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【第1篇完】終わりなき世界の観測者たち  作者: 颯音ユウ
第2篇【帝国戦争篇】

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50/52

序幕 帝国の沈黙

 

 ヴァル=カイゼン帝国ー

 帝都ヴェイルフォルム/枢密院・前室


 扉は二重だった。

 一枚目は礼で閉じ、二枚目は沈黙で閉じる。


 封蝋の匂いが残る前室に、灯りは少ない。

 机上に並ぶのは勝利の報告ではなく、

 勝利の“後始末”だけ。


 大宰相マクシムは、封蝋の残る束の角を揃えた。

 紙を整える所作で、場の温度まで整える男だ。


 向かいの影は、ほとんど動かない。

 監察総監カッシウス。

 帝国の“目”であり、同時に“線”でもある。


 ――表向き、この国にあるのは「監督府」だ。

 “監督”という便利な言葉で、

 他国の現場にも口を出せる。

 責任は取らない。枠だけを置く。


 だが、それは外へ出す呼び名。

 内部で“本当の名”を知る者は少ない。


 監督ではない。“監察”だ。

 監察は、対象の「正しさ」を問わない。

 ただ、逸脱を数え、痕跡を残し、必要なら“消す”。


 カッシウスの机に置かれている紙は、

 いつも少ない。

 少ないほど、機密だ。

 そして機密ほど、国を動かす。


 マクシムが一枚、文書の写しを差し出した。

 王国へ返す返答案――否ではなく、

 確認として書かれている。


 カッシウスは、視線だけで読んだ。


「……動ける者が動く形にする」


 声は低い。命令ではない。

 “決めた”という事実だけが落ちる。


 前室の奥。

 姿を見せない気配が、ひとつ。


 言葉は短い。


「要点だけ」


 マクシムは、頷いた。


「勝利は終わりました」

「ですが――“余韻”が、想定より目立ちます」


 カッシウスが封蝋へ指先を置く。

 帝国の印ではない。帝国の“中”だけを通る印。


「目立てば、騒ぎになる」

「騒げば、王国は“自発的に”触る」


 言葉の端に、わずかな冷笑が混じる。

 否定ではない。起こる手順の確認だ。


「なら、枠を置く」

「静かなまま」


 それだけで、決定は完了する。


 扉の向こうへ、勝利の歓声は届かない。


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