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【完結】咎人とアズライト〜国を捨てた魔法士は、記憶を失う転生者と旅をする〜  作者: 文月ナオ
第二章 紅蓮の魔女と狂気の研究者

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30話 紅蓮の防壁

 地下霊廟が、赤と黒の閃光に塗りつぶされる。

 カインが放つ漆黒の奔流を、セレーナの紅蓮の炎が食い止める。

 衝撃波が壁を砕き、天井を揺らすが、セレーナは一歩も引かない。


「……」


 セレーナは杖も使わず、素手で炎を操る。

 カインの攻撃は単調だ。

 理性を失い、ただ目の前の敵を消滅させることしか考えていない。

 だが、その出力が異常すぎる。防ぐ端から次弾が来る。息つく暇もない飽和攻撃。


 カインの足元から、影が棘のように伸びて襲いかかる。

 セレーナは眉をひそめ、炎の壁を展開して影を焼き払った。

 だが、単に防ぐだけではない。彼女は炎の壁をドーム状に広げ、衝撃が天井へ抜けるのを防いでいた。


(……加減を知らんのか馬鹿が)


 ここは街の地下だ。

 カインの理不尽な魔力をそのまま暴れさせれば、地盤が崩落し、上の街ごと沈んでしまう。

 セレーナは攻撃を受け流す際も、余波が支柱や壁に行かないよう、爆風のベクトルを極限までコントロールしていた。

 戦いながら、守る。

 それは針の穴を通すような、神経を削るほどの神業。


「だからお前のことが嫌いなんだよ。アトス。いや、今はカインだったか? いつだって守りたいものも守れない情けないやつだなお前は」


 セレーナが挑発し、巨大な火球を放つ。

 カインが反応し、迎撃の闇を放つ。

 二つの力が衝突し、相殺される。

 その隙に、セレーナは位置を変え、カインの意識を出口や壊れそうな壁から逸らし続ける。


「……ァ……」


 カインの瞳には、セレーナの姿など映っていない。

 ただ、目の前に立ち塞がる高熱のエネルギー体を排除しようと、無尽蔵に魔力を垂れ流すだけだ。

 堰を切ったダムのように、世界を滅ぼしかけた力が溢れ出している。


「コレット!」


 セレーナは炎の結界を維持しながら、背後で立ち尽くす少女に声をかけた。


「……はいッ!」

「後で、お前にやってもらうことがある。準備だけしておけ」


 短い指示。

 具体的な内容は言わない。

 だが、その声色には「お前ならできる」という確信が込められていた。


「私の合図があるまで、魔力を練っておけ。……あの馬鹿を起こすには、私の炎だけじゃ足りん」


 セレーナは言い捨て、再びカインに向き直る。

 物理的な制圧なら可能だ。

 だが、それではカインの心までは救えない。

 闇を焼くことはできても、照らすことはできないからだ。


「……少々手荒くいくぞ、カイン。死んでも恨みっこはなしだ」


 セレーナは覚悟を決めた瞳で、かつての戦友を見据えた。

 両手を広げる。

 彼女の周囲に展開されていた炎が、意思を持った生き物のように収束していく。

 その凄まじい炎は守勢の終わりを告げた。


「お前の汚いその闇は、私が全部……抱きしめて燃やし尽くしてやるよ。美女からの熱い抱擁だ! 嬉しいだろ!! アトス!!!」


 セレーナは不敵な笑みを浮かべる。

 セレーナの全身から、爆発的な熱量が噴き出した。

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