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1話 記憶なき者

虚空の空を茫然と眺める。

何か哀しさが押し寄せる。胸が締め付けられるような苦しみが心臓の鼓動が打つ度に感じる。

荒野の上で立っている。その立っているという行動だけで哀しさが増していく。

意味が分からない。この哀しみが何なのか。理解しようのない理由のない苦しみが続く。

虚空の空の下は酷い景色に見舞われた。

鼻を摘みたくなる悪臭。腐敗した荒野が視界一面に広がる。

人が踏み込んで良い場所ではない事は言うまでもない。猛毒。強いては人が立ち入れる場所ではない汚染地域。

この身は既に何かに汚染されたかのように汚れ、肉体カラダが重く動かすのに疲れを感じる。


此処で一体何が起きたのか?何がこの身に起きたのか?


記憶がない。出生も己も思い出せない。自分の意思が目覚めたのも今しがただ。それ以外何も分からない。

自分が何故此処に居て、何故茫然と立っているのか。

分からない。自分という意識がある生物がそもそも誰かも分からない。


そもそも、私は一体誰なんだ?




———おーい!


悪臭と共に舞う微かな声が聴こえる。気配からして敵意はない。……誰だ?

風に紛れて聞こえてくる声の主がこちらに向かってくる。

声の主が直ぐそこまで近付いてくる。妙な親近感と速くなる鼓動。

「ねぇ⁉︎大丈夫なの?」

本気で心配されているのは分かる。よく見ると、私の肉体カラダは酷く傷付いている。手足の感覚も僅かだが麻痺しているように上手く動かせない。

「……誰なんだ?」

猛毒の荒野に何故矮小な女がいる?私は何ら問題ないが、女も猛毒に汚染された地帯に疑問すら抱いていない。

私を心配してくれる女は修道院の様な純白な装束に装束以上に浄化した様な黄金こがねの長髪。その顔は歴戦の猛者や女戦士の様な強面な顔ではなく、花を愛でるぐらいの愛嬌ある可憐な聖女といった童顔。瞳はエメラルドの色彩をしていて、小柄で腕に抱えてしまえる程の小柄さ。

私は自分の容姿が分からない。水面もなければ鏡もない。ただ判るのは、背丈は彼女より2倍ほど高く、屈強な筋肉質であるというぐらい。瞳や髪すら程度も分かりはしない。

それを踏まえ、彼女には後で尋ねてみよう。

「ッッ‼︎そっか……思い出せないんだね」

悲痛な驚きの後に苦笑する。彼女は私の事を知っているようだ。

けど、私が誰なのかという疑問の他に知った事実がある。

私は彼女を知っている。この声の主には特別な感情が揺らぐ。

言うまでもなく恋心に属する心拍と高鳴り。

確かなのは、私が彼女と何らかの関係を築いている存在であるということ。

それ以外はまだ分からない。


彼女は私の手を握り涙する。

「でも良いや。消えずに居てくれて……うん、今は喜ぶしか……」

「どういうことだ?」

彼女に聞きたいことがある。この状況になっている訳を知りたかった。

その瞳には深い哀愁を感じる。余程私に何か思うことがあるような眼差し。

ただの哀愁ならこれ程違和感はなかった。

感じるのだ。彼女の瞳に僅かな憎しみと言える感情が蠢いているのを………


こちらに迫ってくる強大な気配を気取り、妙な緊張と興奮がこの肉体カラダを昂らせる。

記憶がないというのに、強敵の気配に抑えられない衝動とも捉えられる興奮。今から危機が迫っているというのに恐怖はなかった。

私自身の所持品を確認する。

残骸の様な甲冑を纏うが、もはや防御力の性能すらない程に壊れてしまっている。躊躇いなく脱ぎ捨てる。軽装備で筋肉質であろうが甲冑には劣る防御性能。身軽になれば補える回避力もあるに違いない。

