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6話 偽りの勝利

1ヶ月に1話は投稿できるように頑張ります!



明日は二次創作です。

ロスを斬り伏せ、実力で(まさ)った男は高らかに笑う。

「フハハハ!これでヤツは死んだぁ‼︎俺の邪魔する人間はいない‼︎」

勝利に酔う。まだ目の前に2人が居るというのに余裕を見せ付ける。ココロと戦っているのに、虫の息であるロスを見て、ルミナスが戸惑う姿に自分の強さにただ喜ぶ。


ロスの死を最も否定する者は立ち上がる。先程の泣き喚いていた彼女と打って変わり、堂々たる覚悟で男に敵意を示す。

「ん?何だルミナスか。何度も死にたいか⁉︎」

ロスの前に現れたルミナスに歪な剣を振るう。懲りないとばかりにその威力は完全に仕留める加減だった。

ココロが前に立ち塞がって防御に入る。

「またか⁉︎」

「何度も護るよ?私、あなたよりずっと強いから」

「ただ防御しているだけでか?」

ルミナスへの攻撃にのみ反応し、巨大な盾で完璧に防いでみせた。

「私を消す力があれば抵抗するけど?あなたなら使えるでしょ?」

「フッ…舐めるなよ女。その気になればこの世界を滅ぼしてやる‼︎」

男は肉体を更なる闇で染め上げる。その気迫だけで鮮やかな夜空から豪雨へと変動する。

天候まで支配したようで男は得意げに笑う。

「この力…やはり俺に相応しい‼︎貴様らには宝の持ち腐れだ。ルミナス、お前はこの肉体カラダに殺されたいか?」

嗤う男。ルミナスはそんな男を見て胸が痛くなる。同時に、これ以上口を開くなという怒りが込み上げる。

「……それはないでしょ。私の悲願を果たしてくれる人を貴様は奪った。その罪は如何に重いか理解出来るか?」

「ん?雰囲気が変わったか…?何を言っているかは知らんが、取り敢えず殺されていろ。楽に死なせてやるからな?」

男は気付く。ルミナスがまるで別人のように豹変したことに。

敬語が交わらない口調、冷酷な口調で男を刺す。

「愚かな真似をしなければ……あの方は貴様を倒していた。ずっと後悔で押し潰されそうだった。好きな人を奪われて後悔だなんて遅過ぎた。もう、この人を殺せる自信がない。だからね、今度はちゃんと殺すよ」

