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【完結】咎人とアズライト〜国を捨てた魔法士は、記憶を失う転生者と旅をする〜  作者: 文月ナオ
第四章 魂の追求者

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59話 潜入前夜

 学術都市の地下深くに眠る『第零区画』。

 そこへの侵入経路を特定するため、カインとリザは夜の街へ繰り出していた。

 表向きは観光客を装い、裏通りで情報を集める。


「ねえカイン。本当に大丈夫なの?」


 リザが肉串を齧りながら、不安げに尋ねた。

 彼女の視力は戻っているが、『魔視』の精度は全盛期の半分ほどだ。地下の濃密なマナ汚染に耐えられる保証はない。


「無理はさせん。お前は入り口で待っていろ」

「私のことじゃなくて、カインの方だよ。それに私は絶対ついてくし」


 リザはふてくされたように頬を膨らませた。


「俺なら心配ない。ほぼ元通りだ。だが……心配してくれてありがとうな」

「う、うん……」


 リザが少し驚いて耳を赤らめる。


(なんか……カインって、前よりずっと話しやすくなった気がする)


「カインてさ、変わったよね」


 リザが足をブラブラさせながら呟く。


「……変わった……か。自覚は無いが……変、か?」

「ううん! 前より全然いい! 絶対いいよ!」


 リザが首を大きく横に振ってカインの顔を覗き込む。


「お、おう……」

「今のカイン、私好きだよ。頼れる近所のおじさんて感じ?」

「おじさん扱いは相変わらずなんだな」

「だっておじさんじゃん?」


 カインがフッと笑う。


「違いない」


          ◇


 一方、セレーナの研究所。地下の訓練場で、コレットは汗を流していた。


「遅い! イメージが追いついていないぞ!」


 セレーナの檄が飛ぶ。

 コレットの前には、魔法で生成された数体のダミー人形が立っていた。

 彼女の課題は、攻撃ではない。

『干渉』だ。


「相手の魔力を視て、その流れに自分の魔力を割り込ませろ。……破壊するんじゃない。流れを変えるんだ」


 セレーナの理論は高度だった。

 カインの『術式乖離』は、魔力を無効化する盾だ。

 対して、セレーナがコレットに教えようとしているのは、相手の術式に自分の魔力を流し込み、暴発させたり、霧散させたりする『カウンター』の技術。

 膨大な魔力を持つコレットだからこそ可能な、力技のジャミング。


「はいッ!」


 コレットは胸元のアズライトの栞を握りしめた。

 青い光が溢れる。

 ダミー人形が放とうとした火球の構成式に、コレットの異質な魔力が侵入する。

 赤と青が混ざり合い、火球は形を保てずにシュウと音を立てて消滅した。


「……できた」

「まあまあだな」


 セレーナは腕を組み、満足げに口元を緩めた。


「お前の魔力は『異物』だ。この世界のマナにとっては劇薬になる。……それを自覚して使えば、どんな魔法士相手でも隙を作れる。……アトス相手にでさえな」


 セレーナはニヤリと笑い、歩み寄り、コレットの乱れた髪を直してやった。

 その手つきは、不器用だが優しい。


「……強くなったな」

「先生のおかげです」

「違う。お前が、誰かのために強くなりたいと願ったからだ。お前自身の努力の結果だ」


 セレーナは目を細めた。

 かつて自分が、アトス(カイン)の背中を追って強くなろうとしたように。

 この少女もまた、誰かを守るために歯を食いしばっている。

 記憶が消える恐怖はある。

 けれど、今はそれよりも、ジークが残した足跡を知りたいという想いの方が強かった。


          ◇


 その夜。

 リビングに集まった四人は、ヴィクターが広げた地下地図を囲んでいた。


「第零区画への入り口は、旧下水道の奥に隠されています。封印は厳重ですが……カイン君とリザちゃんなら問題ないでしょう」


 ヴィクターが眼鏡を光らせる。


「ただし、内部の状態は不明です。封鎖されてから数十年、誰も立ち入った記録はありません。……ジーク君がそこで何を見たのか、あるいは何と戦ったのか」


 未知の領域。だが、そこにしか手掛かりはない。


「……何か、あるはずだ」


 カインは呟いた。

 あいつが、無意味に危険な場所へ挑むはずがない。

 そこには、転生者にとって重要な「何か」が眠っているはずだ。


「行くぞ。……正解を見つけにな」


 魔力は全快している。体調も万全だ。

 窓の外には、満月が浮かんでいる。

 静かな夜だった。

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