表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】咎人とアズライト〜国を捨てた魔法士は、記憶を失う転生者と旅をする〜  作者: 文月ナオ
第七章 少女たちと精霊

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/161

92話 水晶の湖

「……見つけた」


 森の外縁部。カインは岩陰から、眼下の荒野を見下ろしていた。

 そこには、自然界にはあり得ない異質な物体が鎮座していた。

 黒い金属で覆われた、巨大な杭のような塔。その先端からは、ドス黒い煙――凝縮された「穢れ」が噴き出し、風に乗ってプリズマリアの森へと流れ込んでいる。


「うわぁ、悪趣味」


 リザが顔をしかめる。


「あれ、人工物だよね? 魔導回路が見えるもん。……しかも、かなり新しい」

「ああ。学術都市のガリレオが残していった『ゴミ』だろう」


 カインは冷ややかに告げた。

 ガリレオは倒したが、彼がばら撒いた悪意の種は、まだ世界各地に残っているのかもしれない。あるいは、彼の研究を継ごうとする新たな愚か者がいるのか。


「どっちにしろ、壊すだけだ」


 カインが指先を向ける。塔の周囲には、護衛用の自律兵器オートマタが数体、警備にあたっていた。


「配置わかるか?」

「塔の周りに四体。上空に監視用のビットが二つ。死角はないね」

「正面から叩き潰すか」


 カインは隠れるのをやめ、堂々と姿を現した。

 警報音が鳴り響き、オートマタたちが一斉に砲口を向ける。


「消えろ」


 カインが腕を振るう。


重圧グラビティ・プレス


 ゴッ!!

 見えないハンマーが振り下ろされたかのように、四体のオートマタが一瞬でひしゃげ、鉄屑へと変わった。

 上空のビットが迎撃の光弾を放つが、カインの『術式乖離』の結界に触れた途端、煙のように霧散する。


「……案外脆いな」


 カインは歩みを止めず、塔の前に立った。右手に、眩い雷光を収束させる。


雷撃サンダー・ボルト


 バリバリバリッ!!

 極太の雷が塔を貫いた。金属が溶解し、魔導回路が焼き切れる。黒い煙を吐き出していた塔は、轟音と共に崩れ落ち、ただの瓦礫の山となった。


「とりあえずこんなもんか」

「楽勝だね〜。まあ、フロストドラゴンと戦った後じゃ、何来ても物足りないよね」


 リザが瓦礫の上で伸びをする。


「これで少しは森の空気もマシになるかな?」

「供給源は一つじゃないはずだ。次へ行くぞ」

「ほーい」


 カインは森の方角を一瞥した。

 虹色の結界は、まだ健在だ。中の様子は見えない。だが、コレットの魔力反応は安定している。


(……無事だといいが)


 カインは背を向け、次の標的へと歩き出した。過保護な保護者の「掃除」は、まだ終わらない。


          ◇


 一方、森の中。

 コレットとエレナは、キラキラと輝く「水晶の湖」のほとりに立っていた。


「わぁ……! すごいです……綺麗……」


 コレットが歓声を上げる。

 湖の水は透き通るようなエメラルドグリーンで、底には水晶の結晶が珊瑚礁のように群生している。水面を跳ねる魚たちも、ガラス細工のように半透明で美しい。


「でしょ? ここは水の精霊たちのダンスホールなのよ」


 エレナが水際にしゃがみ込み、指先で水面を突いた。波紋が広がり、ポロロン、とハープのような音色が響く。この森では、水さえも音楽を奏でるのだ。


「でも……ちょっと変ね」


 エレナが眉をひそめた。

 湖の中央。一番大きな水晶の樹がそびえ立つ辺りの水が、暗く濁っている。そこから、悲しげな歌声のような音が聞こえてくる。


『大変よ! 湖のヌシ様が苦しんでるわ!』


 ルビィが慌てて飛んできた。


『穢れのせいで、お腹にトゲが刺さっちゃったみたい! 暴れて手がつけられないの!』


 見れば、湖の中央で巨大な水柱が上がった。

 現れたのは、ガラス質の鱗を持つ巨大な海竜リヴァイアサンのような精霊だ。

 だが、その美しい体には黒い茨が絡みつき、苦痛にのたうち回っている。


「グルルルゥ……ッ!!」


 主の咆哮と共に、湖の水が荒れ狂い、津波となって岸辺に押し寄せてきた。


「キャッ!?」

「下がって、コレット!」


 エレナが前に出る。彼女はスカートを翻し、押し寄せる波に向かって蹴りを放った。


「鎮まりなさいッ!」


 足先に纏わせた衝撃波が、津波を真っ二つに割る。水しぶきを浴びながら、エレナは不敵に笑った。


「暴れるなら、少しお仕置きが必要ね。コレット、あの子の動きを止められる?」

「はい! やってみます!」


 相手は精霊だ。言葉は通じなくても、心は通じるはず。

 カインに教わった制御と、セレーナに教わった循環。

 その二つを組み合わせて、精霊の荒ぶるマナを鎮静化させる。


「……お願い、落ち着いて!」


 コレットから放たれた青い光の輪が、湖の主へと飛んでいく。

 それは拘束の鎖ではなく、優しい包容力を持った波紋となって、主の体を包み込んだ。


「グ……?」


 主の動きが鈍る。黒い茨の浸食が一時的に止まったのだ。


「ナイスよ! ……さあ、悪いトゲを抜いてあげるわ!」


 エレナが湖面を蹴って跳躍した。

 水の上を滑るように駆け抜け、主の背中へと飛び乗る。

 彼女の足技と、コレットの支援魔法。即席とは思えない見事な連携が、水晶の湖に新たな旋律を奏でようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