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終わりなき世界の観測者たち  作者: 颯音ユウ
第1篇【魔王討伐篇】

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第12話 同じ戦争を、違う意味で

 

「人族の勇者が、動いている」


 魔帝国、深奥。

 玉座の間に展開された魔法陣が、

 静かに光を帯びていた。


 魔皇帝リリスは、その中央に立ち、

 遠く離れた魔王国の様子を“視て”いる。


 音は届かない。


 見えるのは、空間と魔力の流れ、

 そして、そこに立つ者たちの振る舞い。


 ――動き始めた、ね。



 ----------------


 

 魔王国の玉座の間。


 そこでは、魔王アモンが

 側近たちを前に立っていた。


「人族が進んでいるそうだな」


 側近の一人が、進軍状況を報告する。


「勇者を中心に、各地を制圧しつつあります」

「魔王城までは、そう遠くありません」


 アモンは、戦況図に視線を落としたまま言った。


「理由を欲しがるのが、人族の悪い癖だ」


「英雄、使命だのを掲げて」

「自分たちは正しいと、信じたがる」


「だが、世界はそんなものを必要としない」


「残った側が、世界を定義する」

「それだけだ」


「勇者が現れた?」

「ならば、倒す」


「それ以上でも、それ以下でもない」


 

 ----------------



 リリスは、その光景を見つめながら、

 わずかに目を伏せた。


 ――やはり、そう判断する。


 魔王アモンにとって、これは排除だ。

 勇者にとって、これは救済だ。


 そして――

 世界にとっては、ただの過程に過ぎない。



 ----------------


 

 その頃。人族領、北方街道。


 勇者一行は、確かな手応えを感じていた。


「魔物、少なくなってきてるな」


「逃げてるだけだろ」

「魔王軍も、限界ってことだ」


 勇者エリオは、前を見据えながら頷いた。


 確かに、進軍は順調だ。

 戦いは、想定よりも軽い。


「このまま行けば、魔王城は近い」


「思ったより、早いな」


 誰もが、疑わなかった。


 自分たちは正しい。

 この戦争は、世界を救うためのものだと。


 だが。


 彼らの背後で、森が静かに揺れていることに、

 誰も気づいていない。



 -----------



 再び、魔帝国。


 遠隔観測の魔法陣を前に、

 リリスは、ほんのわずかに目を伏せた。


(……同じ戦争を)


(彼らは、まったく違うものとして見ている)


 魔王アモンにとっては、排除。

 勇者にとっては、救済。


 だが世界は、

 そのどちらにも、意味を与えていなかった。



 -------------------



 魔族領へと続く山道は、

 想像していたよりも静かだった。


 勇者一行は、慎重に進みながらも、

 内心では違和感を覚えていた。


「……思ったより、抵抗がないな」


 前衛が、周囲を警戒しながら呟く。


「罠もないし、伏兵もいない」

「魔王軍、引いてるのか?」


 エリオは、地図を確認しながら答える。


「無秩序には見えない」

「補給路も、撤退線も整理されている」


 それは、逃走ではなかった。


 整理された後退。


「魔王は、時間を稼いでる?」


 誰かがそう言った。


 だが、エリオは首を振る。


「違うな」

「迎え撃つ場所を、選んでる」


 一行は、さらに奥へと進む。


 道中で遭遇する魔物は、確かに減っていた。


 だが、それは弱体化ではない。


 配置転換だった。


「……全部、正面衝突を避けてる」


 斥候のティオが戻り、報告する。


「小競り合いはあるけど」

「致命的な戦闘は、起きてない」


 勇者一行は、戦果を積み上げていた。


 負傷者は少ない。

 士気は高い。


「順調だな」


 誰かが、そう言った。


 その言葉に、誰も異を唱えなかった。


 だが同時に、

 その“順調さ”が、どこか不自然であることも、

 誰もが薄々感じていた。



 -----------



 王都、魔導士協会の上層階。

 夜の静けさの中で、

 セフィラは一人、机に向かっていた。


 魔力の流れは安定している。

 瘴気の濃度も、許容範囲。

 魔法理論上、異常と呼べるものはない。


 どれも、数値としては問題がない。


 だが、今進んでいる魔王討伐は、

 まるで教科書通りに再現された

 “模範戦例”のようだった。


「……綺麗すぎる」


 思わず、そう呟いた。



 -----------



 その夜。


 簡易的な陣を張り、火を囲む。


「魔王城を囲む防衛線までは、二、三日」


「そこから先は……未知数だ」


「想定より早いな」


 勇者エリオは、炎を見つめながら頷いた。


「ここまで来たら、引き返す理由はない」


 誰も異を唱えなかった。


 勇者の判断は、常に正しかった。

 少なくとも、これまでは。



 ----------------



 魔王国では、同じ進軍を“確認”していた。


「人族は、予定通り動いています」


 側近の報告を聞き、魔王アモンは頷く。


「補給も維持」

「士気も高い」


「迎撃地点は?」


 アモンが問いかける。


「第三防衛線にて、準備を完了しています」

「正面から、受け止めます」


 アモンは、戦況図に指を置いた。


「逃げる必要はない」


「削る必要もない」


「正面から、叩く」


 それは、魔王としての判断だった。


「勇者は、勝っていると思っているだろう」


「それでいい」


「戦争とは、認識の勝負だ」

「先に“勝った”と思った側が、隙を見せる」


 側近たちは、静かに頭を下げる。



 ----------------



 再び、勇者一行。


 夜が明け、進軍を再開する。


「……静かすぎるな」


 誰かが、ぼそりと呟いた。


 勇者エリオは、剣の柄に手をかける。


「警戒は続ける」

「だが、止まる必要はない」




 誰も知らない。


 この戦争は、

 すでに“次の段階”へと進みつつあることを。


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