第1章
ミサキは森の中を走り、逃げる。
激しく息切れする。しかし、足を止めない。止めることは許されない。
つらい。苦しい。
どこに行けばいいかも分からない。
せっかく逃がしてもらったのに。
しばらく走ると、森のなかに小さな小屋を見つけた。
「あそこに入ろう。」
ミサキは小屋に入った。
5分ほど休むと、何かの足音が聞こえてきた。
戸を少し開き、外を覗く。
鎧を着た人間が見えた。
「勇者だァーーーー!?」
ミサキは心の中で叫んだ。
しかし、そのせいでバレてしまったのか、
勇者が、小さな声で
「誰かいるな…。」
と、呟いた。
ミサキは泣き出しそうだった。
しばらくし、勇者の姿が見えなくなる。
一刻も早くここから逃げるため、外に出ることにした。そのとき、後ろからの視線を感じる。ミサキは恐る恐る振り向いた。
勇者だ。
背後で勇者が、不気味な笑みをうかべていた。
「みーつけた…」
ミサキは思わず
「そんな急に来られても困るんですけどぉ!?」
と叫んだ。
人は追い詰められたときにこそ本性が出るものだ。
しかし、勇者は剣を振り上げる。
ミサキは咄嗟に目をつぶる。
そのとき、赤い人影がよぎる。
そこには、人の姿をした魔物がいた。
ほとんど人間と見分けがつかないが、その魔物には角や尾がある。
(そして瞳は赤と青のオッドアイ。
身長は180センチ以上。
さらに、イケメンだ。
まさに、作者のなりたい姿である。
あーいいなぁー。)
そして、その魔物は炎を放つ。
勇者は思わず身を引っ込める。
「ミサキに手を出すな!」
その魔物は言う。
勇者は、
「無理だ。これが俺の仕事だからな。」
と反論する。
「なら仕方ないなぁ…」
魔物はさらに火力を強める。
「ここで殺す。」
「こちらの台詞だ。」ピリピリした空気の中、
ミサキが泣きながら、
「あの…僕、逃げてもいい?」
と問いかける。
2人は、
「はあ?」
と、声を揃える。
しかし、答えを聞く間もなく、ミサキは飛び出した。
「あっ、おい!」
あわてて魔物が呼び止めるが、ミサキは逃げてしまった。
「逃げ足だけは無駄に速いな…。」
戦う理由が無くなってしまった2人は、
「えーっと…どうする?」
「あー…どうしよっか?」
そんなやり取りをする。
「まあ今回は見逃してやる。覚えておけよ。」
本来なら倒しておくべきだったのに、なぜか勇者は帰ってしまった。
「………まあいいか。」
魔物はミサキを追いかける。
その頃、ミサキは森をぬけ、謎の平原へと出た。
しかし、相変わらずどこへ行くべきか分からない。
そんなときに、先ほどの魔物が現れた。
「おまえ勝手に離れてんじゃねえよ!」
彼はミサキに言う。
いまさらだが、彼の名は「ジェダ」。
竜の魔物であり、ミサキの執事(というか側近)である。
魔王が指名した、ミサキの護衛だ。
「ねえジェダ、国は…どうなったの?」
ジェダは、何かをためらう素振りを見せる。
「隠さないでよ!キミ僕の家臣だろ!」
ミサキは少し怒ったような表情を見せる。
「ったく、しょうがねぇなぁ。いいか、一回しか言わねぇからな。」
「うん、わかった。」
「まずは国についてたが、勇者に滅ぼされたよ。」
「あの一瞬で!?」
「ああ。そして、魔王様も亡くなった。」
「!?」
ミサキは、一瞬驚いたような表情を浮かべたが、
なぜかとても冷静だった。きっと心の中で覚悟は出来ていたのだろう。
「だったら、なおさら生き延びないとな…。
ジェダ、僕はどうしたらいい?」
(こいつ、案外ちゃんとしてるじゃねぇか。これなら心配ねぇ。)
ジェダは、
「まずは人間になりきるんだ。」
と言い、懐から人間の服を取り出す。
なぜ服を持っていたかは不明だが。
サイズは少し大きい。
だが、服もボロボロだったため、しぶしぶ着替えることにした。
ミサキは自分の角と尾を隠し、人間に姿を近づける。しかし、やはり少しは違和感があった。
