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【完結】咎人とアズライト〜国を捨てた魔法士は、記憶を失う転生者と旅をする〜  作者: 文月ナオ
第三章 【追憶編】黄金の姫

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51話 金色の陽光13

「あ、ああああああああっ!!」


 アトスの絶叫が、燃え盛る玉座の間に響き渡った。

 それは人間が発する声ではなかった。

 魂が砕け散り、その破片が擦れ合って上げる、断末魔の軋みだった。


 ギチチチチ……ッ。


 空間が歪む。

 アトスの体から、ドス黒い瘴気が噴き出した。

 溢れ出した魔力は、触れるもの全てを原子レベルで分解し、無へと帰していく。

 玉座が、柱が、天井が、音もなく消滅していく。


「……ッ!」


 セレーナは即座に動いた。

 アトスを止めるためではない。

 彼の足元に横たわる、フレデリカの亡骸を守るためだ。


「させない……! フレデリカだけは……!」


 セレーナは炎の障壁を展開し、アトスの瘴気を押し留めようとする。

 だが、アトスの暴走は止まらない。

 足元の床が耐えきれずに崩壊を始めた。


 ガラララッ!!


「あっ……!」


 床が抜け、フレデリカの体が重力に引かれて落ちていく。

 その下は、崩れ落ちた城の基部――深く暗い地下空間だ。


「フレデリカッ!!」


 セレーナが手を伸ばす。

 だが、届かない。

 金色の髪が、炎と瓦礫の中に吸い込まれ、闇へと消えていった。

 その光景が、セレーナにフレデリカの死という絶望的な現実を激しく痛感させた。


「ふざけんな……」


 セレーナの理性が焼き切れた。

 親友の亡骸すらも満足に守れない自分への無力感。

 そして、その原因を作り、狂乱するアトスへの激しい怒り。


「フレデリカになにしてんだぁああ!!!!」


 セレーナがブチギレた。

 彼女はアトスに向き直り、全身の魔力を解放した。


「ああああああっ!!!」


 紅蓮の炎が渦を巻く。

 防御など考えない。

 自身の命すら薪にくべて、ただこの馬鹿野郎を殴り飛ばすためだけの熱量。

 セレーナはアトスに飛びかかり、その胸倉を掴もうとした。


「目ぇ覚ませ! バカ! これ以上、私たちの思い出を汚すなよッ!!」


 だが。


 ドォォォォンッ!!


 接触の瞬間、アトスから放たれた衝撃波が、セレーナを弾き飛ばした。

 理屈の通じない、純粋な力の拒絶。

 セレーナの炎ごと、彼女の体は木の葉のように吹き飛ばされ、壁に激突した。


「が、はっ……」


 セレーナは血を吐き、崩れ落ちた。

 意識が遠のく。

 視界の端で、黒い怪物がまだ叫んでいるのが見えた。


(……止めなきゃ……アトス……)


 願いは届かず、セレーナは暗い意識の底へと沈んでいった。


          ◇


 玉座の間は、もはや原形を留めていなかった。

 天井は抜け落ち、黒い空が見える。

 その中心で、アトスはまだ暴走を続けていた。

 近づくもの全てを消滅させる、歩く災厄。


 そこへ、一つの影が疾走してきた。

 廊下で衛兵を相手にし、血まみれになった男

 ――ジークだ。

 彼は異様な魔力の奔流を感じ取り、取って返してきたのだ。


「……おいおい、マジかよ」


 ジークは惨状を目の当たりにする。

 フレデリカの姿はなく、セレーナが倒れている。

 そして、親友だった男が、世界を壊そうとしている。


「アトス……」


 ジークは剣を構えた。

 マナを持たぬ彼にとって、あの黒い瘴気は猛毒に等しい。

 近づくだけで肌が焼けるような感覚がある。

 だが、彼は一歩も引かなかった。


「……ウアァァァッ!!」


 アトスがジークに気付き、黒い棘を放つ。

 光速に迫る魔法の刃。

 ジークはそれを、紙一重で弾いた。


 キンッ!


 剣先が魔力を斬り裂く。

 ジークは踏み込んだ。

 嵐の中を突き進む小舟のように、暴走するエネルギーの隙間を縫って、アトスへと肉薄する。


「……どいつも……こいつもよぉ……」


 ジークの剣閃が走る。

 アトスの防衛本能が働き、全方位から魔法が襲いかかる。炎、雷、氷、風。

 無秩序な魔法の雨を、ジークは神速の剣技で叩き落とし、躱し、斬り伏せていく。


 ――互角。

 いや、理性を失って単調になったアトスに対し、ジークの技が勝っていた。


 ジークは目にも止まらぬ速さでアトスの懐に潜り込んだ。

 密着距離。

 アトスの虚ろな瞳が、ジークの揺るぎない輝きを宿す強い瞳を映す。


「……頼むぜ……相棒……」


 ジークは剣を逆手に持ち替え、アトスの胸に切っ先を当てた。


「お前は、そんなに弱ぇヤツじゃねぇだろ……」


 悲痛な呟きと共に、ジークは剣を突き刺した。

 心臓へ。

 肉を貫く感触。


「……ガ、ッ……」


 アトスの動きが止まった。

 口から血が溢れ、体から噴き出していた黒い霧が、急速に霧散していく。

 暴走が収まる。

 ジークは剣を引き抜いた。

 致死傷だ。

 普通の人間なら即死する。

 だが。


 シュウゥ……。


 傷口から黒い煙が上がり、開いた穴が瞬時に塞がっていく。

 アトスの体内に宿る膨大な魔力が、宿主の死を拒絶し、無理やり修復したのだ。

 超人的な肉体のその副産物、超人的な五感を持つジークのその鋭さと、野生の勘が、アトスの心臓を貫いても死なないはずだと、根拠のない謎の自信を生み出した。

 その自分の勘を信じたが故の結果である。


「……為せば成る。ゴーイングマイウェイ……ってやつ? ……ったく……」


 アトスは糸が切れたように膝をつき、そのまま横倒しになった。

 意識はない。

 ただ、深く、泥のような眠りについただけだ。


「……俺は……目覚まし時計じゃねぇっつーの……」


 軽口を叩きながらも、ジークは立ち尽くし、親友を見下ろした。

 その手は震えていた。

 守りたかった少女は消え、仲間は傷つき、自分は親友の心臓を刺した。


「……こんな気持ちにさせんじゃねぇよ……」


 燃え落ちる城の中で、ジークは一人、動かなくなったアトスの傍らに立ち続けていた。

 これが、最強と呼ばれた「三強」の最期であり、世界を救うために全てを失った「咎人」の誕生だった。

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