとか、どこからツッコミを入れるべきかわからない。

「大木を丸太にしたのは貴女ですから。命の大切さを学んでください。」

スズメからエコな意見が出た。


怖い。



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