7話 鱗片を知り得た者
お久しぶりです。1ヶ月に一度投稿頻度を設け頑張っています。ただ、他の作品も頑張らないといけないので頑張ります!
明日は転スラを投稿いたします。
私はルミナスを護れなかった。
後悔先に立たず。私は自分が倒れた後の事を全く考えていなかった。
あの男に殺されたのならば、私と言う存在意義は失われてしまう。
あの男……あの男?誰だったか?……何故かよく思い出せない。
しかし私は敗れた。己を知るルミナスを遺して死んだ。
ただもう一度生き返ったのならば、私はこの肉体と魂に誓って言う。
私は弱い。だから強者に刃向かえずに死んだ。
彼女を守れるほどに私が強く在らなければ‼︎
温もりを感じる。首が妙に心地良い。ずっとこうしていたい感覚で肌の温もりのような、まるで母性味を感じる触感。
久しく抱くのは夢心地。私はゆっくり意識が現実へと戻されていく。
目を覚ますと、ルミナスの膝元に首を乗せられていた。思わず離れ、彼女を驚かせてしまう。
「すまない…」
「あっ……いいえこちらこそ…。良かった、目覚めてくれて…」
起き上がった肉体を労わるように寝かし付けられ、私はされるがままにまた膝の上に頭を乗せる。
ココロは火元で枝を入れて遊んでおり、ルミナスは優しい笑みで撫で続ける。無性にも母性を感じ、膝の上から離れようとは思わなかった。
ちょうど頭に収まりが良く、このままずっと寝かし付けられたいとまで思うほどに愛しささえ覚える。
「…私は、お前を守れなかったんだな」
敗れたことを思い出す。今の私では到底及ばない境地にいる敵を前にして敗北は屈辱でしかない。
なのにルミナスは無事だった。周りに人や魔物の気配はなく、あの異常な気配も微塵も感じない。
得体の知れない何かをルミナスが倒したのか?いや、彼女は私より強くない。あの男を倒せる程の実力は持ち合わせていない。反応出来ていない時点で勝てる見込みなどあり得ない。
私はココロに視線を向ける。
「ココロ。ルミナスを助けてくれてありがとう。私が不出来なばかりで迷惑を掛けた」
声を掛けられるなど思っていなかったのか、ココロは驚いた表情をして返答に困る。
「…えっと?あ〜そう言うことね!あなたの番いを死なせない事が私の使命だったからね。あの男は2人で何とか退けたけどまた来るかも知れない。用心に越したことはないよ」
「男……そうだな。次出会ったら確実に殺せるように力を積まなければな。ルミナス…怖い思いをさせてすまなかった。何も出来ないが、お前が望むことをしてあげたい」
不甲斐なさで怖がらせてしまったルミナスに話を振る。ご褒美というか、労いという意味を込めて返しがしたい。
ルミナスの撫でる手が止まり、頬を染めて動揺する。
「えっ⁉︎…ん、じゃあ……お膝に乗ってみたいです!」
するっと入れ替わるように私が起き上がり、ルミナスが横になると思って堂々と座る。頭が膝から離れ、寂しさに痛烈な心の蝕みが襲う。
痛み以上にルミナスが私の膝を所望している。とても喜ばしいものとして私が迎える。
「さあ来るが良いルミナス。お前の望むがままに」
だが、一筋縄ではいかないようだ。
「えへへ!ロス様と向き合って座っちゃった♪」
「ルミナス⁉︎」
「こうして向かい合って抱きしめたかったのです。今夜は甘えさせて下さい!」
私と向かい合い、子供のようにはしゃぎ抱きしめてくる。愛くるしくも見えるが、本当に顔が良い。
まるで犬を相手にしているようだ。愛嬌ある犬が御主人に甘える構図を今されている。
「……分かった。気が済むまでこのまま…」
誰かに見られていたら羞恥心は避けられなかっただろう。感情を取り戻してきている私が抱く羞恥は思いの外凄まじかった。
このまま唇が重なってしまうのではという邪な期待をしてしまう。目の前にあるルミナスの顔は恐らく美女に当たる程の清らかな顔立ちをしている。これに興奮しない男はいない。
勘違いする奴も出てくる筈だ。こんなに至近距離だと理性が保たない…
「やっぱり好きな顔。ロス様に酷いことをしちゃったけど、追い返したから全て許してくれますか?」
「…許す。お前のお陰で色々思い出せる気がする。だから、これからもよろしく頼むぞ」
