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終わりなき世界の観測者たち  作者: 颯音ユウ
第1篇【魔王討伐篇】

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第26話 一歩、外側へ

 

 セフィラが、初めて指を鳴らした。


 乾いた音が、訓練区画に響く。


 それだけで、空気が変わった。


 見えないはずの魔力の流れが、

 地から天へ、はっきりと“形”を持って走る。


「……っ」


 セリスは、反射的に魔力を引き上げた。


(来る――!)


 セリスが、先に動いた。


 詠唱は短い。

 展開は早い。


「――紅蓮、連なれ――《紅蓮槍列》」


 ――火系中級、連結式


 足元から、赤い陣が広がる。

 複数の火槍が形成され、

 角度を変えながら一斉に放たれた。


 直線ではない。

 回避を潰す配置。


(当たる――!)


 ミラも、遅れずに動く。


 衝撃に備え、薄い防護層を展開する。

 火槍が弾かれた場合の爆風。

 反射熱による損傷。


 “いつもの連携”だった。


 だが。


 火槍は、届かなかった。


 燃え盛る直前、

 術式が――ほどけた。


「……?」


 セリスの視界で、魔法陣の線が一本、消える。

 続いて、二本。


 構造そのものが、成立していない。


「な……」


 自分で組んだはずの魔法が、

 完成する前に、崩れていく。


 消されたわけじゃない。

 干渉されたわけでもない。


(……合ってない)


 セリスは、歯を食いしばった。


(世界と、噛み合ってない)


 セフィラは、そこに立ったままだ。


 魔法を撃つでもなく、

 構えるでもなく。


 ただ、指先を軽く動かしている。


「魔法はね」


 淡々とした声が、届く。


「“出す”ものじゃない」

「“置く”もの」


 次の瞬間、

 空間に、薄い光の線が走った。


 術式。


 だが、それは攻撃魔法ではなかった。


 ――環境制御。


 訓練区画全体の魔力密度が、

 わずかに、だが確実に変化する。


「……!」


 ミラが、はっと息を呑む。


(来る……はずだった)


 回復役として、

 彼女は“傷が生まれる兆し”に、

 誰よりも早く反応する。


 だが――


(……ない?)


 ダメージが発生する“流れ”だけが、

 途中で断ち切られている。


 いや、正確には違う。


 回復する必要が、

 最初から、生まれていない。


「これが……」


 ミラは、喉を鳴らした。


「時間を……管理する、って……」



 セリスは、一歩、下がった。


(だめだ、このまま撃っても)


(合わせるしかない)


 セフィラは、ほんの一瞬だけ首を傾げた。


「……少し、力を入れすぎてる」


 セリスが、はっと顔を上げる。


「力、ですか?」


 セフィラは、足元の魔力の流れを一瞥する。


「ただ魔力を強くしたり、出力を上げて押し通せばいいってものじゃない」


「押し通そうとした瞬間」

「世界は、魔法を拒む」


 深く息を吸う。


 魔法の“形”を、いったん壊す。


 属性を固定せず、

 術式を分解し、

 組み直す。


(世界に、聞け)


(どう組めば、通る)


 セフィラが、わずかに視線を向けた。


「いい」


 その一言が、

 セリスの背中を押した。


 再構築。


 今度は、無理に押し通さない。

 魔力の流れに、逆らわない。


 セリスの周囲に、

 淡い魔力の粒子が浮かび上がる。


 色は、定まらない。

 炎でも、水でも、雷でもない。


 ただ、“主張しない形”だけが残っていた。


 魔力は、集まりもしない。

 膨らみもしない。


 そこに「在ろう」としているだけ。


(……押すな)

(形を、合わせろ)


 完成。

 ――いや、完成ではない。


「置く場所」が、見えただけだ。


 セリスの視界に、

 ほんのわずかな“隙間”が浮かぶ。


 魔力の流れと流れの間。

 術式と術式の継ぎ目。


 そこは、

 誰にも使われていない場所だった。


 セリスは、

 その“場所”に魔法を差し出す。


 放つ、というより、

 条件を満たす。


 音は、しなかった。


 術式は発動しない。

 起動音も、閃光もない。


 ただ、

 そこに“成立”した。


 魔法は、進まない。

 跳ねない。

 押し込まれもしない。


 ただ、そこに“収まった”。


 今度は――

 拒まれなかった。


 セフィラの周囲で、

 術式が“反応”する。


「……!」


 セリスの目が、見開かれる。


(当たった!?、じゃない……)

(“通じた”)


 だが、次の瞬間。


 その魔法は、

 自然に、消えた。


 壊されたわけではない。

 吸収されたわけでもない。


(……受け止められた)


 セフィラは、軽く頷いた。


「うん」

「今のは、正しい」



 ミラが、即座に動く。


 回復魔法――

 いや、違う。


(まだ、いらない)


(次に来る“起きる兆し”を、見る)


 セフィラの指が、再び動いた。


 今度は、ほんの一瞬。


 空間に走る魔力の揺らぎ。


 ミラは、その揺らぎが

 形になる前を捉えた。


(今だ)


 微弱な支援魔法。


 回復ではない。

 強化でもない。


 “間”への介入。


 これまで、無意識にしか使えなかった感覚。

 今、初めて「意図して」触れた領域。


 セリスの判断が、

 魔法が生まれる“前”に出る。


 セリスが、気づく。


(……ミラ?)