その瞳には無念の涙が流れていた。

ずっと後悔で自分を責め、自らの都合でロスを不快にしてしまった事を。

今の彼は何も悪くない。強い苦悶ジレンマに駆られながらも目の前の男を殺すと杖を召喚する。

「バカな女め!弱者は大人しく死んでおけ」

「……『ルーザーロア‼︎』」

無詠唱の風魔法を放つも簡単に避けられる。

「他愛もない。本気で()せるのか?」

「私は一度決めたことは果たすまでしつこいの。貴様を殺すと決めたからそうするだけ。『ドラゴンブレス』‼︎」

炎魔法を連射する。高火力な魔力弾で、男は避けるのではなく薙ぎ払い応戦する。

とてもじゃないが相手不足。ルミナスの魔法が効いている様子がない。

この2人には埋められない差がある。魔法を極めたところで勝てる見込みは皆無に等しく、人の域と男では雲泥の差を認めるしかない。

男は攻めの一手をやめない。次々に魔力弾を放ち、ルミナスに攻撃を転じさせない。

「如何したルミナス‼︎お前が諦めなければ死に損ないの男は死ぬぞ⁉︎」

まだ生命力があるロスは致命傷ながらも生きている。

しかし、ルミナスの抵抗に呆れ、倒れているロスに接近する。歪な剣に魔力を尖らせ、殺傷力を高めた一振りで無慈悲に振り下ろす。

「ダメっ‼︎『テレポート』!」

ココロは動かない。契約による守護対象に彼は入っていない。

つまり、この一撃が入ればロスの死は免れない。

瞬時にロスの正面に入り、杖を構え応戦する。だが男は不敵に笑みを浮かべている。

「掛かったな⁉︎」

残虐な一手を囮にルミナスを誘ったのだ。すぐさまその首を刎ねようと振る。

庇おうとしたせいでルミナスの杖は破壊されてしまう。攻撃される直前、魔法の爆発で相殺したつもりが巻き添えになり、右手が負傷してしまう。

「っ‼︎……痛っ…!」

「諦めろ。お前に俺は倒せない。倒れたそいつに未練があるなら一緒に殺してやる!」

ルミナスは死ぬとは微塵も思っていなかった。

「諦めない!貴様を殺すまでは‼︎」

「余程の執念だな。相変わらず俺が憎いか?お前は確かに優秀だった。その歳で中級魔法上級魔法を網羅した。そんな力を欲したが、やはり天才はお前じゃなかった」

この男はルミナスに何らかの目論みがあった。力を見抜いた上で奪おうとしていた。

全ての魔法を扱える人間はいない。魔帝王のルミナスが相応しいと狙っていたが、今は欲しいとさえ思っていない。

「俺こそがその天才だ!お前が愛した人間がちょうど俺にピッタリだった。全てを奪いお前を支配してやりたかった。それだけだ。お前は才能はあったが俺の器に相応しくなかった。共に倒れ、共に散れ!」

『ディムアルカナム』が舞う。

ココロが再びルミナスの死を回避すべく大盾で前線に構える。

「退けぇ‼︎女ぁー‼︎」

「退かないよ?」

余裕たっぷりに煽る。ロスの肉体を負傷させた乱舞攻撃を全て衝撃を吸収し防いでみせる。

ココロの有する《対価魔法コモンロー》の契約は絶対だ。ロスとの間で結ばれた契約であるルミナスの生存は第一優先で実行される。如何なる危険に介入し、脅威から護る契約を実行しているに過ぎない。

初級魔法、中級魔法、上級魔法の上位魔法である固有魔法を有している者は全員ではない。有していない者さえいる魔法は扱い辛く、手本がないのが特徴。

引き継がれる固有魔法もあるが、その場合は正統な手順を踏まなければ魔法精度は劣化する。ココロは生まれてから原型の魔法を有する。

自らの自由を縛る条件として他者へ恩恵と対価を求める。数千年以上独り向き合った事で《対価魔法コモンロー》は異例の能力を得た。

魔法による契約の強さは本人の実力を示す。強ければその契約は絶対的な効果を発揮する。

「ココロ…あなたは何処まで私を守ってくれるの?」

ルミナスはこの状況が好機だと思った。

「私が死ぬまで?けど死ぬなんてあり得ないからロスが死ぬまでかな〜」

不老不死族(イモタール)に死の概念はない。当然、大地から魔力を吸収するので魔力切れもあり得ない。敵になれば厄介だが、味方として守護してくれるなら頼もしい存在ではある。

「じゃあ私を全力で護って。ロス様も当然お願いね」

「契約範囲だから分かった!けどアイツ強いよ?もの凄く」

勝てる実力差があるとは到底思えない。先程の魔法攻撃すら簡単に避けられ防がれていたのを見て、ルミナスの実力を見抜いているつもりだった。

男はロスを圧倒してしまえる実力者。ルミナスは護られるほど脆弱な人間だとココロの目にはそう映って仕方がない。

だが、ルミナスの真髄は己が秘めたる魔法の多さではない。

隠し持っている力を解除する。

「この身に癒しを『ヒール』」

手首に翳すと瞬く間に負傷した右手が完全回復する。

「その魔法は神代魔法⁉︎どうして…貴女が使えるのですか」

負傷または欠損した肉体の治療と再生を可能とする神代の失われし技術。固有魔法以外での魔法では既に廃れた高等技術。

ルミナスが失われし魔法を有する。男は当然知っていた。

「莫大な魔力の核を持つお前のことだ。くたばるわけがないのは知っている‼︎次は癒えぬ攻撃をしてやろうっ‼︎」

闇の妖気オーラを更に解放させ、ココロが興味津々に目を光らせる。

「流石その座に居た魔人だね。まだ本気じゃないじゃん」

「クククッ!喜べ女共、固有魔法で仕留めてやる。ルミナス、お前がくれたとほざく俺の力にひれ伏せ‼︎」

身体を伸縮させ、けたたましい雄叫びと共に真骨頂である男の正体が明かされる。




姿が変わり、ロスとは似付かない悪魔の風貌になる。翼が生え姿が変わっただけではなく、歪な剣が変形し十字架の様に鋭く殺傷能力を得る。

男の正体は悪魔の類いである。同時に、ロスに最も重要な記憶の欠片を持つ。

宙を飛び、全ての能力値が飛躍的に向上する。

「へぇ〜?それは『魔獣魔法(デモンビースト)』だね?」

ココロは固有魔法を言い当てる。

概念そのものを体現する獣の頂点である魔獣をその身に受け、飢えることのない魔力と飛躍的な能力値の向上をさせる固有魔法。魔物が持つ全ての能力と魔法が使えるだけではなく、自らが喰らった他者そのもの取り込み強化する暴食能力も備わる。

