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【完結】咎人とアズライト〜国を捨てた魔法士は、記憶を失う転生者と旅をする〜  作者: 文月ナオ
第四章 魂の追求者

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66話 理の囚人

 学術都市の地下深層、第零区画。

 その最奥にある制御室は、無数のモニターと、複雑怪奇な魔術回路の光に満たされていた。

 その中心で、ガリレオは静かに椅子に座り、手元の懐中時計を弄んでいた。

 チクタク、チクタク。

 規則正しい音が、彼の思考のリズムを刻む。


「……予定通りだ」


 ガリレオは独りごちた。

 モニターには、地上でカインたちが戦闘準備を進めている様子や、街の広場に配置されたキメラたちの映像が映し出されている。


「彼らは来る。……最高の素材パーツが、自ら飛び込んで来てくれる」


 ガリレオは機械仕掛けの義眼モノクルを撫でた。

 この義眼は、単に魔力を視るためのものではない。

 大賢者の遺産を解析し、この世界の「構造ソースコード」を読み解くために彼が自作した演算装置だ。


 彼の絶望は、幼少期から始まっていた。

 あまりに天才すぎたのだ。5歳で古代語を解読し、10歳で既存の魔法理論を論破した。

 周囲の大人たちは彼を称賛したが、ガリレオにとっては苦痛でしかなかった。

 世界が、あまりに単純すぎたからだ。

 魔法の法則も、人の思考も、すべてが底の浅いパズルのように見え、解き明かす喜びなどどこにもなかった。


(私は、生まれる世界を間違えた)


 そんな疑念が確信に変わったのは、大賢者の遺した「異界の知識」に触れた時だった。

 物理学、量子力学、宇宙論。

 そこには、この世界の魔法ごときが児戯に見えるほど、複雑で、美しく、完成された「理」があった。


『チキュウ』


 その世界には、魔法はない。

 だが、知性によって星の海さえ渡る技術があるという。

 ガリレオは戦慄し、そして嫉妬した。なぜ自分は、こんな未熟で、魔法という曖昧な力に頼る箱庭のような世界に生まれたのか。

 自分の知性を満たせる場所は、ここではない。

 あちら側(異界)こそが、私が本来あるべき座なのだ。


「……バルザックは愚かだった」


 ガリレオは冷笑した。


「賢者の石を使って不老不死になろうなどと。……この狭い檻の中で永遠に生きて、何が楽しい?」


 ガリレオの目的は、生存ではない。脱出だ。

 賢者の石とは、膨大なエネルギーを凝縮した「鍵」に過ぎない。

 それを使って次元の壁に穴を穿ち、自らの魂を異世界へと転送する。

「転生者」がこちらに来るなら、その逆も可能なはずだ。


 だが、それには莫大なエネルギーと、強固な「座標」が必要になる。

 凡人の魂を幾ら集めても、次元の圧力には耐えられない。


「だが、見つけた」


 ガリレオの義眼が、モニターに映るコレットを捉えて回転する。


「異界から渡ってきた、高純度の魂。彼女を触媒にすれば、帰還の道が開く」


 そして、カイン。

 あの男の規格外の魔力は、次元の壁を砕くための「爆薬」として最適だ。


「……そろそろ、時間か」


 ガリレオは立ち上がった。

 実験の準備は整った。あとは、材料をミキサーに放り込むだけだ。

 彼は操作盤に手を置き、スイッチを入れた。


『――テステス。……ああ、繋がっているかね?』


 街中に設置された魔導スピーカーが起動する。

 彼の声が、地上の平和な日常を切り裂いていく。


『親愛なるアレクサンドラの市民諸君。そして、私の可愛いサンプルたち』


 ガリレオは優雅に、狂気を纏って語りかけた。この放送は、宣戦布告ではない。

 彼にとっては、ただの「実験開始の合図」に過ぎない。


「さあ、始めようか。……この退屈な世界への、別れの挨拶を」


 ガリレオが指を鳴らす。

 地上に配置されたキメラたちの拘束術式が解かれ、飢えた獣たちが一斉に解き放たれる。

 悲鳴と破壊の音が、モニター越しに地下室へ届く。

 それをBGMに、狂気の天才は指揮棒を振るうように腕を広げた。

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