表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わりなき世界の観測者たち  作者: 颯音ユウ
第1篇【魔王討伐篇】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/50

第27話 静かな夜、火が消えるまで

 あの後のことは、

 誰も詳しく語ろうとしなかった。


 剣を振った記憶も、

 魔法を放った感覚も、

 どこか曖昧だ。


 ただ一つ、全員が同じ認識を持っている。


 あれは、戦いではなかった。


 -----------


 野営地に戻る頃には、日が傾いていた。

 焚き火の準備をする音が、

 静かに夜を呼び込んでいく。


 エリオは、剣を膝に置いたまま、

 しばらく動かなかった。

 刃こぼれを確かめるでもなく、

 鞘に収めるでもなく、ただ見ている。


「……疲れた?」


 ミラが、いつもより少し軽い声で聞く。


「いや」


 エリオは首を振った。


「疲れてるのは、頭の方だ」


 その言葉に、セリスが小さく笑った。


「分かる」

「魔法を使ってないのに、どっと来る感じ」


 ロイスは、剣帯を外しながら言った。


「俺、さ」

「剣を抜いた記憶はあるんだけど……」


 言葉を探す。


「何を相手にしてたのか、よく分からない」


 ティオが、薪を並べながら答えた。


「それ、たぶん正しい」

「“誰か”じゃなかった」


 一同、黙る。


 焚き火に火が入り、ぱちぱちと音を立てた。


 ミラは、その炎を見つめながら呟く。


「誰も傷つかなかったのに」

「……不思議だね」


 セリスが、ゆっくり頷いた。


「今までだったら、

 それだけで“良い戦い”って思ってた」

「でも……今日は、違う」


 エリオは、ようやく剣を鞘に収めた。


「俺さ」

「全部、やろうとしてた」


 誰に言うでもなく。


「斬って、守って、決めて」

「全部、俺がやらなきゃって」


 ロイスが、苦笑する。


「それ、俺もだ」

「前に出なきゃ、って」


 ティオは、火を見ながら言った。


「今日の一番の収穫はさ」

「“自分が何をしてたか”が、分かったことだと思う」


 ミラが、静かに息を吐く。


「回復しなくていい時間が、こんなにあるなんて」

「……初めて、考えた」


 少しだけ、空気が緩む。


 誰かが勝ったわけでも、

 誰かが負けたわけでもない。


 それでも、確かに何かが変わった。


 エリオは、焚き火の向こうを見た。


(あの人たちは……)


 答えは、くれなかった。

 だが、考える場所は、確かに示された。


「明日も、進むぞ」


 自然と、そう口にしていた。


 誰も異を唱えない。


 夜は、静かに深まっていった。


 ----------------


 焚き火の火が、少し落ち着いた頃。


 見張りの交代を終え、

 野営地には、静かな時間が戻っていた。


 ロイスは、外套を羽織り直しながら言う。


「……明日からさ」

「たぶん、俺は前に出すぎない」


 誰に向けたわけでもない。


「今までは、“出なきゃ”って思ってた」

「でも、今日のあれで……」


 剣の柄に、軽く触れる。


「ちゃんと、任せた方がいいって分かった」


 セリスが、小さく息を吐いた。


「私も」

「魔法を撃つ前に、見るようにする」


「見る?」


 ミラが聞き返す。


「世界」

「……あと、みんな」


 ミラは、少し考えてから笑った。


「じゃあ、私は」

「回復を準備しすぎないようにする」


 ロイスが、目を瞬かせる。


「それ、大丈夫か?」


「うん」

「今日、分かったから」


 ミラは、焚き火を見つめる。


「“使わない時間”も、役割なんだって」


 ティオは、地図を畳みながら言った。


「俺は、もっと言う」

「気づいたこと、全部」


「うるさくならない?」


 ロイスが言うと、

 ティオは肩をすくめた。


「たぶん」

「でも、黙るよりはいいだろ」


 エリオは、少し離れた場所でその会話を聞いていた。


 剣を抱えたまま、

 空を見上げる。


 星が、よく見える夜だ。


(……決める、か)


 全部を正しくやる必要はない。

 全部を守る必要もない。


(俺がやるのは)


 一歩、前に立つこと。


「……よし」


 エリオは、立ち上がった。


「今日は、休もう」

「明日は、また進む」


 誰も反対しない。


 それぞれが、寝床へ向かう。


 -----------


 少し離れた場所。


 アルトは、焚き火の光が届かない位置で立っていた。


「……良さそうだね」


 レイナが、腕を組んで言う。


「壊れてない」

「むしろ、まとまった」


 セフィラは、静かに頷いた。


「役割を理解した」

「あれなら、しばらくは大丈夫」


 アルトは、短く息を吐く。


「なら、ここまでだ」


「もう、関わらない?」


 レイナが聞く。


「必要なら、だ」

「今は……」


 遠くの野営地を、ちらりと見る。


「自分たちで進ませる」


 セフィラは、少しだけ微笑んだ。


「勇者、だから?」


「違う」


 アルトは、即答した。


「人だからだ」


「考えて、迷って、選べる」


 三人は、それ以上言葉を交わさず、

 その場を後にした。


 --------


 夜は、静かに深まる。


 誰も、知らない。


 この夜が、

 しばらく続く“最後の平穏”であることを。


 だが今は、

 それでいい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