表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】咎人とアズライト〜国を捨てた魔法士は、記憶を失う転生者と旅をする〜  作者: 文月ナオ
第五章 隠れ生きる者達

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/161

82話 雪解けの朝

 光の柱が消え、轟音が収まると、そこには静寂だけが残った。

 白竜の姿はない。

 だが、カインが放った『聖殲』によって消滅したはずの空間には、無数の小さな光の粒子が舞い降りていた。

 ダイヤモンドダストのように煌めく、青白い光。


「……綺麗」


 コレットが掌を差し出す。

 光の粒がふわりと舞い降り、温かな熱を残して溶けた。


「……なんだ、これは」


 エリックが呆然と呟く。

 破壊の跡地とは思えないほど、その場の空気は澄み渡り、濃密なマナで満たされていた。


「精霊だ」


 カインは魔力を解き、淡々と告げた。


「あの白竜は魔獣じゃない。この土地の過剰なマナと、行き場を失った精霊たちが融合して暴走した『現象』だ」


 カインは周囲の村人たちを見回した。


「あんたたちも、気付いているはずだ。自分たちの体が、普通の人間とは変わってきていることに」


 その言葉に、村人たちがざわめく。

 寒さを感じない肌。老いることのない容姿。そして、希薄になっていく感情。


「この里は、精霊界に近すぎる。長く住めば、魂が肉体という器から解き放たれ、精霊へと変質していく」


 リザが言った通りだった。

 彼らはもう、半分精霊になりかけている。だからこそ、この極寒の地で生き永らえてこれたのだ。


「じゃあ……俺たちが捧げてきた生贄は……」


 エリックが膝をつく。

 村を守るため、断腸の思いで送り出した家族や恋人たち。

 彼らは、無駄死にだったのか。ただ、怪物に食われて消滅しただけなのか。


「……います」


 コレットが、空を見上げて言った。


「え?」

「感じます。この光の一つ一つが、誰かの『想い』です。怖くなくて、とても優しくて儚くて……健気な」


 彼女には分かる。

 肉体を失い、純粋なマナの塊――「微精霊」となって、この里を漂う魂たちの気配が。


「彼らは死んでいません。この雪山の一部になって、ずっとあなたたちを見守っていたんです」


 その言葉を聞いた瞬間、エリックの目から涙が溢れた。

 舞い落ちる光の粒が、彼の方へ集まってくる。頬を撫でる冷たい風が、まるで懐かしい人の手のように感じられた。


「……そうか。お前、そこにいたのか……」


 エリックが虚空を抱きしめる。

 他の村人たちも、光の中に失った家族の面影を見出し、泣き崩れていた。

 それは悲劇ではない。

 彼らは形を変え、今も共に在る。その真実が、凍りついていた村人たちの心を溶かしていく。


「……行くぞ」


 カインは背を向けた。

 感傷に浸る時間は、彼らだけのものだ。部外者が立ち入るべきではない。


「待ってくれ!」


 エリックが呼び止めた。

 彼は涙を拭い、カインたちの前に立ちはだかる。

 だが、その手にはもう武器はない。


「……すまなかった。俺たちは、恐怖で目が見えなくなっていた」


 エリックは深く頭を下げた。プライドも、偏見も捨てて。


「礼を言わせてくれ。あんたたちが、俺たちを『呪い』から救ってくれた」

「勘違いするな」


 カインはぶっきらぼうに返した。


「救ったのは俺じゃない」


 カインはコレットを見る。


「あいつが道をこじ開けたから、俺の魔法が届いた。礼なら、そっちに言え」


 傍から見ればただの責任転嫁。

 だが、それがカインなりの、コレットへの賛辞であることを、エリックは悟ったようだ。


「ありがとう、導き手様。……いや、コレット」


 エリックはコレットの手を取り、感謝を伝えた。

 コレットは照れくさそうに、けれど誇らしげに微笑んだ。


「……頭を下げる暇があったら、村を立て直せ。精霊化が進んでいるとはいえ、腹は減るだろう」


 カインは背を向け、歩き出した。

 雲が切れ、満天の星空が広がっている。

 その北の果てに、揺らめくオーロラの帯が見えた。


「……源流は近い。行くぞ」


 カインの言葉に、二人の少女が頷く。

 白銀の隠れ里に、穏やかな朝が訪れようとしていた。

 それは、コレットの中に残る「最後の記憶」の一つとなる、美しい朝だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