「どうしたの⁉︎」

「こちらに何か来るようだ。聞きたい事は山ほどあるが、今は迎え討つことに集中したい」

自分の力すら把握していない現状、打算なしに勝てるかも分からない。ただ彼女の安全が第一優先だということだけが肉体カラダは訴える。

彼女を守り抜け。肉体に残留する思念の様なものが私に命令する。

何故か懐かしい感覚。だが、どうしても自分自身を思い出すことが出来ない。

荒野に居た理由。彼女との関係。今の現状。この世界の秩序。知りたい事が山ほどにある。

「ダメよ!そんな身体カラダでは戦えない!私が時間稼ぎをしてあなた様を逃します!」

戦う意思がある私を止めようとする。記憶を失った私では足手纏いでしかないと思われる。

「大丈夫だ。私にはお前を守れる力がある。傷付いた肉体カラダではあるが、お前以上には戦えることを証明しよう」

刃物や銃らしき武器は持っていない。

記憶を失っても、この肉体カラダは力の使い方が染み込まれている。

何処から武器を喚び出すか知っている。

手元に来いと強く念じる。すると、眩く歪な黒い光を放って出現した。

交戦するという今、武器があると安堵する安らぎがあった。

「妙な剣だな。悪魔を宿しているのか?」

その形状は剣にしては異様な姿をしている。

色彩は邪悪と名ばかりの漆黒をしているというのに、斬るという名目な殺意の刃は備わっておらず、悪魔が宿ったような角の突起物が剣先となり、剣の刀身は穴が空いた使い勝手の悪そうな武器だ。まるで、特別な儀式に使うような鍵とも思える形。とてもじゃないが殺すに特化した形状とは到底思えない。

「それは…⁉︎嘘っ……」

彼女の顔が恐怖に引き攣ったのを見逃さなかった。

「知ってるのか?私はコイツをどう扱っていたんだ?」

この武器にも何かある。事情を知る彼女に問うも、瞳に隠れていた本性が剥き出る。

「ッ……自分で考えて‼︎」

使い方を聞いただけでこの拒絶の勢い。

敵が見える直前、私は少しだけ自身の存在意義を考えてみた。私が手に握る武器の正体。彼女が親しげに話してくれた訳。私に対する憎悪の感情。これら複雑な心境を以てしても深い訳が秘められている。




先ずは殺すのが先だ。

上空が暗黒に染まる。渦が地上に届き、渦から出るのは高位な存在であろう人間に扮した魔物が姿を現す。

私の記憶は荒野に立ち尽くしている以前の記憶はない。しかし、この世界の知識とも呼べる記憶はある。

この世界には魔物が存在し、魔法も存在する。人間も魔物も魔法を扱い、多種多様な魔法が世界には溢れている。

魔力量の貯蔵である心核が肉体を通じて魔法を行使する。心核は魔力の源であり、貯蔵庫の役割を持ち、魔法の威力も心核にある魔力量に比例する。なので、この心核がなければ魔法はそもそも扱えない。

生まれた瞬間に心核に備わる魔力量は大抵が決まっており、本人の経験値や努力次第で増やすのが普通だ。

私を慈しみ憎む彼女の魔力量はそんな大した程度ではない。目の前に現れた魔物と比べればその比は明確だった。

彼女の装束は僧侶や教会に属する聖職者の服装と合致する。つまり、かなりの強さなのは確かだろう。

それでも、魔物に比べてしまうと雀の涙といった弱輩。私の肉体カラダが守れと命じているのはそんな彼女に対する庇護欲なのかも知れない。

知識は知っている。だが、目の前の魔物がどんな存在かは高位な魔物以外は分からない。

「誰なんだお前は?」

「お久しぶりと喜びたいのですが、何故この我輩をお忘れか?」

「分からんな。私はお前を知らない…」

この魔物は会話が出来る。その時点で、この魔物が如何に恐ろしく強い存在であるかが示される。

通常、魔物は数が多いが言語を扱える魔物は少ない。しかし、心核を持たない人間からすれば脅威そのもの。奴等は魔法意外で倒す事が出来ず、物理攻撃は一切通用しない。魔法で傷を与え、心核を破壊すれば魔物は倒せる。分かり易い弱点を有しているが、魔法でなければそもそも肉体に傷ひとつすら与えられない。

単純に倒すのでも難易度は人間からすれば脅威。しかし、最も厄介なのが言語を介する魔物の強さ。

言語を介する魔物には共通して厄介な力が備わっている。

「じゃあ……殺しますか。記憶を失ったか知りませんが、今の貴様なら容易く殺せる」

「知っている口だな?私の事を教えてくれるのか?」

「いいえ?何故記憶のない貴様に教える親切心があるとでも?その様子だと、戦い方すらお忘れのようで安心した。そこの魔帝王マジックエンペラーはどう言うわけか魔力切れになっていますし。魔王様が不在なのは残念ですが、こんな好機を見逃すほど甘い我輩ではありません!」

