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【完結】咎人とアズライト〜国を捨てた魔法士は、記憶を失う転生者と旅をする〜  作者: 文月ナオ
第七章 少女たちと精霊

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98話 萌芽の季節

「さあさあ! 悪い空気は全部吹き飛んだわ! これより、スーパーハイパーお茶会を開催しまーす!」


 ルビィが高らかに宣言した。

 どこからともなく現れたのは、木苺のタルト、ハチミツのシフォンケーキ、そして香り高い紅茶の数々。

 森の精霊たちが、感謝の印として用意してくれた宴だ。


「ふふ、やっぱりここのお菓子は最高ね」


 エレナが切り株に腰掛け、優雅に紅茶を啜る。彼女の表情も、再会した時よりずっと柔らかく、晴れやかだった。

 コレットはルビィと並んで座り、甘いケーキを頬張る。

 栞の魔力も落ち着き、体には心地よい疲労感と充実感があった。


「美味しい……。これ、カインさんやリザちゃんにも食べさせてあげたいな」


 コレットは甘いクリームを頬張りながら、森の外で待っているはずの仲間たちを思った。

 きっとリザは、「うわー! 美味しそう!」と猫のような瞳をキラキラと輝かせて喜んでくれるだろう。

 カインは、眉間に皺を寄せながらも、「悪くない」と言って食べてくれるはずだ。


 楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。

 ふと、ルビィがコレットの膝の上で空を見上げた。


「……そろそろ、コレットもエレナも、帰りたいよね?」


 その言葉に、コレットの手が止まる。

 空には、プリズマリア特有の柔らかな光が満ちているが、いつまでもここに留まることはできない。

 外には、戻るべき場所と、待っている人がいる。


「……そう、だね」


 コレットはカップを置き、隣に座るエレナを見た。彼女は静かに微笑んでいる。


「先輩とは、ここでお別れですか?」


 コレットの声が、少し寂しげに響いた。

 短い間だったけれど、一緒に死線を潜り抜け、背中を預け合った大切な相棒。


「……いつでも会えるわよ。会おうと思えばね」


 エレナは優しく答えた。そして、改まったようにコレットに向き直る。

 その銀色の瞳が、真剣な光を帯びていた。


「それとね、コレット。私あなたに言わなくちゃいけないことがあるの」

「えっ……?」


 エレナの纏う空気が、ふわりと変わった。

 快活で頼れる先輩魔法士の顔から、どこか儚げで、けれど芯の強い女性の顔へ。


「私の本当の名前、エレナじゃないの。それは、私が生きるために用意された嘘の名前。……私の本当の名前、あなたには知って欲しいんだ」


 エレナがそっと手を伸ばし、コレットの頬に触れた。その手は温かく、少しだけ震えているようにも感じられた。


「先輩……」

「私の本当の名前はね。……フレデリカっていうの」


 時が、止まった気がした。


「……フレ……デリカ……」


 コレットはその名前を、口の中で反芻する。

 聞き覚えがあった。いや、ただの聞き覚えではない。


 覚えていた。強く、強烈に。

 カインの過去を知る上で、絶対に忘れてはならない名前だったから。

 カインが、まだアトスと呼ばれていた頃の、大切な仲間であり、失ったと嘆いていた女性の名前。


 コレットは目の前の少女を凝視した。

 金色の髪に、銀色の瞳。

 見た目は自分より幼い15歳前後だが、彼女は自分を33歳だと言っていた。

 セレーナは言っていた。15年前、フレデリカは18歳だったと。


「……? コレット?」


 同じ名前の別人。そう思うこともできたはずだ。フレデリカは死んだと聞かされた。

 世界は広い。偶然の一致かもしれない。

 だが、コレットの直感が、アズライトの栞が、そうではないと告げていた。

 この人が纏う空気、風貌、気品。

 直接会ったこともないのに、心が、この人は本物だと告げた。

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