「……ありがとうロス様。あなたが好きです」
全身に緊張が走る。この言葉をどう受け止めれば良いのかに一瞬の思考では決めかねない。
どう答えるのが彼女には良いのか?私は答えを導くことが叶わなかった。
「どう返せば良いんだ?私はお前の知る私じゃ……ルミナス?」
「スゥ…スゥ…スゥ…」
私の胸にもたれ眠ってしまった。無理もないかと、隣に置いてある掛け物で横に寝かせてやる。
その寝顔はとても見ていて癒される。子供らしさも感じられ、この肉体の主が本当に羨ましいと心底から思う。
「実感がないな。何故こんなに好かれているのかが……」
私がルミナスに愛されている。そして、何故恨まれていたのか?ますます知りたくなる彼女と私の関係性。謎に包まれているからこそ解き明かしたい。
そう思った時、私の肩に誰かが触れる感触を感じ取る。
「好かれる理由でしたらお答えしましょう。ロス」
「…どういう意味だ?」
《対価魔法》に則り、私への正体に関する情報は彼女自身からの口伝は禁じられている。
「あなたの素性は明かしません。ですが、彼女のあなたへの想いの理由を打ち明ける程度なら致せますが?」
「……」
私の素性は知ることは出来ない。だが、ルミナスの事なら知れる。眠っているルミナスを見て私は悪魔に囁かれた様にコクリと頷いた。
もっと彼女のことが知りたい。そんな欲望に抗える筈がなかった。
「ありがとうございます。では、ルミナス=オリビオンのあなたへ恋焦がれる理由を語りましょう」
私はルミナスの話を聞かされる。
ルミナス=オリビオン。
生誕不明。年齢自称18歳。固有魔法不明。冒険者ランク:魔導帝。純人間ではなく稀少な種族である血を引く。
幼子より彼女は稀少種族という人種に分類され、高貴な身分にいた。何不自由のない生活を送り、驕らず他者に慈しみを持つ善人者だった。誰にも本心を明かし、隠し切れない程に嘘が下手な少女だった。
別に優れた才能を有していたわけではない。頭脳や魔法だって出来ないことが多く、特段に才能が開花するきっかけもなかった。しかし、それを凌ぐ心の持ち主であり、誰にも怒りも憎しみさえ向けることのない穢れなき少女だった。
出身国は今は滅亡した大国に生まれ、将来は王族の側近として仕えることが約束されていた。彼女の人間性は広く伝わっており、彼女は王族にとって有望な人材として早くも選抜されるほど。
もし災禍が訪れなければ、彼女の将来は輝かしいものに違いない。
そう思われていた全てが壊されるまで………
ある日、彼女の住む国に魔王が襲来した。
単騎で乗り込んできた。その強さは絶大で恐ろしく、大国は一夜にして1人を除いて滅んだ。
幸いというか不幸と言うべきか、ルミナス=オリビオンただ1人が生き残った。まだ8歳だった彼女は目の前で両親を殺され、見せしめの様に親友、祖父母、王族の全員が無惨に殺され、酷く魔物である魔王に憎しみを抱いた。
憎悪を抱いた少女から善人である心を奪った。そして、復讐の女性へと駆り立てるには十分だった。
冒険者になるまでの期間、四大都市を有するフリック大国に亡命し、そこで魔法を学び僅か5年で魔導帝へと昇級してしまった。
通常、冒険者の階級は2種類に分かれている。一般冒険者と魔法冒険者である。
一般冒険者の階級は6つある。
必ず通る関門である初級冒険者。危険レベルは1で、小型の魔物の討伐や物探しの依頼を熟す。幾つか討伐や依頼を受け、冒険者ギルドから中級冒険者への挑戦資格を得られる。
挑戦資格を獲得した冒険者は次の階級以上の冒険者に推薦状を書いて貰い、ギルドに承認して認められることで昇格する。
中級冒険者・上級冒険者も同様で、依頼を熟し推薦状で昇級する。
上級冒険者の上に、剣聖帝と戦士帝、盗賊帝の階級があり、上級冒険者を終えた者は推薦で適性を振られる。
魔法冒険者は同じく上級冒険者まで過程を通って、3つの階級に適性が振られる。
回復魔法や支援魔法を得意とする賢帝。攻撃魔法や召喚魔法に特化した魔導帝。全ての魔法に精通した神魔導官。
魔法冒険者は魔法が複雑な上、固有魔法が扱える者で大半を占める。強さに上下はあるものの、魔導帝と神魔導官は相当な上澄みの冒険者にしかなれない。