更に謎が深まる。この魔物は私を知っていて、彼女の情報も少しばかり明かされ、魔王が不在。

もし、魔物と彼女の態度などから解るものがあるとすれば、私は恐らく………

敵味方はこの際どうでも良い。しかし、私の意思と肉体の意思は共に合致した。

魔帝王マジックエンペラーとか言ったな?お前の名を教えてくれないか?」

「えっ?……うん。ルミナス…ルミナス=オリビオン」

「ではルミナス、私がこの魔物を倒そう。お前は逃げるか私の助力をするか好きにすると良い」

魔物を倒し、ルミナスを生かす。私の事について知っている者を死なせるわけにはいかない。この肉体もその決定に強く同意しているなら尚更だ。

「でも!……あなた様は力を失ってまともには戦えない。記憶がなければ魔法なんて使えないのよ⁉︎」

損傷した肉体と記憶喪失の私が頼りないと思われても仕方がない。だが、戦わない選択肢はなかった。

「悪いが、私は己自身の記憶を取り戻したいと思っていてな。力の使い方が分からないと言われれば心外だ。この力、ある程度なら引き出せよう」

剣を片手に天井向けに構え、低い姿勢で魔物へ殺意を見せる。完全な敵対と思わせれば、奴は私の情報を吐いてくれる可能性も考慮して姿勢のみで様子を見る。

「アッハハハ!そんな攻撃しますよって構えする人初めてですわ。ナニ?我輩を本気で倒そうとでも?」

「相当余裕だな魔物。私が力を取り戻していないと分かって勝鬨の豪傑笑いでもしたかったのか?生憎私も勝てると断言できる。どっちが矛盾するか試すか?」

「この人間、自分の記憶だけじゃなくて強さまで分かっていないみたい‼︎ホーント!魔王様も勇者も消えて我輩こそが魔王に君臨出来ると思った矢先にとんだバカに会えたわ!魔力切れの魔帝王マジックエンペラーとバカで釣り合いは取れなさそうだけど、このグルームの名を人間どもに思い知らせるチャンスだわ‼︎」

人型はあくまで人を欺く仮の姿。本当の姿は異形種と呼べる怪物の姿へと変貌し、本性を暴露する。


ルミナスは私の前に立つ。

「逃げて!」

何度も大丈夫だと言葉を口にしたのに、彼女は頑固として私を逃す事に必死になる。鬱としいと思うが、この肉体カラダは異様な安心感に苛ませる。

「……余計な事をするな。倒せると言った筈だ。2度も3度も言わせる気か?」

もし私が非道な行いに対して罪の意識などなければ、このまま魔物諸共殺すと行動に隙は生じなかった。

この肉体カラダは決して彼女の負傷も死亡も望まない。言うことを利かないのが正しいか。

「もうあなた様は戦わないで。これ以上、その身体に傷付く姿を見たくない…!」

「⁉︎」

彼女が私の事を知っていると探り、自身の記憶を取り戻したいと思った。それは切実で最も重要な事では間違いではない。最優先に私が行うべき事に変わりはない。


何故、憎悪の感情を私に向けたのに庇うのか?


意味が分からない。私は彼女にとってどれほどの価値があるのかさえ見当も付かない。愛されているのか?仇と思われているのか?仲間として慕われていたのか?

考えれば考えるほど彼女に対して複雑な心境に陥るのは無理がない。

記憶のない私を見て喜び、記憶を失ったと聞いて哀しみ、本来のこの肉体カラダの所有者とは違う人格に憤り、この肉体カラダが傷付く事を恐れる。

相当惚れ込まれていたのだと客観的に思う。この肉体カラダはルミナスという女性に心から愛を感じ、愛されていた。両想いの絆で結ばれていた2人を私が意図せずして奪ってしまった。

