30話 紅蓮の防壁
地下霊廟が、赤と黒の閃光に塗りつぶされる。
カインが放つ漆黒の奔流を、セレーナの紅蓮の炎が食い止める。
衝撃波が壁を砕き、天井を揺らすが、セレーナは一歩も引かない。
「……」
セレーナは杖も使わず、素手で炎を操る。
カインの攻撃は単調だ。
理性を失い、ただ目の前の敵を消滅させることしか考えていない。
だが、その出力が異常すぎる。防ぐ端から次弾が来る。息つく暇もない飽和攻撃。
カインの足元から、影が棘のように伸びて襲いかかる。
セレーナは眉をひそめ、炎の壁を展開して影を焼き払った。
だが、単に防ぐだけではない。彼女は炎の壁をドーム状に広げ、衝撃が天井へ抜けるのを防いでいた。
(……加減を知らんのか馬鹿が)
ここは街の地下だ。
カインの理不尽な魔力をそのまま暴れさせれば、地盤が崩落し、上の街ごと沈んでしまう。
セレーナは攻撃を受け流す際も、余波が支柱や壁に行かないよう、爆風のベクトルを極限までコントロールしていた。
戦いながら、守る。
それは針の穴を通すような、神経を削るほどの神業。
「だからお前のことが嫌いなんだよ。アトス。いや、今はカインだったか? いつだって守りたいものも守れない情けないやつだなお前は」
セレーナが挑発し、巨大な火球を放つ。
カインが反応し、迎撃の闇を放つ。
二つの力が衝突し、相殺される。
その隙に、セレーナは位置を変え、カインの意識を出口や壊れそうな壁から逸らし続ける。
「……ァ……」
カインの瞳には、セレーナの姿など映っていない。
ただ、目の前に立ち塞がる高熱のエネルギー体を排除しようと、無尽蔵に魔力を垂れ流すだけだ。
堰を切ったダムのように、世界を滅ぼしかけた力が溢れ出している。
「コレット!」
セレーナは炎の結界を維持しながら、背後で立ち尽くす少女に声をかけた。
「……はいッ!」
「後で、お前にやってもらうことがある。準備だけしておけ」
短い指示。
具体的な内容は言わない。
だが、その声色には「お前ならできる」という確信が込められていた。
「私の合図があるまで、魔力を練っておけ。……あの馬鹿を起こすには、私の炎だけじゃ足りん」
セレーナは言い捨て、再びカインに向き直る。
物理的な制圧なら可能だ。
だが、それではカインの心までは救えない。
闇を焼くことはできても、照らすことはできないからだ。
「……少々手荒くいくぞ、カイン。死んでも恨みっこはなしだ」
セレーナは覚悟を決めた瞳で、かつての戦友を見据えた。
両手を広げる。
彼女の周囲に展開されていた炎が、意思を持った生き物のように収束していく。
その凄まじい炎は守勢の終わりを告げた。
「お前の汚いその闇は、私が全部……抱きしめて燃やし尽くしてやるよ。美女からの熱い抱擁だ! 嬉しいだろ!! アトス!!!」
セレーナは不敵な笑みを浮かべる。
セレーナの全身から、爆発的な熱量が噴き出した。