ルミナス=オリビオンを知り得る者に彼女はその力の真相を隠し通し、魔物への殺意と憎悪のみで成り上がる偉業を果たしてしまった。
天才と言うべきなのか、兎に角他人にはない才能があった。憎しみに支配された彼女は魔法冒険者の適性を振られ、魔王討伐を心掛け若き才能として開花した。
しかし、憎しみは10年経っても消えることがなかった。彼女は仲間を募らず、1人孤独に魔物の討伐を繰り返し生計を立ててきた。
ただ、彼女も1人の男性と出会い、憎しみを超える愛を知った。
ずっと孤独に彷徨った心は他人を求め、彼女は盲目の恋に堕ちて彼を唯一パーティーに迎え入れる程に肩入れした。
それが記憶なき者であるロスだった。
彼と出会い、ルミナスと彼の運命は大きく動き混沌に至る。
そこでココロは話を遮ってしまう。
「はい!終了〜。これ以上はネタバレになっちゃうからね」
私はルミナスを知り、思わず感情が込み上げてくる。
涙だった。目に一滴、また一滴と零れる。
「そんなに泣くことでしたか?」
「人の心がないのは残念だな。私は……辛いぞ」
「理解出来ませんね。人の行動原理など」
共感は私だけで十分。ココロに理解されなくとも私だけがルミナスを理解してあげられれば良い。
それと、興味を持ったものもある。
冒険者について憶えがある。今後、私の記憶の手掛かりになる相手が現れると思うのだ。何かと出会った時、失う前の私であろう記憶が呼び覚まされた。
人間や魔物が私の記憶を持っている可能性がある。可能な限り、ココロから私の記憶に関して探る。
「理解されなくても良い。それより、私は冒険者になって記憶を取り戻したい。あの男のように出会えば記憶は取り戻せるのか?」
「それは、あなたの記憶が何処にあるか知りたいのですか?」
「まあそうだな」
「それはお答え出来ません。契約に則り、あなたの記憶の在処を詳細に口伝する事は出来ません」
拒否される。試しとは思ったが私の記憶の詳細は語ってはくれないらしい。
「なら何を喋ってくれる?私はルミナスとの記憶、私の記憶を取り戻したい。場所は言わなくても良い、せめて方法なら話してくれるか?」
「……方法なら教え致しましょう。聞かされなければ、あなたは永遠に辿り着けないでしょうし。その程度のことならお伝えします」
それだけでも十分だ。分かった以上、私は記憶を取り戻す旅に出れる。
「あなたの記憶を取り戻すには、その記憶を持つ者を探し出し、その魂を解放するのです。さすれば、記憶を取り戻し、あなたが何者かを思い出すでしょう。ただ、その記憶は世界各地に散らばり、探し当てるだけでも相当な年月を費やすことでしょう。あなたはそれでも……やりますか?」
態度を見てやるという意思を汲み取って貰った。ココロは微笑み、面白そうだと口元を綻ばせる。
「果たしてみせよう。私の記憶を取り戻す、その勇姿を見守れ。ルミナスは何があっても守れ。良いな?」
強い念を押す。ルミナスの生存が私の生き甲斐なのだから、目を離して死なれたら殺すつもりだ。不老不死族であろうとも弱点は必ず存在する。その時は容赦なく手を下すつもりだ。
それ程まで、私はルミナスに執着しているのだ。
堅い私の意思にやれやれと首を傾げて笑う。相当気に入ってくれたのか、私の額に指を差す。
「契約ですので。それと、コレは私個人になるんだけど………私の番いを捜すの手伝って欲しいな。人の人生の喜びを知りたいの!」
「ほう?私にはルミナスしか居ないから協力しよう。男で良いんだろ?」
「えっと、私不老不死族だからどっちでもイケるよ?」
「……そうか」
浅く考え、両性器の動物もいるのだったなと思い出す。
「お願いロス!番いの相手は4、5人欲しい‼︎できれば美男美女で強い人間が!何なら魔物でも魔人でも強ければ欲しい‼︎」
「愛する者は1人じゃないのか?」
「1人だと飽きるよ?だから多ければ満足すると思う!異界の人間でも怪物でも恋してみたいな〜!はぁ〜‼︎早速イースに行ったら番い捜してみよう!」
やけに調子が良いココロ。それほど恋人探しがしたいようだ。私に付いて来る理由に出来て、自分の欲に忠実でいられる口実とは上手いな。