罪悪感。記憶を失って鮮明に心が痛む己の感情を初めて痛感する。

「お願い…!もう戦わないで。あなた様が死んだら私は……どうすれば良いのか怖いの」

涙するルミナスに感化された訳じゃない。この肉体カラダと私の心が彼女を深く悲しませた罪悪感に己への怒りが全身を伝い昂る。

「死なせないさ。私がお前を命に変えても絶対に生かす!」

肉体カラダと私自身に誓った。


ガチャリという鎖の様な音が心に響く。


私という人間が初めて意思を以て生き物を懲らしめる。

今放てる全ての魔力を剣に集約させる。

恐らく長時間の戦闘は不可能。今持てる魔力を一点に集中させて放てる剣技はたったの一発。外せば魔力のない私はこの悪魔に倒され、ルミナスの命はない。

私が何をするのか理解してくれたのか、ルミナスが前衛に出て詠唱を唱え始める。

「雄大なる心に銘じる。我が怨敵に紅蓮の炎を穿て『ランドムショット』!」

無数の炎が穿たれる。だが、グルームは攻撃に対し嘲笑する。

「何それ?そんな中級魔法でグルーム様を屠れると⁉︎滑稽だな!」

腕の振りで掻き消されてしまう。

「っ!大地よ低俗な蛮族を串刺せ!『スロットニードル』‼︎」

「だから無駄ですわ‼︎」

地面から生える夥しい棘を簡単に避けられてしまう。

「ならっ…‼︎酸の雨よ荒れ降れ‼︎『アシッドレイン』‼︎」

「アッハハハ!何度言ったら分かるの⁉︎中級魔法なんて雑魚専の攻撃なんですの!食らいなさい『ドレインアタック』‼︎」

羽を広げルミナスへ体当たりする。直撃は回避するも、彼女の魔力がかなり削られた。

腕に負傷を負っても尚、俺の前から逃げ出そうとはしない。

「大丈夫…だから。あなた様は集中して!」

それどころか、こんな時間を掛ける私に全てを捧げてくれる。尋常じゃない精神の持ち主だとは思いもしなかった。

普通、己の命を最も尊ぶべきものだ。他人など所詮他人でしかない。私が誰なのか知らないから他人より己が気になるのは仕方がないだろう。

上位の魔物には並大抵の魔法など意味を成さない。魔物の強さを知りつつ、力を一点に集中させ散らない様に目を閉じる。

己の強さは本人が良く知る。だが、私にはその記憶がない。欠けたのか消えたのか存在しないのかも分からない。

けれど、この魔物を倒せる程の力があるのは確実に理解している。その為に溜めなければ倒す事はできない。

豪語はしたものの、私自身に勝機はなかった。消耗した肉体カラダでなければ造作もないと誇らげたが、実際は単なるルミナスを逃したかったという肉体カラダの意思に応えようとしていた。

彼女には生きて貰わなければならない。私の記憶握る者の為にこの剣を振おう。

まもなく力が溜まる。魔物の隙を狙い定めて仕留めるのを静かに待つ。




「もう死になさい!我輩の魔王への礎の為にその命を捧げなさい。もう魔力も切れた筈よ?無駄な抵抗はせず——」

魔物に追い詰められている状況。ルミナスの呼吸が乱れ、魔力が枯渇している状況でも諦めない姿勢を崩さない。

「嫌です!私にはやらなければならない事が沢山あります!家族の為…私が想う方の記憶のために死にたくない‼︎」

「死にたくないだ⁉︎魔帝王マジックエンペラーの癖に死を恐れるかぁ⁉︎アッハハハ!滑稽滑稽っ!実に憐れな人間種族の価値観だねぇ〜⁉︎」

強い志を感じる。対して、魔物は嘲笑ってルミナスの志を踏み躙る。

目を閉じている間、二人の激戦の最中で繰り広げられる会話に意識が逸れる。

倒せる程の魔力を溜め切れたが、妙に気になる内容だった。

「それの何が悪い⁉︎死を恐れる事が滑稽なら罵りなさい‼︎私は……生きなきゃいけない理由がある!魔帝王マジックエンペラーの地位を得たのは私達の悲願を果たす為‼︎魔王を討ち滅ぼし、勇者にならなければ………そう思ったのに、記憶を失った方に協力してまで……うっ!」

