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【完結】咎人とアズライト〜国を捨てた魔法士は、記憶を失う転生者と旅をする〜  作者: 文月ナオ
第七章 少女たちと精霊

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94話 静寂のハーモニー

「……ここが、『歌う洞窟』?」


 コレットは目の前に広がる光景に息を飲んだ。

 薄暗い洞窟の壁一面に、色とりどりのクリスタルがびっしりと生えている。

 それらは微かな光を放ち、風が吹き抜けるたびに、チリン、シャランと美しい音色を奏でていた。


「綺麗……。まるで星空の中にいるみたい」

「ええ。でも、気をつけて」


 エレナが珍しく慎重な足取りで進む。彼女はレガースの金属音が鳴らないよう、つま先立ちで歩いていた。


『シーッ! 大声出しちゃダメよ!』


 ルビィが慌ててコレットの口元に飛びついた。


『ここのクリスタルは音に敏感なの。大きな音や、強い衝撃を与えると……』

「共鳴して、爆発するのよ」


 エレナが小声で補足した。


「連鎖爆発したら、生き埋め確定だわ。……つまり、ここでは私の『蹴り』も『精霊魔法』も使えないってこと」


 エレナは不満げに頬を膨らませた。彼女の戦闘スタイルは、身体強化による打撃と魔法の爆発力だ。それが封じられては、手も足も出ない。


『しかも、悪いニュースよ。……奥を見て』


 ルビィが微かな光で照らした先。洞窟の最深部に、あの「黒い茨」が根を張っていた。

 だが、今回は様子が違う。

 茨はクリスタルの柱に巻き付き、ドクン、ドクンと不快な鼓動を刻んでいる。その振動が周囲のクリスタルに伝わり、今にも共鳴限界を超えそうに震えていた。


「……嘘でしょ。あいつ、自分から音を出して誘爆させる気?」

『そうよ。私たちが近づいたら、その気配を察知して大音量で叫ぶつもりね。そうすれば、洞窟ごと私たちを潰せるわ』


 自爆覚悟のトラップ。近づけない。倒せない。


「これ、もしかして……詰んだ?」

「……私に、やらせてください」


 コレットが前に出た。彼女は胸元のアズライトの栞を握りしめ、真剣な眼差しで茨を見つめている。


「音を消せばいいんですよね?」

「ええ。でも、どうやって? 魔法を使えば、その波動でクリスタルが割れるわよ」

「魔法じゃなくて……『調律』します」


 コレットはそっと歩き出した。

 足音はしない。カインの後ろを必死について歩いた日々が、彼女に静かな歩行術を覚えさせていた。

 茨の目の前まで近づく。茨が侵入者に気付き、空気を吸い込んで絶叫しようとする。


(させない……!)


 コレットは両手を掲げた。

 放出するのは、魔力ではない。

 アズライトの栞を通して、周囲のクリスタルと同じ「波長」の魔力を静かに流し込む。

 音を力でねじ伏せるのではなく、音の波を自分の波で相殺するイメージ。


『……すごい』


 ルビィが瞬きを忘れて見つめる。

 コレットの指先から広がる波紋が、茨の悲鳴を包み込み、音を消滅させていく。

 完全な静寂。

 茨は口をパクパクさせているが、音は一切外に漏れない。


(今です、先輩!)


 コレットの合図。エレナが動く。

 強化魔法は使わない。純粋な身体能力だけで、音もなく疾走する。

 スカートがふわりと舞い、しなやかな足が茨の根元を捉えた。


「……っ!」


 声を出さずに、気合だけで引っこ抜く。

 バキッという音さえ、コレットの「調律」がかき消した。

 黒い霧が噴き出し、そして浄化の光に溶けていく。


 洞窟に、穏やかな光が戻った。クリスタルたちが、祝福するように優しい音色を奏で始める。


「……ふぅ。心臓に悪いわ」


 エレナがその場に座り込んだ。


「コレット、あなた凄いわね。あんな芸当、私には逆立ちしても無理よ」

「えへへ」


 コレットも脱力して笑う。

 その時、ふらりとルビィが落ちてきた。その光が、弱々しく明滅している。


「ルビィちゃん!?」

『……ごめん、なさい。ちょっと、疲れちゃった……』


 この森の案内役である彼女は、穢れの影響を一番強く受けている。その小さな体は、限界を迎えていたのだ。


「穢れに充てられたのね」

「大変……! 先輩、どうしましょう!」

「マナを分け与えるしかないけど、精霊が混じってる私のマナじゃ強すぎてパンクしちゃうわ」


 エレナが焦る。コレットは迷わず、ルビィを両手で包み込んだ。

 温かくて、柔らかい光。

 自分の魔力を、ルビィが受け取れる形に変換して、ゆっくりと注ぎ込む。


(元気になって……。ルビィちゃん……)


 それは治療というより、祈りに近かった。コレットの優しさが、光となってルビィに染み込んでいく。


『……あったかい』


 ルビィが心地よさそうに目を細めた。光が戻る。鮮やかなピンク色が、コレットの指の隙間から溢れる。


『……ありがとう、コレット。あなたって、本当に不思議な子ね』


 ルビィはコレットの頬にすり寄った。


『あなたの魔力、なんだか懐かしい味がするの。……ずっと昔、この森を作った人みたいな』

「え?」

『なんでもない! さあ、もう元気100倍よ! 次のエリアへレッツゴー!』


 ルビィは照れ隠しのように元気に飛び回った。

 けれど、コレットの肩に止まるその距離は、さっきよりもずっと近くなっていた。

 契約まではいかないけれど、確かな「友達」としての距離。


「うん。行きましょう、ルビィちゃん、先輩」


 コレットは立ち上がった。

 静寂の洞窟を抜け、光溢れる出口へと向かう。

 その先には、いよいよ森の最深部、「大樹」が待っている。

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