 間に合う。


 次の魔法が、

 セフィラの術式に、より深く食い込んだ。


 セフィラは、完全に止まった。


「ここまで」


 その一言で、すべてが収束する。


 魔力の流れが、元に戻る。

 空気が、軽くなる。


 セリスは、膝に手をついた。


「……はぁ……」



「……今の、何ですか」


 セリスの問いに、

 セフィラは少しだけ考えてから答えた。


「“静置式”」

「ぼくが編み出した魔法概念・基礎式のひとつ」


「基礎式……?」


「うん」

「魔法は、出すものじゃない」

「置くものだから」


 ミラも、深く息を吐く。


「……今の……」


 セフィラは、ミラを一瞥した。


「君が触れたのも、同じ延長線上」


「延長線上……?」


「環境を整えれば、時間も、傷も」

「発生しなくなる」


 ミラは、言葉を失った。


「2人ともできてた」

「まだ粗いけど」


 アルトが、少し離れた場所で言う。


「十分だ」

「“考え方”は、掴んだ」


 エリオは、拳を握りしめていた。


 剣でもない。

 魔法でもない。


(……役割、か)


 セフィラは、最後に一言だけ告げる。


「続きは、次」

「今度は……」


 視線が、エリオへ向く。


「勇者の番」



「次は、君だ」


 アルトは、エリオに向けて言った。


 剣も、杖も構えない。

 いつもの通りの、軽装だ。


 エリオは、一瞬だけ息を整えた。


(剣士じゃない)

(魔導士でもない)


 それなのに――

 原初の森で感じた、あの圧。


「……お願いします」


 エリオは、剣を抜いた。


 同時に、世界が“見える”。


 《観測適応》が、起動する。


 距離、重心、魔力の流れ。

 アルトの立ち位置、呼吸、視線。


(いける)


 踏み込む。


 剣を振るう。


 だが――

 刃が届く直前、アルトの姿が“ずれた”。


「っ!」


 転移ではない。

 加速でもない。


(……位置が、変わった?)


 アルトは、横にいた。


「今の判断、悪くない」


 軽く言いながら、掌を向ける。


 魔法。


 小規模。

 攻撃ですらない。


 ――足場干渉。


 床の魔力配分が変わり、

 エリオの踏み込みが、半拍遅れる。


(……っ)


 次の瞬間、

 アルトの剣が、エリオの喉元に“ある”。


 触れてはいない。

 だが、完全に取られている。


「……!」


 エリオは、即座に後退した。


(早い……!)


(でも、見えてる)


 再び、観測。


 次は、剣と同時に魔法を織り交ぜる。


 補助魔法。

 筋力と反応速度を底上げ。


 踏み込み。


 今度は、届く。


 だが――


「そう来るよな」


 アルトは、剣で受けない。


 代わりに、魔法を置いた。


 空間固定。


 刃が、わずかに“滑る”。


 エリオの剣は、

 本来の軌道を外される。


「っ……!」


(読まれてる!?)


 違う。


(……誘導、されてる)


 アルトは、攻めていない。

 常に、次の選択肢を減らしている。


 剣で詰めれば、魔法。

 魔法で詰めれば、位置操作。


 正解を選んでいるはずなのに、

 気づけば――


(逃げ場が、ない)


 息が上がる。


 観測は、まだ機能している。

 だが、処理が追いつかない。


(全部……正解なのに)


(全部……駄目だ)


 アルトは、距離を取った。


「ここまで」


 エリオは、剣を下ろす。


 肩で息をしながら、

 それでも視線を逸らさなかった。


「……俺は」

「どうすれば……」


 アルトは、少し考えた。


 そして、言う。


「全部をやろうとするな」


 エリオは、目を見開く。


「君は、正解を選ぶ」

「だから強い」


 一歩、近づく。


「でもな」

「戦場に、正解は一つじゃない」


 アルトは、エリオの胸元を指で示した。


「君がやるべきなのは――」

「“選ぶ”ことじゃない」


 一拍。


「決めることだ」


 エリオは、息を呑んだ。


(決める……)


 剣か。

 魔法か。

 退くか。

 前に出るか。


 全部じゃない。


(俺は……)


 ロイス、セリス、ミラ、ティオの顔が浮かぶ。


(……先頭に、立つ)


 アルトは、わずかに笑った。


「それでいい」

「君は、勇者だ」


 剣でも、魔法でもない。


 役割を理解した者。


 エリオは、深く頭を下げた。


「……ありがとうございます」


 アルトは、軽く手を振る。


「礼はいらない」

「次は――」


 視線が、仲間たちへ向く。


「君たち全員で、来い」


 その言葉を契機として、

 アルトvsエリオ一行の模擬戦が始まった。

 しかしそれは戦いにはならなかった。

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