「見つかるとは思えんが……。パーティーが増えれば少しは楽になるか」
「でしょ〜⁉︎気になってる異界の人間がいるから、先ずはイースの勧誘と番い捜しよ!」
逆に言えば、編成チームの増加を狙える良い機会だ。私とルミナス、ココロの3人では効率が悪いと考えていた。人数が増えることで戦力も効率も上がる。
偶然ながらも利害一致になり、喜んで彼女を改めて受け入れる。その夜はココロと語らいながら明日に備えるのだった。
私達は都市イースを目指す。先ずは冒険者登録をしなければならないので、近くの都市のギルドで登録するのだが、歩いて行くとするとイースまで1週間ほど掛かる。
それに、ココロが全部喰らってしまったせいで乗り物や移動手段を持つ人間は居なくなってしまった。
「ルミナス、お前は『転移魔法』は使えないのか?」
「無理ですよ!私、攻撃しか取り柄ないから転移の魔法なんて使えない」
「私も試したが、空間を縮める効果というより、外と中を繋げるしか出来ないようだった。見えない都市まで繋ぐ力は使えない。すまないな…」
「うーん、別に歩いて良くない?ルミナスちゃんのご飯美味しいから」
「…あまり生物外が食べてもウケは良くないと思いますけど。美味しいならまぁ…ありがとうございます」
僅か1日で私達は打ち解けた。
あんな犬猿の仲だった2人が友と語らうように親しくなり、ルミナスもノースの件があったが気持ちを入れ替えられたようだ。
私はルミナスが寝た後に食べたのだが、あの手仕込みシチューは美味だった。一瞬で胃袋を掴まれ、つい食べ過ぎてしまった。空っぽだった胃を満たし、今の私になって初の食事がルミナスの手作りを味わえたのは至福である。
手料理というものは素晴らしい。今夜も食べられると思うと待ち遠しい。
「イースは何があるんだ?」
魔物や冒険者、世界の秩序はある程度知っているが、フリック大国の都市機能は全くと言って良いほど記憶にない。
ルミナスはよく知っているようだ。頼るしかない。
「西側の都市は冒険者出身の方が多いのですよ。血の気が多い方が多いのが特徴で、私はサウスで冒険者になってイースにはお世話になることもありましたが…あんまり好きな都市じゃありませんね」
「治外法権なのか?」
「そんなんじゃ!…言い辛いのですが、イースには異界から来た異世界人が管理しているのです。私は一度目にした事があるんですがね……その人がとても怖い人で…」
その目は明らかに不安が映っていた。
異界の人間には明確な呼称はないが、異世界人と呼ぶのが定着しているらしい。
彼等は異界を渡る術を持ってこの世界に来ては、恐ろしい魔法に覚醒し、我々を遥かに凌ぐ実力を有する。自らこの世界に来る者もいれば、勇者候補として召喚される事もある。
彼等は固有魔法を獲得し、大抵が魔導帝や神魔導官の階級に上がるのが当然の強さを有する。ルミナスが5年で至った階級を僅か数ヶ月で至る文字どおりのバケモノ。
その中でも一際目立ち、彼等すら束ねられる存在がいる。都市を監督する名目で配置される人間は強くなければ下剋上を受け地位を剥奪されてしまう。
異世界人は血の気が多い者が多く、原住民の我々では太刀打ち出来ない相手がいると知っている。
しかし、彼等を制御し、支配下に置ける実力となると別次元の強さなのは言うまでもない。正真正銘の本物の強者だ。
ルミナスを脅かすとなると相当な相手なのは当然。
つい、私は度を超えて発言をしてしまう。
「私が懲らしめようか?」
「やめて下さい!けど、その気持ちだけでも嬉しいです」
「…なら会ってみよう。上手くいけばパーティーに勧誘出来る」
強者なら引き入れて問題ない。
「そんな簡単に⁉︎…いいえ無理でしょう。彼女は誰にも心を開かない。狂人で破滅主義の思想なのです。以前のイースは無法地帯そのものでしたが、10年前に現れた彼女が鎮めたものの、犠牲者は10万人を出すほどの激戦を繰り広げたと言われています」
「たった1人が来ただけでか?」
「来たんじゃありません。彼女は……1人で10万人の人間を殴殺したのです」
どうやら、一筋縄ではいかないようだ。