男は得意げに笑う。

「御名答!魔物の力を吸い尽くし、俺自身を強化する。俺の邪悪が消え、その男を乗っ取り記憶や力を全て喰らってやったのは俺だ!何故肉体が分離したかは憶えていないが、ヤツは俺が今も含め二度倒してやった。ルミナス、女、先ずはお前らの力を奪い尽くしてくれるわぁーーー‼︎」

飛翔する男の飛行速度はルミナスでは捉えられまい。ココロは契約に則り防御に入る。

「あ、これヤバいかも」

「吹き飛べえっ‼︎」

制御不能の速度の突進。ココロの大盾に体当たりした衝撃波は凄まじく、1発の攻撃威力とは思えない甚大な被害が出る。

半径800メートルに入る土砂が舞い、これまで無傷を貫いて守りに徹していたココロの両腕が吹き飛ばされたのだ。

「あちゃあ…ちょっと強過ぎない?」

体当たりした男は頭が吹き飛んで普通なら死んでいる。だが、魔物の特性を得た彼は魔力のみで肉体を再構成し復活を果たす。

「魔力の操作は緻密で難しいものだ。俺にはそれが出来ない。膨大な魔力を活かし漸く兵器として扱える程度だな。その点なら、倒れたヤツは褒めてやりたいが」

魔力操作は天性の才能と言ってもいい。ただぶつける魔力攻撃なら誰でも出来るが、ルミナスの様に魔力を魔法に変換し、そこに精密な魔力操作で上級魔法の全てを使用出来る様にするのに気が遠くなる様な難技である。

不老不死族(イモタール)のココロは両腕を再生させ、再び大盾を召喚する。

「確かに難しいよ?でも私は簡単に思えるよ。頭がない奴だと理解が出来ないだけで理屈が分かればいけるよ?」

「そう言う貴様は何者だ?ルミナスしか使えない『ヒール』を操れるとはな?」

「私はこの世界の始まりだからね。君達とは生きている時代が違うんだよ」

「ほざけ。なら、その魔力が尽きるまで消耗させれば良いだけだ‼︎」

魔力を溜め、十字架となった剣に許容範囲を超える魔力が注ぎ込まれる。

一気に踏み込み、ココロを斬殺しようと意識がいくこの瞬間をルミナスは見逃さなかった。

「固有魔法解放……貴様に裁きの鉄槌を‼︎」

「ぬぅ⁉︎」

指をくいっと挙げ、地面から何かを誘導する。隆起する地面からは巨大な白蛇が出現し男を食らう。

「『召喚魔法サモンコール』!『神獣召喚ディバインビーストサモン!』

男が知る固有魔法。最も警戒するべき固有魔法が解禁される。

魔法を唱えた瞬間に動くのでは遅い。既に召喚魔法として組まれた術の発動を無効にすることは出来ない。

男は常に警戒を怠らなかった。だが、ロスとの戦闘で我が心を乱し、冷静さを欠いていた。興奮状態で戦闘状態を維持し続けたことでルミナスの手札を見誤った。

「まさか此処で…⁉︎」

一瞬の瞳の揺らぎの間に身体が大きな衝撃に食われる。

神獣と思われる神々しい気配を発する召喚獣は容赦なく骨を砕く。骨を砕かれた男は強い咬合力に拘束され身動きが取れない。

1体ではない。5体の神獣が男を手玉の如く集まり、引き裂かんと食らい付く。大蛇、翼竜、雄牛、獅子、象の姿を模した獣の猛攻は男とて防ぎ切れない。

「へぇーこれが神代に恐れられてきた『召喚魔法サモンコール』。魔力の丈に合った魔獣、神獣を召喚する秘術とも言える固有魔法。1000年前くらいに似た和装の男が使ってたのを憶えてるよ」

嘗てその眼で見た者を口にしながら、ココロの表情はより一層笑みに満ちていた。

だが、違和感があった。

(…けど変。膨大な魔力量は確かに彼女にはあるが、神獣を5体も出せるわけがない。どういう理屈をして召喚を?)

