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【完結】咎人とアズライト〜国を捨てた魔法士は、記憶を失う転生者と旅をする〜  作者: 文月ナオ
第四章 魂の追求者

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64話 青き盾

 風を裂き、カインは駆けた。

 研究所までの距離が、永遠のように長く感じる。


(間に合え……ッ!)


 ガリレオの言葉が脳裏を過る。

『手足の欠けた死体くらいは拝めるかもしれんぞ』

 そんな結末は認めない。

 かつて国を捨てた時のような、何も守れなかった絶望を、二度と繰り返すわけにはいかない。


 研究所が見えた。防壁が崩れ、黒煙が上がっている。


「……ッ!」


 カインの心臓が凍りつく。

 遅かったか。

 カインは足を止めず、瓦礫の山を飛び越えて中庭へ突入した。


 だが。

 そこに広がっていたのは、彼が想像した地獄ではなかった。


「……え?」


 カインに担がれたリザが呆然とした声を漏らす。

 中庭の中心。

 そこには、半球状の巨大な「青い結界」が展開されていた。

 青色で、美しく、そして鋼鉄よりも強固な光のドーム。

 その内側には、無傷のヴィクターとアイシャ、そして肩で息をするコレットとセレーナの姿があった。


 周囲には、黒焦げになったキメラの残骸が無数に転がっている。

 敵は壊滅していた。


「……カインさん!」


 結界の中から、コレットが叫んだ。

 カインの姿を認めた瞬間、張り詰めていた糸が切れたように、青いドームが粒子となって霧散する。


「コレット……!」


 カインは駆け寄った。

 コレットはフラフラと倒れ込みそうになり、それをカインが抱き止める。

 体は震え、魔力は空っぽだ。だが、怪我はない。


「無事か……!」

「はい……。みんな、守れました……」


 コレットはカインの腕の中で、誇らしげに微笑んだ。


「……地下の方は調べがついたのか。遅すぎてこっちから行こうとしていたところだったぞ」


 セレーナが煤けた顔で笑った。

 彼女の足元には、リーダー格らしき男が白目を剥いて伸びている。


「お前がいない間に、こっちは大運動会だったんだぞ。……ま、おかげで良いものが見れたがな」


 セレーナはニカッと笑ってコレットの頭にポンと手を置いた。


「こいつの『魔力障壁』は完璧だった。敵の魔法を片っ端から弾き返した。……さすが、私の弟子だ」

「えへへ……」


 カインは呆然と周囲を見渡した。

 自分がいない間に、彼女たちは自分たちの力で生き延びたのだ。

 もう、コレットは守られるだけの存在ではない。

 共に戦い、背中を預けられる仲間として一人前の『魔法士』に成長したのだ。


「……そうか」


 カインの体から力が抜けた。

 安堵のあまり、膝から崩れ落ちそうになる。


「よかった……」


 カインはコレットを強く抱きしめた。

 言葉にならなかった。

 ただ、その温もりが、鼓動が、ここにあることへの感謝だけが胸を満たしていた。


「カインさん……? ちょっと……痛いです……」


 コレットは驚いたように目を丸くしたが、すぐにカインの背中に腕を回した。

 震えている。

 最強の魔法士である彼が、自分を失うことをこんなにも恐れてくれていたのだ。


「……もう、大丈夫です。……私、もう泣くだけじゃありませんから」

「ああ。……分かっている。強くなったんだな、コレット」


 カインは顔を上げ、セレーナとリザを見た。

 二人もまた、優しく微笑んでいる。


「帰ろう。……中なら安全だ」


 夕焼けが、傷ついた研究所を優しく照らしていた。

 それは、明日への希望を告げる、温かな朱色だった。

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