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終わりなき世界の観測者たち  作者: 颯音ユウ
1篇【魔王討伐篇】

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第13話 順調という名の違和感

 翌朝。


 焚き火の跡に残った炭を消しながら、

 勇者エリオたちは再び進軍を開始した。


「朝飯、もうちょい欲しかったな」

 ロイスが剣を背負い直しながらぼやく。


「文句言うな。保存食は減ってるんだ」

 ティオが苦笑しつつ応じた。


 そんな軽口が自然と交わされる。

 長距離の行軍が続いているにもかかわらず、

 隊列の空気はどこか軽かった。


 ここまでの戦いは、順調に見えていた。


 魔物の数は想定内。

 凶魔獣の出現もあったが、

 致命的な被害は出ていない。

 エリオの判断は的確で、

 仲間たちの動きも噛み合っていた。


 ――魔王討伐は、計画通り進んでいる。


 誰もが、そう感じていた。


 --------


「この辺りから、完全に魔王国領の内側だな」


 地図を確認しながら、先頭を進むティオが言った。

 低い丘陵地帯が続き、視界は比較的開けている。

 岩陰や林はあるが、

 待ち伏せに向いた地形ではない。


「拍子抜けだな」

 ロイスが肩をすくめて笑う。


「もっと、抵抗があると思ってた」


「それはそれで困るけどね」


 セリスが魔導書を閉じながら言った。


 エリオは、そのやり取りを聞きつつ周囲を見渡す。

 魔物の気配は薄い。

 瘴気の濃度も、これまでと大きく変わらない。


 異常は、ない。


 ――少なくとも、そう“見えている”。


「次の拠点まで、今日中に行けそうだ」


 エリオが告げると、

 仲間たちの間に小さなどよめきが起きた。


「ほんとか?」


「助かるな、それは」


 疲労は溜まっているが、

 進軍が早まるのは歓迎だった。


「このまま行けば、魔王城も近いな」

 ティオが言う。


「案外、あっさり終わるかも」

 ロイスが冗談めかして続けた。


 セリスはそれを聞いて、軽く眉をひそめる。


「油断しすぎじゃない?」


「でも、ここまで来たのは事実でしょ」


 エリオは、そのやり取りを否定しなかった。


 恐怖よりも、手応えが勝っている。

 不安よりも、達成感が先に立つ。


 それが、今の正直な心境だった。


 だが――


 先頭を進んでいたティオが、

 ふいに立ち止まった。


「……待て」


 短く、鋭い声。


 隊列が一斉に止まる。


「何か見つけた?」

 エリオが問いかける。


 ティオは地面を指差した。


 踏み荒らされた草。

 そして、明らかに人為的――

 いや、魔族のものと思われる足跡。


「数は多くない」

「でも、揃いすぎてる」


 ティオの声は低い。


「……部隊、か?」

 ロイスが呟いた。


 エリオは、足跡の先へ視線を向けた。

 その先には、緩やかな丘がある。

 視界は遮られているが、地形は単純だ。


「迎撃の構え?」

「それとも、偵察?」


 ミラの問いに、エリオは答えなかった。


 どちらにせよ、

 これまでとは明らかに違う。


 魔物ではない。

 偶発的な遭遇でもない。


 ――意思を持った軍の動きだった。


「全員、警戒」


 エリオは静かに命じた。


 剣を抜くロイス。

 魔法の詠唱に備えるセリス。

 ミラは後衛に下がり、周囲に目を配る。


 隊列は自然と戦闘態勢へ移行する。


 丘の向こうから、風が吹いた。


 その風に乗って、

 微かに――だが、はっきりと。


 圧力のような気配が、伝わってくる。


 それは、これまでに感じたことのないものだった。


「……来るぞ」

 ティオが息を呑む。


 エリオは、前を見据えた。


 この先にいるのは、

 ただの魔物ではない。


 そしてこの戦いが、

 これまでと同じ“勝ち方”で終わらないことを

 まだ知らなかった。




 丘の上に、影が現れた。