神獣1体を召喚し使役するのは、魔物や魔獣を使役するのと遥かに技術と消費量に違いがある。神の遣いであり従属である神獣は使役するのにも並大抵の人間の魔力では賄えない。喰らい尽くす魔力量があまりに膨大で許容を超え、召喚するだけで枯渇するのが1000年前に見た『召喚魔法サモンコール』だった。

ルミナスは何故か消費量を意識していないのか愚かなのか、ふんだんに魔力を分け与え使役する。これが異質なのは言うまでもなく本来の魔力量は底知れない。

(そう言えばロスの記憶すべては見えたのにルミナスだけは全くだったね。何か特殊な妨害魔法ジャミングを…?いや、そんなものは簡単に破れるんだけどな〜)

ずっとルミナスを観察してきたココロ。僅か1日とは言え、この都市に侵入した彼らのすべてを知る彼女ですらルミナスを見抜く事は出来なかった。

通常の魔法程度なら看破出来る魔眼を有するココロが唯一破れないものがあった。だが、魔法の特異性を知る不老不死族(イモタール)はそれは無いと断言出来る。

(固有魔法の複数所持くらいしか思い当たらないや。けど、固有魔法は宿主を選び魂に定着する一心同体。1つの魂に1つしか宿らない以上、継承魔法の可能性があるかも。言うところ『遮断魔法シャットダウン』かな?)

召喚魔法サモンコール』と『遮断魔法シャットダウン』を有するとココロはそう結論付けた。だが、その結論は目の前ですぐさま覆される。


癒した手甲に割れた杖の破片を突き刺し、自ら血を流す。指を杖に差し替え、固有魔法を行使する。

「『鮮血魔法ブラッドゥシェド』!『血塗破運ブラッディーフェイト!』」

神獣の猛攻から抜け出した男へ告げられる血塗れた呪いの概念攻撃。念じて放つ直接的な攻撃ではないが、自らの血に混ぜた怨念を魔法として飛ばし、他者を時間を掛けて呪い殺す遠隔魔法。即効性はないものの、確実に死を与える。

