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終わりなき世界の観測者たち  作者: 颯音ユウ
1篇【魔王討伐篇】

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第1話 始まってしまったもの

 

 とある城玉座の間


 

 天井高く、奥行きだけが異様に広い玉座の間。

 その静まり返った空間に、二つの声が響いた。



「……今度の転生者は、どうだ」



 玉座に座る幼い少女が、淡々と問いかける。



「駄目でした……」



 跪いた者が、悲壮な声音で答えた。



「またか……もう、抑えきれんぞ」



 少女は小さくため息をついた。



「承知しております……」



「次が、最後だろうな」


「はい……」


 玉座に座る少女は、

 ゆっくりと視線を落として

 しばし言葉を発さなかった。


 その沈黙が、

 この場に漂うすべてを物語っているようだった。



 --------------------


 (玉座に跪いていた者の視点)


 玉座の間を出た後、私は足を止めた。

 遠く離れた地で、

 確かに何かが蠢いているのを感じていた。


 瘴気の濃度が上がっている…


 それは、

 これまで幾度となく繰り返されてきた兆候だった。


 しかし今回は、違う。


 これまでの瘴気は、緩やかに満ち、

 やがて均衡を取り戻してきた。

 だが今回は、まるで意志を持っているかのように、

 濃度が跳ね上がっている。


 抑え込むのではなく、抗うように。

 制御されることそのものを拒むかのように。


 その感覚に、私は背筋が冷えるのを覚えた。


 魔王と呼ばれる存在は、

 本来、制御できる範囲でなければならない。


 だが…。


 私は唇を噛み締めた。



 ----------------------


 王国王城。


 魔法陣が眩く輝き、

 数名の若者たちがその中心に立っていた。

 

 王城の大広間で、

 光と共に転生者たちが召喚された。



「汝らを、この世界の勇者として迎える」



 王は彼らを勇者として叙任し、

 民衆は歓声を上げる。


 王の宣言に、場は大きなどよめきに包まれる。


 魔王討伐――

 それは古くから語られてきた使命であり、

 同時に英雄譚の始まりでもあった。


 人々は歓声を上げ、希望を語り、

 恐怖を忘れようとした。

 誰かが涙を拭い、誰かが拳を握りしめていた。


 魔王を倒せば、世界は救われる。

 誰もが、そう信じて疑わなかった。



 ---------


 (勇者叙任式の後)


「アルベルト王、

 今回の召喚はいささか早すぎるのでは?」


 堅牢な防具を纏った、王国騎士団長が問いかける。


「ああ、だがこれも帝国の意向だ…」


 王は短く返事をし、その場を後にした。


「帝国…」


 騎士団長は思うところがあるのか、

 その名を口ずさんで、苦い表情をしていた。


「民は、希望を欲している」


 国王は振り返らずに言った。


「そして希望は、時に血で支払われます」


 騎士団長の声は低く、重い。


 アルベルト王は一瞬だけ歩みを止め、

 それでも振り返らなかった。


「それでも進まねばならん時がある」


 二人の視線が交わることはなかった。



 ---------


 式の後、廊下で交わされる短い会話。


「……動きが早すぎる」


「だが、民意は整っている」


「整えられた、の間違いでは?」


 その言葉は、誰の耳にも届くことなく消えた。


 帝国からの使者は、何も語らず微笑むだけだった。


「王国のギルドマスターは?」


「静観している」


 それ以上の言葉は、誰からも出なかった。



 --------


 その日の夜、城下町はいつもより騒がしかった。


 酒場では英雄譚が語られ、街には期待が溢れる。

 不安は希望に塗り潰され、疑念は声にならない。


 正しい選択。

 正しい流れ。

 正しい結末。


 人々は、そう信じて疑わなかった。


 その【正しさ】が、

 何を引き寄せているのかを――

 この時、知る者はいなかった。


 魔王は討たれる。

 世界は救われる。


 誰もが、その結末を疑っていなかった。



 ----------------------


 教会大聖堂


 ステンドグラスから木漏れ日が差し込む

 荘厳な大聖堂で2人の声がこだましていた。


「勇者が召喚されたようです」


「そうか、この時期が来たか...」

「戦争の準備を整えろ」


「畏まりました」


「......お客さまがお見えになっているようですが、」


 お客さまは、遠慮なしに大聖堂へ進んでいき、

 話しかけてきた。


「久しぶりだねヴァレリウス、またくだらないことを始めようとしてるみたいじゃないか」


 元気よく話してきたその少女は、

 教皇と馴染みの者らしく、親しげに問いかけた。


「何を仰いますか、これは由緒正しき聖戦なのです」


「戦争に由緒も何もないよ、前線にいる人達のこと考えたことがあるのかい?」


「彼らも覚悟の上です。教徒である以上、聖戦に参加できることも誉なのですよ」


「はぁ…、相変わらずだね君は。どうせ彼らに唆されているのだろう?ならば内に来た方が良いよ?」


 少女は呆れ顔をしながら、教皇に問いかけた。


「いいえ...(それが出来れば苦労はありませんよ)」


 教皇は否定すると同時に、

 何かを小さく呟いていたような気がした。


「そうかい、じゃあいいさ!」


 そう言ってお客さまは、

 大聖堂を出て行ってしまった。



「......何だったのですか?」


「ただの冷やかしだ。

 それよりも戦争の準備を始めるぞ。」


「畏まりました」


 教皇はそう答えると、

 その話は以上と言わんばかりにその場を後にした。


 ・・・ただの冷やかしが

 許可もなく大聖堂に入ってこれるのか?


 私は疑問を感じながらも、

 それ以上考えることはやめ、

 戦争の準備を整えることにした。



 -----------


「相変わらずヴァレリウスは頭がカチンカチンだったなー、でも、変わってなかったようで少し安心した。」


「もう一方は問題なしとして、あの子は大丈夫かな?」


「問題ないかと」


 独り言に答える声があった


「わぁ!びっくりした!いつからそこにいたの?」


「お嬢が聖堂を出た時からです。一緒に聖堂へ行こうと言ったのはお嬢ではありませんか。」


「ぐぅ...」


「それに公の場では、そのような口調は慎んでくださいね。なめられてしまいますよ。」


「わかってるってば」


「わかっていません」


 それから暫く少女と付き人のやり取りは続いた。

 しばしの攻防の末、

 付き人が折れて2人は帰路に着いた。


「爺もそんなんだと、好かれないよ?」


「私はいいのですよ」

「さぁ、帰りますよ」


 少女は振り返り、夜空を一瞬だけ見上げた。



 ----------------------


 同じ夜。王都の一角で。


 膨大な書類に囲まれた机の上に、

 1通の報告書が置かれた。

 男はそれに目を落とし、小さく息を吐く。


「……始まってしまった、か」


 そう呟き、男はしばし視線を伏せた。

作品を見つけてくださりありがとうございます。

初投稿となります。右も左もわからない初心者が趣味で投稿しているだけなので、拙い点も多々あると思いますが、ご容赦いただけますと幸いです。


今投稿している【魔王討伐篇】は、導入だと思ってください。この物語の本筋は2篇から始まります。


魔王討伐篇は完結しているので、1日1話くらいのペースで投稿していく予定でいます。

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