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【完結】咎人とアズライト〜国を捨てた魔法士は、記憶を失う転生者と旅をする〜  作者: 文月ナオ
第五章 隠れ生きる者達

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80話 白き災厄

 結界が砕け散る音が、悲鳴のように雪山に響き渡った。

 裂けた空から舞い降りたのは、吹雪そのものが形を成したような、巨大な白竜だった。

 その体は透き通る氷で構成され、翼を広げれば村全体を覆い尽くすほどの質量を持っている。


「グォォォォォ……ッ!!」


 咆哮だけで、家屋の屋根が吹き飛び、吹雪が乱れ狂う。

 絶対零度のプレッシャーが、村人たちの膝を折らせた。


「あ……ああ……」


 誰かが呻いた。

 武器を取り落とす音。絶望の深淵を覗き込んだような、虚ろな目。


「終わりだ……。伝説は本当だったんだ……」


 エリックが震える唇で、その名を紡いだ。


「あれは……氷獄(エンシェント・)(フロスト・)古竜(ドラゴン)!」


 数百年前に封印されたはずの、生ける災害。

 かつてこの地を死の世界に変えた元凶が、今、目の前に降臨している。

 誰もが死を悟り、祈ることさえ忘れて立ち尽くす中。


 ――ただ三人だけが、その災厄を真っ直ぐに見据えていた。


「……デカいな」


 カインは突風に煽られる髪を押さえ、不敵に笑った。

 その瞳に宿るのは、絶望ではなく、獲物を前にした狩人の鋭い光。


「怖いのか?リザ、足が震えてるぞ」


 カインがニヤリとしてリザに言う


「寒くておしっこ我慢してるだけ!」


 リザがニカッと笑う。


 そして、コレットもまた、胸元のアズライトの栞を強く握りしめ、一歩前へ出た。


 もう、迷いはない。

 守られるだけの少女ではない。

 彼女の瞳には、カインと共に戦うという、揺るぎない覚悟が燃えていた。


「何故だ…何故お前たちはあんな化け物を前にして…立ち向かえる…」


 エリックが3人の後ろ姿を見つめる


「リザ、目は利くか!」


「バッチリだよ!あいつ、全身がマナの塊っ!核が見当たんない!削れば出てくるかも知んないから、見えたら言う!」


「分かった。一応全部消し飛ばすつもりでやる」


 カインが指先を振るう。

 瞬間、彼の周囲に無数の火球が出現した。

 ただの火ではない。

 青白く輝く、超高温のプラズマ球体。


獄炎連弾インフェルノ・ガトリング


 カインの指揮に合わせて、火球が流星群のように白竜へ殺到する。

 着弾。爆発。 氷の鱗が溶け、蒸気が噴き上がる。

 村人たちが呆然と見上げる中、人間が災厄に牙を剥く、神話のような戦いが始まった。


 だが、白竜は痛痒も感じていないようだった。

 周囲の吹雪を取り込み、瞬く間に傷を再生させていく。


「全然効いてないよ!あいつ、この雪山そのものとリンクしてる!」


 リザが叫ぶ。

 白竜が翼をはためかせた。

 無数の氷柱つららが、雨のように降り注ぐ。

 一本一本が、城壁を貫く槍のような威力だ。


「させません……ッ!」


 コレットが前に出た。

 カインが攻撃に集中できるよう、守りはコレットが引き受ける。


(…先生…力を貸して…。

 …私と一緒に戦ってください…!)


光盾ライト・シールド・多重展開』


 コレットの頭上に、幾重もの光の盾が展開された。 氷柱が盾に突き刺さり、砕け散る。

 衝撃がコレットの細い腕を襲うが、彼女は一歩も引かない。


「いいぞ、コレット!」


 カインは背後の守りを彼女に任せ、跳躍した。

 風を纏い、空を駆ける。

 白竜の懐に飛び込み、掌に雷を集束させる。


「落ちろ!」


轟雷トール・ハンマー


 極太の雷撃が、白竜の脳天を直撃した。

 閃光と轟音。

 白竜がバランスを崩し、雪原に墜落する。

 だが、それでも倒れない。

 竜は起き上がりざまに、口から極大の吹雪を吐き出した。

 カインの雷撃さえも凍てつかせる


 概念的な「停止」の息吹。


「……厄介な…」


 カインは『熱遮断結界』を三重に展開し、直撃を防ぐ。

 だが、結界の表面がミシミシと凍りついていく。

 出力が拮抗している。

 カインでさえ、この神話級の大自然の化身とも言える災厄を力押しでねじ伏せるのは難しい。


「カイン!あいつの動き、単調だよ!」


 リザの声が風魔法による通信越しに届く。


「右の翼を動かす時、首元のマナが一瞬途切れる! そこが弱点じゃなくても、エネルギーの結節点になってるはず!」


 リザの『魔視』が、白竜の膨大なマナの奔流の中から、針の穴を通すような「隙」を見つけ出したのだ。


「分かった!コレット、頼む!」


 カインは口角を上げた。

 狙うべき場所が分かれば、あとは当てるだけだ。


「はいっ!」


 役割を言われなくても、阿吽の呼吸で、彼女は自分の魔力を、防御ではなく、カインのサポートへと切り替えた。

 セレーナとの特訓で培った、他者の術式への干渉。


「……開いてッ!!」


 コレットの魔力が、カインと白竜の間に渦巻く吹雪に干渉する。

 乱気流を発生させ、カインへの向かい風を、追い風へと反転させる。

 一瞬だけ生まれた、無風の回廊。


「貰った」


 カインがその回廊を突き進む。

 加速。 音速を超え、雷速へと至る神速の突撃。

 白竜が反応し、迎撃のブレスを吐こうとするが、遅い。


 カインの右手に、全属性のマナが収束する。

 炎の熱量、風の鋭さ、土の質量、水の柔軟性。

 それらを螺旋状に練り上げた、必殺の魔力砲。


螺旋崩壊スパイラル・ブレイク


 カインの拳が、リザの指示した「首元の結節点」に叩き込まれた。


 ドォォォォォォォンッ!!!


 光が弾ける。

 白竜の巨体が、内側からの衝撃波によってひしゃげ、吹き飛んだ。


「……ふぅ」


 カインは空中に着地し、荒い息を吐いた。 手応えはあった。

 マナの供給路を断ったはずだ。

 だが、白竜はまだ消滅していなかった。

 雪煙の中で、ゆらりと鎌首をもたげる。


「……嘘でしょ。あれで死なないの?」


 リザが絶望的な声を上げる。

 白竜の瞳が、怒りに赤く染まっていく。

 物理的なダメージではない。

 この災厄の正体は、生物ではなく「呪い」に近い。

 この土地の穢れそのものが具現化した存在。


「……なるほどな」


 カインは地上に降り立ち、コレットとリザの前に立った。 ただの火力では殺しきれない。

 ならば、別の手を使うまでだ。


「リザ、コレット。……仕上げだ」


 カインの背中に、最強の魔法士としての風格が漂う。 後ろには、怯える村人たち。

 前には、絶望の象徴。 だが、今の彼らには、敗北の文字は微塵も見えなかった。


「俺たちがここまで来た意味を、神様に教えてやるとするか」

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