告げられた者は例外なく死に至る。男は概念攻撃を避ける事をせずに受けてしまった。

「ぐうっ…⁉︎なんだその技は?貴様持っていたのか…⁉︎3つ目を‼︎」

これには驚きを隠せない。固有魔法の存在を知る男ですらも動揺し、撃たれた肉体に行き届く気味悪さとルミナスの底知れぬ手札の多さに初めて怒りを表す。

「私は奥の手を持っていると常々言った。なのに私を手懐けようと恐怖で支配しようとしたお前は私の言葉を鵜呑みにしなかった。違わないか?」

冷酷な吐き捨て。男はルミナスの異常性に漸く気付き、冷や汗が止まらない。

「雑魚だった女が固有魔法3つ持っているのがそんなに誇らしいか⁉︎禁術で手にした魔法だろうが‼︎」

なら俺も使えるとばかりに怒りに身を任せる。魔力の放出は際限なく行われ、男を完全にその気にさせる。

自らの死期が定められた『血塗破運ブラッディーフェイト』を受けた今、いつ死ぬか分からない男は躍起になってルミナスに攻撃を仕掛けようとする。

この瞬間を待ったとばかりに、ルミナスはココロへ話し掛ける。

「ココロ、私を全力で護りなさい」

「…何を言い出すかと思えば、君なら勝てるんじゃない?」

既に手の内を明かしたルミナスの強さを見て、勝利は見えていた。回復する魔力はあっても、死の呪いを祓う術を持たない男を呪殺で待てばいい話。

「いいえ。確実にこの男は此処で滅する。私がしでかした尻拭いの為に」

「君だけで十分だと思うけど……」

乗り気ではない。ただ危機迫った時にしか動かない。




そんな彼女を否が応でも従わせるものをルミナスは有する。

「今から1分、私は無防備に詠唱を唱える。私の全てを賭けて【ルイン(・・・)】を召喚する」

「っっ‼︎」

その言葉にココロから余裕の表情が崩れる。初めて見せる人間のような反応にルミナスは怪しく笑う。

「ふふっ。やっぱり不老不死族はこの名を口にすると怯えるのね?」

「なんでその名を⁉︎……そっか、君はとてもロスに言えない事情があるわけだ。合致して怖いね」

「なら私を全力で護りなさい。殺されたくなければね?」

「君っていう悪魔は中々いないよ。今回は命拾いしたって事で2人を守るよ」

渋々ではない。ココロは心の底から自分を脅かす存在に従うしかなかった。

ルミナスは不可侵の宝物庫の様な場所にソレを隠している。

召喚魔法サモンコール』は異空間と繋がっている。当然、数々の貯蔵をしている宝物庫で、自由に取り出しが出来る。

そこにはあるのだ。男すら知らない破滅を齎す神器が。

先程まで使用していた杖は単なるお手製の贋作ガラクタ。特に魔法が付与されているものでもなく、飾りでしかなかった。


今ルミナスが喚び出す杖はこの世界に存在する不老不死族イモタールに唯一対抗し得る神話の杖。

黒い魔法陣が出現し、恐怖が集約した魔力が魔法陣より溢れ出る。ルミナスの周りが黒い霧が囲み、魔法陣から異様な気配を発する。

ルミナスが召喚するのは現存する神話杖【ルイン】。神話の時代、神々が有していた神器でその姿を見た者は誰もいない。

【ルイン】に認められた人物にしか扱えず、喚び出す方法もその人物の器量と精神性に由来する。

ルミナスは全魔力を召喚陣へと注ぎながら静かに舞う。

召喚には1分の詠唱が強制される。そして、この神杖を召喚するには縛られた条件を満たさなければならない。

それが叶い、後はルミナス自身がその神杖を現世に出現させるだけ。

詠唱が始まる前に男は全力でルミナスを殺しに畳み掛ける。

「させるか‼︎我が闇よ集成せよ『インフェルノアシャラ』‼︎」

全身に闇を巡らせ、身体能力を限界突破させる。全ての感覚が鋭く研磨され、空気の流れで動きを把握出来るほどに過敏を得る。

改めてこの召喚を成功させるのは危険だと知覚する。当然、全力で殺すと男は魔法と体術を駆使した遠距離と近接戦で仕留めに掛かる。

ココロはルミナスの意図を察する。確実に殺せる力を持つ彼女を信じ、心が躍る感覚で守護に徹する。

「この子はあなたに倒させない。さあ、私の防御は最強よ?」

「舐めるなぁー‼︎」

連撃と連弾は先程よりも数十倍の加速と威力を上乗せし、大盾に叩き込む。四方八方からルミナスを狙い、その全ての攻撃にココロは対処する。

其の間、ルミナスの詠唱が途絶えることはなかった。

「破滅が世界を終焉に導く時、地上に幽閉束縛されし邪悪が眠りから覚め全てを喰らう。摂理に従う者は自然の理に敵わず。そらに神は存在せず、大地に魔王は健在。そらより降りしカタストロフ。振り降す無数の流星。生命の糸を踏み散らす隕石。暗黒に染まる空。蒸発する空気からすい。消滅する望郷ふるさと。途絶える生命の泉。永遠の死と荒廃したディストピア。世界滅亡を体現した力を持つ魔王は死に絶えた生命と大地を冒涜。勇者は魔王に叛逆しこれを望まんと心を顕現させた。しかし光と闇は引き裂かれ、違え交わる事は赦されない。世界の理を理解した魔王は云った。心は闇に還ったと。人の心を理解した勇者は云った。光は心を守ると。矛盾なる対峙する意思は何処へ。なら答えは誰が示す。汝が証明してみろ。弱き者こそが全てを揺るがす神秘の力を持つ。大地を呼び起こし、廃れた文明に新たな兆しを与えん。この穢れ爛れた世界に脆弱と強靭を。嘗て栄えた世界に絶望したのならば破滅よ呼び覚まし、この地に齎らした滅びの元凶の名を持つ逸話を此処へ召喚‼︎【ルイン】。私の窮地に参上せよ‼︎」

詠唱は彼女意思に応じ、世界を揺るがす。全ての存在が空に目を奪われる中、【ルイン】は空間より出現する。

大地、空、海、世界そのものが揺らぐ。黄昏の光から出現した【ルイン】は地面から離れ、今彼女の手に委ねられた。


男にとっては最悪な召喚を成功させてしまった。だが、その態度に焦りはない。

「ほぉ……⁉︎それが御伽話で聞かされる最恐か?何とまあ見た目は本当に恐ろしいと思える」

召喚された以上、阻止はせずに杖に興味を示す。

【ルイン】は正真正銘、この世に存在する破滅と不滅を司る神杖。魔核を有し、光と闇が相対する形で上下の珠として浮遊する。闇は破滅を意味し、光は不滅を意味する。

男は壊したくて堪らない。興味本位で試しに高速の弾丸を放つ。

ルミナスは即座に反応し、弾を闇の魔核に吸収させ無力化する。

動きが彼女のものとは思えない程に洗練、まさに熟練の所作だった。

「何だ?今の反応速度は⁉︎」

明らかに異常な反応速度に警戒する男。

「訳が知りたいか?これは光と闇が交わりを拒んだ世界。この世界は今や闇に染まり、光を求めんと抗っていると信じ、私はこの杖の所有権を勝ち取った。心が清らかであれと言い聞かせてね……。魔物によって支配された世界を救う、私が【ルイン】に誓った戯言よ。けど貴方によってその根底は崩壊した」

