【後日譚】紡がれる物語
山沿いにポツンと建つ、小さな家。
その静かな外観とは裏腹に、家の中は嵐のような慌ただしさに包まれていた。
「お湯、もっと持ってきて! ノエルちゃん、清潔な布を!」
「はい、コレットさん!」
コレットとノエルが、額に汗を浮かべて走り回る。
予定日よりも早い産気づき。運悪く産婆の到着も遅れている。
だが、コレットに迷いはなかった。
彼女の手には、かつてセレーナから叩き込まれた医学の知識と、カインと共に数多の修羅場を潜り抜けてきた度経が宿っていた。
ベッドの上では、あどけなさを残したリザが、苦しげな呼吸を繰り返している。
その手を、シオンが壊れ物を扱うような力加減で、けれど決して離さないという意志を込めて握りしめていた。
「リザ、頑張って……! 僕がついてる、みんながいる!」
「っ……シオン……うっ、うるさい……っ! 分かってる、よ……! おっきい声……お腹に響くからやめて!」
強がりを言う余裕はまだある。
だが、その顔は苦痛と、それ以上の期待に赤く染まっていた。
「リザ、次の波でしっかり息を止めて……せーのっ!」
コレットの鋭い声。
家中に、リザの渾身の叫びが響き渡った。
直後。
全てを祝福するかのような、高い産声が、小さな部屋を満たした。
「……リザ! 見て、男の子だよ!」
コレットが、産まれたばかりの新しい命を丁寧に抱き上げる。
シオンは腰が抜けたように安堵し、リザは荒い息を吐きながら、愛おしそうに赤子を見つめた。
「産まれてきてくれて……ありがとう……」
リザの瞳から、一筋の涙がこぼれる。シオンが震える声で尋ねた。
「……リザ。名前は、何にする?」
「ふふ……そんなの、最初から決まってるよ」
リザはコレットと顔を見合わせ、二人で同時に、確信に満ちた笑みを浮かべる。
コレットは慈愛に満ちた顔で、赤子の小さな瞳を覗き込んだ。
「おはよう。カイン」
◇
私たちの旅は、いつまでだってずっと続く。
三人から、二人になっただけ。
でも、いなくなった一人のことを、忘れたことは一度もない。
大切で、愛おしくて、少しだけ切なくて……。
私達の心には、あの日のすべてがちゃんと刻まれている。
私はその思い出のすべてに、この【栞】を挟んでいる。
いつでも、一瞬であの日に戻れるように。
そして今も、きっと。
この世界のどこかで。
私たちの知らない、遠い、遠いどこかでは。
誰かが誰かを救う物語が、新しく紡がれている。
ここまでご覧頂きありがとうございました。
本日は大切なお知らせがあります。
新しく異世界ファンタジー作品を投稿いたしました。
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