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【完結】咎人とアズライト〜国を捨てた魔法士は、記憶を失う転生者と旅をする〜  作者: 文月ナオ
第七章 少女たちと精霊

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91話 中と外

「……ダメだな。弾かれる」


 カインは手を下ろした。

 目の前には、森を覆う巨大な虹色のドーム――精霊の結界がそびえ立っている。

 何度か魔力をぶつけてみたが、結界はびくともしない。いや、力任せに破壊することは可能だが、そうすれば森の環境そのものが崩壊し、中にいるコレットまで巻き込んでしまうだろう。


「だよねぇ……見るからに、無敵です! って感じだし……」


 リザが残念そうに呟いた。

 彼女の『魔視』には、この結界が物理的な壁ではなく、世界の「理」そのものを書き換える断絶として映っている。

 人間の侵入を許さない、絶対的な聖域。


「そんなに危険な雰囲気は不思議としないけど……どうする、カイン? 指くわえて待ってる?」

「……いや」


 カインは結界の表面に手を当て、中の気配を探った。

 微かだが、感じる。青く、澄んだ魔力の波動。

 コレットだ。彼女は今、この森の中で戦っている。恐怖に怯えているのではない。自分の意志で、力を振るっている。


「……あいつの魔力は安定してるな。迷いがない」


 カインの口元が、微かに緩んだ。


「それになんだか少し、楽しそうだ」

「ふーん? 随分と余裕じゃん」


 リザがからかうように笑う。

 カインは背を向け、ポケットに手を突っ込む。


「俺たちが中に入れば、余計な混乱を招く。あいつはもう一人前の魔女だ。ここは一先ず、あいつを信じる」

「りょーかい! ボス! そんで私たちはどうすんの?」

「掃除だ」


 カインは森の外周、澱んだ空気が流れ込んでくる方角を睨みつけた。


「この森を蝕んでいる『穢れ』の供給源を断つ。コレットが中で戦いやすいよう、外から援護射撃といこう」

「オッケー!」


 リザがナイフを抜き、駆け出す。カインもまた、風を纏って後に続いた。


          ◇


 一方、森の中。


「そいっ!」


 エレナの気合一閃。

 翻るスカートと共に繰り出された回し蹴りが、襲いかかる食虫植物の化け物を粉砕した。金属製のレガースが煌めき、衝撃波が花びらを散らす。


「お〜!」


 コレットが感心した顔をしながら拍手をする。


「ふふん、まだまだよ!」


 エレナは着地と同時にステップを踏み、次々と襲い来る蔦を華麗にかわしていく。

 その動きは舞踏のように美しく、まるで舞踏会にいるようだ。


「コレット、あの子たちの動きを止めて!」

「はいっ!」


 コレットがアズライトの栞を輝かせる。放たれた青い光の粒子が、植物たちの魔力回路に絡みつき、その動きを鈍らせる。


「そこっ!」


 動きの止まった隙を見逃さず、エレナが踏み込む。

 掌に集束させた風の魔力を、ゼロ距離で叩き込む。


風掌ウィンド・パーム


 ドォン!

 植物の化け物が弾け飛び、光の粒子となって浄化された。


「……ふぅ。片付いたわね」


 エレナが髪をかき上げ、ウィンクする。

 激しい戦闘の後だというのに、彼女は汗一つかいていない。余裕綽々。そして、とびきり楽しそうだ。


『やるじゃない! このエリアもクリアよ!』


 ルビィがパチパチと拍手しながら飛んでくる。

 周りの景色が変わり始めた。

 鬱蒼としていた木々が、キラキラと輝く水晶の樹木へと変化していく。地面はゼリーのようにぷるぷるとしていて、歩くたびにポヨポヨと音が鳴る。


『次は『水晶の湖』エリアよ!』

「コレット、ここには水遊びが好きな精霊がたくさんいるのよ」

「ルビィちゃんみたいな子がいっぱい飛んでますね」


 エレナが楽しげに歩き出す。コレットも、弾むような足取りで後に続いた。


「先輩。さっきの蹴り、凄かったです! 私もあんなふうに戦えるようになりますか?」

「なれるわよ。コレットは筋がいいもの。それに、私は昔は運動なんかてんでダメで、普通に歩くだけで転んじゃうような絶望的な運動音痴だったのよ? 鍛錬すれば、誰だって強くなれるのよ。大切なのは気持ち」


 エレナはコレットの手を取り、悪戯っぽく笑った。


「はいっ!!」

「この森を出たら、私の『お兄ちゃん』にも紹介してあげる。頭はおかしいけど、身体の効率的な動かし方とか筋肉の使い方とかは多分世界で一番詳しいから。会って損はないはずよ」

「先輩のお兄さん……気になります。そういえば、先輩っておいくつなんですか?」

「私? こう見えて33よ?」

「えっ? でも……どう見ても私より幼いですよ……」

「うーん。話せばややこしいんだけど……色々あって、『老けなくなっちゃった』」

「ふえっ!?」

「さあ、お喋りはこの辺にして、急ぎましょう! 湖の主が、私たちを待ってるわ!」


 二人の少女は、虹色に輝く森の奥へと駆けていった。

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