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【完結】咎人とアズライト〜国を捨てた魔法士は、記憶を失う転生者と旅をする〜  作者: 文月ナオ
最終章 咎人とアズライト

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151話 約束の場所

 聖教自治区の崩壊から数日が過ぎた。

 白亜の塔が崩れ去った街は、まだ混乱の渦中にあったが、そこには以前のような閉塞感はなかった。

 ザック率いるレジスタンスが戦意を失った枢機卿とギデオンを拘束し、事件はひとまず一件落着となった。

 そしてレジスタンスが暫定的な自警団となり、治安維持と食料配給を行っている。

 支配者はいなくなったが、人々は初めて「誰かに監視されない自由」を噛み締めていた。


「……行くのか?」


 城門の前。新しい革鎧に身を包んだザックが尋ねた。


「ああ。長居は無用だ」


 カインは荷物を背負い直した。傷は塞がっていない。体中の骨が悲鳴を上げている。

 だが、その足取りは以前よりも力強かった。魔法という翼を失った代わりに、大地を踏みしめる足を手に入れた男の顔つきだ。


「寂しくなるな。……また来いよ。今度は美味い酒を奢る」

「……気が向いたらな」


 カインは短く答え、ザックと硬い握手を交わした。

 セレーナもまた、ザックと言葉を交わしている。彼女はもう少しこの街に残り、魔導設備の解体やノエルの治療経過を見届けてから、学術都市へ戻るという。


「達者でな」

「はい! 先生も、お元気で!」


 コレットが深々と頭を下げる。セレーナは満足げに微笑み、コレットの頭を撫でた。


「ありがとうな。色々と」

「えっ?」

「……あのバカを、地獄の底から掬い上げてくれてありがとう」

「……えへへっ」


 そして、少し離れた場所では。

 リザとシオンが向き合っていた。

 シオンは包帯だらけの姿だが、背筋を伸ばして立っている。その横には、車椅子に乗ったノエルがいた。まだ顔色は青白いが、その瞳には生気が戻っている。


「……本当に行くんですか、リザさん」


 シオンが名残惜しそうに問う。


「うん。……ここにいたら、シオンの邪魔になっちゃうしね」


 リザはわざと明るく言った。

 シオンはこれから、罪を償い、この国を正しい形に導くために茨の道を歩むことになる。ザックと共に、新しい聖騎士団を作るのだと言っていた。


「邪魔なわけ……ありません。あなたがいてくれたら、僕は……」


 シオンは言葉を飲み込み、そして優しく微笑んだ。


「……いいえ。引き留めるのは、僕のエゴですね。あなたは、風のように自由でいるのが似合います」

「ふふ、よく分かってるじゃん」


 リザはニカッと笑った。

 二人の間に、沈黙が流れる。言葉にしなくても通じ合う、甘酸っぱい空気。


「……また、会えますか?」


 シオンが問いかける。


「会いたい?」


 リザが意地悪く聞き返す。シオンは真っ直ぐにリザの目を見て、力強く頷いた。


「……はい。会いたいです」

「そっか」

「……会いに行きます。リザさんがどこにいても、必ず」


 シオンの誓い。

 リザは嬉しそうに目を細め、そして背伸びをした。


 チュッ。


「……!」


 シオンが目を見開く。柔らかい感触が、彼の頬に触れた。

 雨の日とは違う、陽だまりのような温かいキス。

 ノエルが「わぁ」と口元を押さえて目を輝かせている。


「ファーストキスならさ、勢いとかノリとか間違いが起こるかもだけど、これは2回目だから。間違いないね」


 リザは顔を離し、真っ赤になりながら言った。


「えっ……あっ……」


 シオンは顔を真っ赤にして声を掛けられない。


「じゃあ、待ってるね。でも私は移り気だから、気が変わってたらごめんね!」


 照れ隠しのように舌を出して、リザはクルリと背を向けた。

 そして、待っていたカインたちの元へ駆け出していく。


「リザさん……」


 シオンは頬に手を当て、その後ろ姿を見送った。

 もう迷わない。いつか彼女に再会した時、胸を張れる自分であるために。


「終わったか」


 カインがリザを迎える。リザは「うん!」と元気に答え、馬車に飛び乗った。


「カインさん、行きましょう」


 コレットが御者台に座るカインに声をかける。


「ああ」


 カインは手綱を握った。

 魔法は使えない。これからは、こうして自分の手で馬を御し、剣を振るい、生きていかねばならない。

 不便だ。面倒だ。

 けれど、悪くない。


「行くぞ!」


 カインの掛け声と共に、馬車が動き出す。

 城壁の上から、ザックやセレーナ、シオンたちが手を振っているのが見えた。


 馬車は街道を進む。


「ねえ、次はどこ行くの?」


 リザが身を乗り出して尋ねる。さっきまでの別れの寂しさはどこへやら、もう次の冒険に目を輝かせている。


「どこに行きたい?」


 カインが逆に問いかける。リザはコレットと顔を見合わせ、満面の笑みで答えた。


「みんなと一緒なら、どこでも!」

「そうか」


 カインは空を見上げた。

 どこへでも行ける。

 この手にはもう、世界を滅ぼすような力はないけれど、大切な家族を守る力なら、十分に握りしめている。


 カインは手網を握る自分の手を見つめた。


 ……そう……どこへでも……。


「……風の向くまま行ってみよう」


「じゃ!出発進行ー!」

「おー!!」


 笑い声と共に、馬車は荒野を駆けていく。

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