「まあいいや…。で、次は何をしたらいいの?」
その問いに、ジェダは答える
「いいか、落ち着いて聞けよ。これから…人間の町に潜伏する。」
「はあァーーーーーーーー!?!?!?」
予想外の言葉に、ミサキは思わず取り乱す。
「あー大丈夫大丈夫。心配すんなって。」
(信用できるかよ)とミサキは心の中で呟く。
「灯台もと暗しという言葉があってだな、近くにある物ほど見つけづらいのさ。おっさんの眼鏡とか。」
「いやいや、そんな人見たこと無いんだけど。」
「………俺もだ。」
「やっぱりそうじゃんか。」
「まあでもバレないっしょ。」
「ほんとに大丈夫なの…?」
「ああ、なんとかなるさ。何かあったら俺が全部燃やしてやるから。」
それを聞いたミサキは、余計に不安になった。
一番近くの町にむかってしばらく歩くと、人間の少女が一人、たたずんでいた。
「なるべく人間との接触は避けた方がいい。ほっとけ。」
しかし、そんなジェダの忠告を無視し、人間の少女に話しかける。
「キミ、どうしたんだい?」
(やっぱり、あいつならこうするよな)
「お父さんもお母さんも、弟もポチも、おじさんも、みんな死んじゃったの。だから私はひとりぼっちなの。」
「そう………じゃぁキミは何をしてるの?」
「家も町も無くなっちゃったから、住む場所がなくて困ってたの。」
「そうなんだ……それはつらかったね。
……実は僕も、住んでた国が無くなっちゃったんだ。しかも、お父さんもいない。だから帰る場所がないんだ。」
辺りに重い空気が流れる。そんな中、ジェダが、
「おまえら暗い話してんじゃねぇよ。別にお前らが死ぬ訳じゃねぇし、若いからまだどうにでもなるだろ?というかミサキもあのタイミングで変な話すんなよ。だからモテないんだ。ああいう時は励ましてやるもんだぜ?」
「だって、僕だってつらかったんだもん。たがらつい言ってしまったんだ。」
「やれやれ、これだから子供は…。そう気を落とすなって、俺がいるだろ?」
少女が呟く。
「あなたはいいよね。一緒に居てくれる人が居て。私は……一人ぼっち。」
「………じゃぁ一緒にくるか?」
「ちょっとジェダ!?人間を連れていくの!?」
ミサキが小声でジェダに問いかける。しかしジェダは、
「おまえが話しかけたからだろうが!そのくせにどうこう言ってんじゃねぇ!それに、こいつに媚売っといた方が後々便利だろ?」
「まぁそうだけど…。」
少女の方に目を向ける。少女は目を輝かせ、こちらを見つめている。
(断りづらいなぁ…。)
「わかったよ。」
「ふっ、お前ならそう言うと思ったぜ。」
ミサキは少女のもとに駆け寄る。
「一緒に行こう。」
「うん。ありがとう。」
「ところでキミ、名前は?」
「アイっていうの。よろしく。」
「わかった、よろしくね、アイ。」
そんな様子を見て、ジェダは微笑む。
(くっくっくっ、若いねぇ。)
「なに笑ってんだよ、ジェダ。」
「なんでもねぇよ。」
(まぁこれでとりあえず、第一段階は完了だな。)
「ジェダ?早くこいよ」
「あぁ、わかってるさ。」
こうして、彼らは人間を仲間に加え、旅路に戻るのであった。
「って、ちょっと待てよ?なぁアイちゃん。君が住んでた町ってさぁ、何て名前なの?」
「……ラジェールの町っていうところ。」
「ラジェールの町って、ここから一番近いところだよね。ジェダ、まさかそこじゃないよね?」
「………え?」
ジェダは全身汗まみれだった。
「まさか…嘘でしょ?」
「………てへッ☆!」
「これからどうすんだよォーー!?」
続く。
捕捉
魔族は、魔法という特殊な力が使える。(すでに気付いている物もいるかもしれないが)
ちなみに、人間には使うことは出来ない。
魔物の服は、人間の服とは違い、尾や翼を出すための穴が空いている。なので、そのままでは気付かれる可能性がある。