激しく吐血する。先程の攻撃を受けて内臓が損傷したのかも知れない。

「バカめ!その出血じゃあ直に死ぬわ。目障り!死なせて差し上げよう‼︎」

巨大な魔力の塊が上空に集約する。この辺りを吹き飛ばす程の魔力玉に空気が揺らぐ。もう剣を放つしかない状況に追い込まれる。


開眼し、一気に魔力を解き放つ。


だが、ルミナスが制止の手を挙げる。

「…何故だ?お前が死ぬぞ?」

「死にたくない…。だから、圧倒的に…殺せるだけ溜めて。まだ、私はあなた様に伝えないと……」

どうやら私に伝えたい事があるらしい。記憶を呼び起こすきっかけでも与えてくれるのだろうかと期待してしまう。

もう立てないのに無理をする。そこまでしてルミナスは私に何を伝えようとするのか。

「あなた様は記憶を失った理由……私が知っています。ただ、今のあなた様には伝えたところで何も意味を持たない。見捨てれば良いものを、他人と変わらない私を助けようと奮闘してくれる。その訳を知りたい」

そんな答えか。愚問に過ぎない。

「……お前から私の全てを聞き出す。それが、今助ける理由だ」

全ての答えを纏める。ルミナスは朗らかに笑う。

「そんな……狡いですよ」

血に濡れた顔から涙が伝う。

この場で思うのは可笑しな話だが、その笑顔が綺麗だと見惚れた。




怒りと共に私の一撃の流れが完成する。

「魔王の座を欲するグルームよ。我が邪剣の威力とその攻撃、どっちが上か試そうか?」

「はっ?そんな斬れもしない古い剣で何が出来る?我輩の心核を砕けやしない剣如きにこの攻撃を防ぐ事は出来るはずがない‼︎記憶を失った人間など——」

挑発してみたが、やはり相手は小童な奴だった。所詮、私の初戦に不十分な相手だったことを証明する。

今ある魔力の全てを解き放ち、一気に距離を詰める。

「良いだろう。私が加減を知らない事を恨むなよ?」

肉体カラダが憶えている技。私にとって馴染みのない剣技の乱舞が炸裂。

剣の軌道は肉体カラダが導くままに。怒りを乗せたたった一連の技として放った攻撃は恐ろしい威力を秘めている。

「『ウェイクアルカナム』」

全身を使い、剣で肉体を叩き殴り、渾身の一撃としてグルームの心核ごと破壊する。

「ゴハァッ‼︎——キッ…サマァ…は」

「言っただろ?手加減は出来ないとな。消えろ魔物。私のルミナスに傷を負わせた業を背負って消滅してくれ」

ついでに奴の頭蓋を力いっぱい振るい、原型もなく喋れない様にしてやった。

魔物は心核を失うと消滅する。文字通り、グルームは心核を失った途端に存在そのものが霧のように消える。

他愛もない。勝ち誇った瞬間、私の意識は途絶える。




垂直落下で落ちる彼をルミナスが捕まえる。

「『バインド』!……良かった。頭から落ちなくて」

ホッと安堵に浸る。しかし、その表情は一瞬で険悪に変わる。

遠くから近付いてくる気配がする。

夥しい馬を引き連れた騎士団が到着し、剣や杖でルミナス達を取り囲む。

「何者だ‼︎ギルドに登録された個体名グルームを討伐したのは貴様らか⁉︎」

「答えろ女!何処の所属の人間だ?いや!その男は⁉︎」

騎士団がルミナスが抱える彼を見て全員が戦慄する。

その場で魔法陣が展開され、二人はその陣内に拘束される。

「魔物の魔力が感知された!その白髪は魔族の証だ‼︎何故人間が魔物に加担する⁉︎答えろ‼︎」

逃げ場を断ち、ルミナス達を魔法と武器で脅す。

彼女の表情は複雑な感情が入り混じっており、騎士団を睨むしか出来ない。

「この人は……私の恋人です」

そう答え、放そうとはしない。

彼女には彼を庇う理由が隠されている。

しかし、そんな答えをこの場の者は望んでなどいない。

「どうでも良いな。そんな戯言を鵜呑みにするわけがないだろ?王都にて貴様らの処分を下す!抵抗はするな、抵抗すれば魔族の男共々死ぬことになるぞ?」

ルミナスは抵抗を止め、瞳から涙を流す。

「大丈夫よ。絶対に……私が死なせないからね」

命乞いとばかりに縮み込み、抵抗もなく王都へ連行される。


だが、涙が伝う彼女の口元がほくそ笑んでいた事に誰も気付かなかった。

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