憎しみこそが正義と知った。

ルミナスにとって、魔物は絶対悪であり、魔物への純粋な憎悪を抱えながらも【ルイン】の所有者に選ばれた。

この神杖を使用する為には、複雑な条件と彼女自身に秘密がある。愛する者をこれ以上失わない為に、この力を惜しまなかった。

「何がだ?俺がどんな人間を殺そうが勝手だろ。所詮、弱肉強食の世界に変わりはないんだよ」

「その通りで恐ろしかった。貴方を殺す為に積み重ねた殺意を捨てなければならない事になるところだった。人の醜さを知り、それでも私は人間の味方であり続けないといけなかった。もう……この世界を滅ぼしちゃっても良いのかなとどうでも良くなった」

「なら俺の力になれルミナス。お前のその武器があればこの世界を我がモノにっ——ゴッ⁉︎グフッ…‼︎」

逆鱗に触れた。ルミナスは無言で神速の『ディシレーション』を無詠唱・無造作で2発放ち、男の肩と脇腹に風穴を開けてみせた。

「語るな。私の心を好きにして良いのは断じて貴様じゃない!」

「ほぉ?威勢も良くなったかルミナス。さぞ、【ルイン】の恩恵が強いと見た」

瀕死の状態になろうとも、男には一切の怯みも恐怖もない。渇望する程に【ルイン】とそれを扱うルミナスに異常な執着を見せる。

その様は異様にも思えた。男から発せられる舐め回すような視線に耐え切れず、倒れているロスへ目を向ける。

損傷した彼は気を失っていた。安堵した表情の後に不敵な笑みが零れる。

「死ぬの解ってるの?最強だった者が弱小の冒険者に殺される屈辱、とても堪えられるとは思えないわ」

侮辱を吐き捨てる。生かす理由がないとばかりに、先端に魔力を充填する。

トドメを刺す事に厭わない。今すぐに消し炭にしてやりたいと最大限の魔力の充填を完了させる。その時間は1秒に満たずに終えてしまった。

「どうかな?俺は生まれてこの方死んだことがないんでな。お前こそどうなんだルミナス=オリビオン。そこに倒れる俺紛いに余計な思想を押し付けるつもりか?元々お前は人間じゃ——」

男は剣を捨て、手を挙げて最期の嘲笑いをする。

だが、それが男の最期の言葉となった。遺言として聞き入れ、その最中に神速攻撃魔法を放ち、跡形もなく消し炭にした。

塵となった灰に向けてルミナスは蔑んだ目で嗤う。







「あなたはもう用済みなの。私のやり方であの人は貰うわ。ばいばい…」

【ルイン】を召喚陣の闇の中へ封印する。その瞬間を狙って聖剣でルミナスの首に当てがう。

「…何のつもり?」

「人間が扱えるものじゃありません。ソレを何処で手に入れた?」

ココロの表情には危機迫るものがあった。熱が入った様に感情が灯る。

【ルイン】の所有者であるルミナスを怪しむ。

「答えてどうするの?」

惚けず、聖剣に怯える事なくココロを睨み付ける。か弱さは皆無、先程の彼女とは全く別の存在と対話している様で異色だった。

「ルミナス=オリビオン。あなたはロスとの契約によって庇護対象ですが、私の範疇を超える存在となった今、契約を破棄し実力行使をしなければなりません」

対価魔法コモンロー》の契約はあくまで自身より格下との契り。不老不死族を脅かす力を持つ存在へと昇華した今、契約に則りルミナスを庇護対象から外す。

自身が格下に、それも脅威と感じる存在と思う相手が現れ、決して行われない筈の契約破棄が行使し、代償すら帳消しとなる。

異常事態であり初めての契約破棄。強制破棄をしてしまった以上、ロスとの繋がりは絶たれる。

「それで?私をどうしたいの?」

ルミナスはココロの表情に焦りを見て冷笑する。

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