表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】咎人とアズライト〜国を捨てた魔法士は、記憶を失う転生者と旅をする〜  作者: 文月ナオ
第三章 【追憶編】黄金の姫

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/161

50話 金色の陽光12

「なんだ!?」

「謁見の間の方だ! 急ぐぞ!」


 廊下から、無数の足音と騎士たちの怒号が響いてくる。

 異変を察知し、城中の兵士が殺到しているのだ。


「……まずいな」


 ジークが舌打ちし、剣を抜いた。

 その背中は、いつもの飄々としたものではなく、覚悟を決めた男のものだった。


「俺が足止めする! お前らはフレちゃんを頼むぞ!」


 ジークはアトスとセレーナを背に、廊下へと飛び出していった。

 キンッ、と金属音が響き、怒号が遠ざかる。


(……ああ)


 フレデリカの意識が、少しずつ闇に沈んでいく中で、彼女はジークの背中を見送った。


(ジークにお別れを言えなかった……。お兄ちゃんって……呼んであげたかったのに……)


 いつも軽口を叩いて、でも誰よりも全てを見通していて、優しい、兄のような人。

 彼ならきっと、一人でも大丈夫だ。

 そう信じるしかない。


「……セレーナ」


 フレデリカは、傍らで泣きじゃくる赤い髪の親友に視線を移した。


「セレーナ……いっぱい……辛い目に合わせてしまってごめんなさい」

「そんなのいいから……! 謝らないでよ……!」

「みんなはあなたを勝ち気な人だって言うけど……私は知ってるよ……」


 フレデリカは震える手を伸ばし、セレーナの頬に触れた。


「あなたは……ただの優しい普通の女の子だって……」


 涙が、指先を濡らす。


「あなたのその美しい赤い髪……。鍛錬の邪魔になるから切ろうかなと相談してきた時、私はその髪を切って欲しくなくて、髪紐をプレゼントした」

「……うん……覚えてる……」

「その髪紐……ずぅっっと……。……使ってくれてたもんね……」


 セレーナは、ほどけた髪を握りしめ、ボロボロと涙をこぼした。


「今も……この手に持ってるよ。ポニーテールを解いたのは……ここにフレデリカを迎えに来る決意をしたからだよ」


 セレーナは泣き笑いのような顔を作った。


「あなたが綺麗って言ってくれた私の髪は……私の自慢になった。だから……この髪を靡かせて、颯爽と迎えに来るつもりだったのに……っ」


 フレデリカが震える手で、セレーナの赤い髪を梳く。

 柔らかく、温かい。


「……あぁ……やっぱり……綺麗……」

「………フレデリカ……私ね……ずっと……言いたかったけど、言えなかったことがあるんだ」


 セレーナはフレデリカの手を両手で包み込んだ。


「……なに……?」

「……大好きだよ」


 万感の思いを込めた、愛の言葉。

 フレデリカは、涙を流し、ふわりと笑った。


「……えへ。知ってた」

「……へへ……バレてたか」


 二人は笑い合った。

 王女と騎士ではなく、ただの親友として。


「……私も……これからもずっと、大好き。セレーナ」


 ゴフッ。


 フレデリカが血を吐いた。

 命の灯火が、今まさに消えようとしている。


「フレデリカ様!」

「フレデリカ!」


 アトスとセレーナが悲痛な声を上げた。

 フレデリカは、霞む視界でアトスを見つめた。

 大好きな、黒髪の騎士。


「……ねえアトス……アトスだけは……最後まで私を呼び捨てでちゃんと呼んでくれなかったね」

「……!」


 アトスは言葉を詰まらせた。

 主従の壁。

 それを越えてしまえば、もう戻れないと知っていたから。


「……私ね……気付いてたよ。それがきっと……私への『答え』なんだろうなぁって……」

「……なにを……」

「……私は……あなたのことを愛しています……」


 フレデリカの声が、囁きに変わる。


「あなたが私を見つけてくれた、あの日から」


 アトスの目が見開かれた。

 アトスの脳裏に、ホットミルクを飲むあの日のフレデリカの横顔が浮かぶ。


「届かなくていい……叶わなくていい……ただ、最後に一度だけ……」


 フレデリカは、アトスの頬に手を添えた。


「私の名前を、ちゃんと呼び捨てで……呼んで欲しい」

「……最後なんかじゃない……!」

「………あなたを修羅に落として……ごめんなさい……アトス……貴方に心からの感謝を……」


 アトス。

 最愛の人の名を呼び、彼女は微笑んだ。


「私の人生に、色を付けてくれてありがとう……」


 フレデリカの手が、ストンと落ちる。

 アトスの頬から、温もりが消えた。


「……フレデリカ……? フレデリカ……!!」


 アトスは彼女の体を揺すった。

 だが、返事はない。

 銀色の瞳は閉じられ、もう二度と開くことはない。

 呼び捨てのその名前も、彼女には届かなかった。


「あ、ああああああああっ!!」


 アトスの絶叫が、燃え盛る玉座の間に響き渡った。

 アトスという男が壊れた瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