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【完結】咎人とアズライト〜国を捨てた魔法士は、記憶を失う転生者と旅をする〜  作者: 文月ナオ
第三章 【追憶編】黄金の姫

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40話 金色の陽光2

 王都の中央広場は、祭りのような賑わいを見せていた。

 色とりどりの屋台が並び、香ばしい匂いが漂ってくる。


「わぁ……! アトス、あれ何かな? すっごくいい匂い!」


 フレデリカが瞳を輝かせ、アトスの袖を引く。

 彼女が着ているのは、城から持ち出した平民風のワンピースだ。

 だが、その金髪と銀の瞳、そして隠しきれない気品が、すれ違う人々の視線を集めてしまう。

 アトスはさりげなく彼女の前に立ち、視線を遮った。


「串焼きですね。……あまり脂っこいものは、お体に障りますよ」

「えー、ケチ! 一口だけ! 一口だけだから!」


 フレデリカが上目遣いでねだる。

 アトスはため息をつき、結局財布を取り出した。

 この王女のおねだりに勝てたためしがない。


「一本だけですよ」

「やった! 大好き、アトス!」


 フレデリカは満面の笑みで串焼きを受け取り、アトスに抱きついた。

 その様子を、少し離れた場所からジークとセレーナが見守っている。


「……はしたない」


 セレーナがボソリと呟いた。

 その視線は、アトスの腕に回されたフレデリカの手に釘付けになっている。


「王女ともあろうお方が、公衆の面前で男に抱きつくなんて。……大体! アトスもアトスだ! 満更でもない顔しちゃってさ!」

「おんやぁ? 妬いてんのぉ? ジェラってんのぉ? セレーナちゃぁん?」


 ジークがニヤニヤしながら顔を覗き込む。

 セレーナは顔を赤くし、ジークの足を思い切り踏んづけた。


「誰が! 護衛としての節度を心配してるだけだよ!」

「痛ってぇ……! ったく、素直じゃないねぇ。ま、姫様にパリピ感があるのは俺も認めるけどさ、たまの自由くらい、めいっぱい楽しんでもいんじゃね?」

「パリピ? なにそれ。あんた時々変な言葉使うよね」

「パリピ知らんか〜。『浅い』ね」

「……なんかバカにされてるみたいでムカつくんだけど」

「バカにしてんだよ?」

「クソが!」


 セレーナが再びジークの足を踏みつける。

 ジークは片足で飛び跳ね悶絶する。

 セレーナはフンと顔を背けたが、その目はやはり、楽しそうに笑う二人を追ってしまう。

 アトスへの憧れ。

 そして、彼が自分には見せない優しい顔を、あの王女には向けることへの、小さな嫉妬。


「ふたりとも!」


 不意に、フレデリカが振り返って手を振った。

 その手には、さらに三本の串焼きが握られている。


「みんなの分も買ってもらったよ! 一緒に食べよ?」

「え……」


 セレーナが驚いている間に、フレデリカは駆け寄ってきて、熱々の串焼きを押し付けてきた。


「はい、セレーナの分! 一番おいしそうなの選んだからね!」

「あ、ありがと……ございます」

「敬語禁止! 今はただのフレデリカだもん」


 フレデリカは悪戯っぽく笑い、セレーナの手を握った。

 その手は温かく、柔らかい。

 嫉妬など吹き飛んでしまうほど、無邪気で、純粋な好意。


「ジークもほら! 一番お肉大きいやつ! 落とさないでね?」

「姫様のお奢りたぁ、光栄ですなぁ。ただの串焼きが輝いてらァ!」

「ふふ。なにそれ? ジークっていつ喋ってもおかしい人」

「『頭が』おかしいのは合ってる」


 セレーナがぽつりと言う。


「うおい」

「というか、金出したのは俺だ。お前らは後で金払ってもらうからな」


 四人は並んでベンチに座り、串焼きを頬張った。

 王女と、騎士たち。

 身分も立場も超えて、ただ美味しいものを共有する時間。


「おいしいね」


 フレデリカが幸せそうに呟く。

 その横顔を、アトスが静かに見つめていた。

 主君を見守る騎士の目。

 だが、そこには忠誠以上の、どこか切ない色が混じっているように見えた。


「うまいです」


 アトスが同意する。

 セレーナは串焼きを齧りながら、思った。

 この時間が、永遠に続けばいい。

 アトスが笑って、フレデリカが笑って、馬鹿なジークが茶化して。

 そんな当たり前の明日が、ずっと続くと思っていた。


 だが、空の向こうでは、暗雲が立ち込め始めていた。

 時代の歯車が、彼らを逃しはしない。

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