 それは一人だった。


 重厚な鎧を纏い、長柄の武器を肩に担いだ魔族。

 周囲には、数体の魔族兵が控えているが、

 主役は明らかにその中央の存在だった。


「……来たな」


 ティオが、低く呟く。


 エリオは、無意識に息を整えていた。

 目の前の存在は、これまで相対してきた魔物や

 魔族とは、明らかに違う。


 魔王軍の将格――

 その一角であることは、疑いようがなかった。


 ――強い。


 直感が、そう告げている。


 丘の上の魔族は、一歩前に出た。


「人族の勇者か」


 その声は、驚くほど落ち着いていた。

 怒りも嘲りもない。

 ただ、事実を確認するような響き。


「ならば、ここで止まれ」


 それだけ言うと、魔族は武器を地面に突き立てた。


 その瞬間――

 周囲の空気が、重く沈んだ。


「……圧が、違う」


 セリスが、思わず呟く。


 魔力ではない。

 殺気でもない。


 だが、確実に“押されている”。


「ロイス、前に出すぎないで」

 ミラが、いつもより少しだけ強い口調で言った。


 ロイスは短く頷き、剣を構え直す。


「エリオ、どうする?」


 エリオは一瞬だけ迷い、そして答えた。


「正面から行く」


 逃げる理由はない。

 ここで引けば、士気は落ちる。


 それに――

 《観測適応》が、静かに告げていた。


 ――勝てる。だが、簡単ではない。


「行くぞ!」


 エリオが踏み込み、ロイスが続く。


 剣と剣がぶつかり合い、火花が散った。


 ――重い。


 一撃一撃が、腕に響く。


「はっ!」


 相手は、余計な動きをしない。

 大振りでもなく、隙もない。


 純粋な技量。


 ロイスの剣を受け止め、押し返し、

 そのまま薙ぎ払う。


「くっ……!」


 ロイスが後退する。


「ロイス!」

 ミラが、すぐさま回復魔法を放つ。


 だが、その直後――

 地面が、割れた。


「なっ……!」


 相手が踏み込んだ一歩で、地面が抉れる。


 セリスが即座に魔法を展開する。


「防御陣、展開!」


 魔法は間に合った。

 だが――


「……壊された?」


 一撃で、術式が砕け散った。


 完全に破壊されたわけではない。

 だが、“力で押し潰された”。


 セリスの顔色が変わる。


「魔法を理解してない……でも、壊せる?」


 それは、魔法使いにとって最悪の相手だった。


「勇者」


 その魔族が、初めてエリオを正面から見据えた。


「貴様は、確かに強い」


「だが――」


 一歩、踏み出す。


「まだ、戦争を知らぬ」


 その言葉と同時に、

 武器が振り下ろされた。


 《観測適応》が、強く反応する。


 避けろ。

 受けるな。

 斬り込め。


 エリオは、判断を重ね、剣を振るった。


 刃が交差し、

 ついに――


 魔族の鎧に、深い傷が入った。


「……ほう」


 初めて、魔族が小さく息を吐く。


「ここまでか」


 それは、敗北の言葉ではない。

 撤退の判断だった。


 魔族兵たちが、素早く後退する。


 魔族は、最後にエリオを見た。


「次は、こうはいかん」


 そう言い残し、丘の向こうへ姿を消す。


 --------


 静寂が戻った。


 エリオは、剣を下ろし、深く息を吐く。


「……勝った、のか?」


「うん……多分」

 ミラが、少し困ったように笑った。


 ロイスは、地面に座り込む。


「……あんなの、初めてだ」


 セリスは、砕けた術式の残滓を見つめている。


「魔王軍……本気だわ」


 エリオは、仲間たちを見渡した。


 全員、生きている。

 だが――無傷ではない。


 勝ったとは言えない。

 だが、負けてもいない。


 そして、はっきりと分かった。


 この戦争は、

 今までと同じ感覚では、進めない。


 丘の向こうを見つめながら、

 エリオは剣を握り直した。


 魔王討伐は、

 ここからが本番だ。

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