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07

 



 昨日と同じくまったく眠れなかった私は目の下に隈をこさえて今日も植物の世話に勤しむ。


 凄く眠たい。けれど、頭の中で昨日の光景がずっとぐるぐる回っていまだに整理がつかないでいた。


 先生はあの後眠ったのかな、昼に一応様子を見に行った方がいいかな……いや、でも……


「おやおや、そんな大きな隈を作って……悪い子ですねえ」

「!!!」


 声がして観察していた植物から顔を上にあげると先生が目の前に立っていた。


 なんでこういう時に限ってこの人は早起きなのか。太陽が出てるうちは外を歩くのも好きではないのに何で今日に限って普通に出てくるのか。


「せ、先生に言われたとおりにベッドに入って目を閉じました」


 言う事は聞いた。眠れなかっただけで。だから先生が言うような悪い子ではありません。そう心の中で言い訳していると先生が目線を合わせるために腰をまげて顔を覗き込んできた。


「なるほど、ならおバカだったということですかねえ、折角今まで大事に大事にしていたというのに」



「あんなに私を誘惑して」



 ……これは昨日先生を揶揄った事への意趣返しだろうか。誘惑だなんて、そんなつもりは。「ち、ちが」とパニックになって言葉を紡げず涙目になって先生に弁解しようとすると「やりすぎましたか」と先生は私から離れた。


「嘘ですよ、あなたを責める気なんてありません」

「……先生」


「ありがとう、ノラさん助かりました」


 そういって笑った先生に今度こそ涙がこぼれそうになるのを耐えて頷く事で返事を返した。


 私のほうこそ、我儘聞いてくれてありがとう、先生。



「先生もう大丈夫なんですか?あの血の量で足りたんですか?」

「ええ、ほとんど収まっていたので、もう問題はありませんよ」


「……じゃあ今日はいらない?」


「……」


 私の言葉に先生は絶句した。だって、そんなに痛くなかったし。先生はあれが最初で最後だって思ったのかもしれないけど、別に吸血衝動なんて起きていなくてもあげられる。


 あ、でも待ってやっぱり駄目かもしれない。痛くはなかったけど毎回あんな風にされたら私の心臓が持たない。先生に感謝されてまた調子に乗って昨日の出来事の一部が吹き飛んでしまっていた。

 どう言えば伝わるのか、もっとこう、普通に飲めないものかと聞いてみればいいかな……。


 そんな悶々と考え事をしている私の頬を先生の手が滑り顔を強制的に先生の方へ向かせた。



「さっきの意地悪はやりすぎではなかったようですね? ノラさん」

「う……」


 まずい、まずいまずいまずいまずい。何で、さっきまで普通だったのに急に先生は雰囲気を変えるの!?何で今まで見せた事にない顔を見せるの。私が変になってしまう。


 固まって思考の海に身を投げた私に先生がため息を漏らした。


「吸血鬼に血を与えるという行動がどういう意味があるのかきちんと教えておくべきでしたね」

「え……」

「いいでしょう、どの道きちんと話し合わなければいけない事はわかっていましたから」


 吸血鬼に血を与えることの意味?どんな意味があるんだろう。先生の私に対する扱いが変わった意味がそこに?それに話し合い?


「隠し事が多かったと反省しているんですよ、あなたも色々と察しているでしょうに、私があなたのことを考えられていなかった」


 ……これはつまり、先生は隠していたことを私に話してくれるって事?私が不安を伝えたから?ずっと悩んでいた事がすんなり解決しそうな事にあっけに取られる。


「全ての開示はできません、あなたが思っている以上にくだらないものもあれば、ショックを受けるものもあると思います」

「それでも聞く覚悟はありますか?」


「もちろんです!」


 答えはすぐに出た。その隠し事の中には私の過去、私が何故、誰に、捨てられたのか。外で何が起きているのか。何と何が戦争しているのか。この場所に二人で引きこもっている理由、私を外に出さない理由。


 先生の隠し事は今あげた以上に沢山あって、教えてくれない事はきっと私のために隠してくれている、んだと思う。

 先生がいるなら、怖くない。でも先生の考えている事が何もわからなくて捨てられると被害妄想に走って先生を困らせる事の方が駄目だ。

 だから先生が話してくれるというのならちゃんと聞きたいと思った。


「ちょっと待っててください!あと玄関の植物の管理が終わったら手が空きますから」


「え、ああ、ちょっと待ちなさいノラさん」

「何ですか?」


 すぐに走り出そうとした私の頭を先生が抑えるようにして止める。早く聞きたい!と少し興奮している私に先生は「今日は話し合いはしません」と口にして「どうして!?」と思わずつっかかる。


「あなた明らかに徹夜明けのテンションですよ、そんな状態では話せません」

「ちゃ、ちゃんと聞きますよ」

「どうですかね、途中でうたた寝して聞いてませんでしたってならなきゃいいですけど」

「う……」


 最近寝落ちする事が多いため言い返せなかった。しかも見るのは大抵悪夢だ。……あ、そうだ悪夢といえば先生に相談しようと思っていたんだった。


「あの、先生話を変えて申し訳ないのですが、相談があった事を思い出しました」


「相談?」


 私は悪夢の事を先生に話した。白い雪の世界の話と赤い世界で身体がドロドロになった話。後者は一度しか見ていないけど、気になったから一応。

 先生はうーん……と少し思考する。流石に先生もわからないだろうか。しかし先生は「いえ夢の意味はわかるのですが……」とどうにも言いずらそうだ。


「白い世界はあなたの失った記憶に深く関わる事です。あなたも思う事はあるのでしょう?」

「……はい」

「よろしい、赤い世界についても……今は話せません、二つともさっき私が言った隠し事に密接に関わっている事だからです」


「逆に言えば二つともあなたが不快に思う以外は害はないです、それこそ私の話を聞けば見なくなると思いますし」


 それならよかった、と安堵する。何か害があるかもとまで考えてなかったがずっと続くかもと思っただけで不安だったから。せっかく先生が夜に私の部屋に訪ねてこなくてよくなったのに、また眠れない私に気をつかぅて先生が気に掛けるところだった。


「やっぱり今日話してもらうことはできませんか?」


「やっぱり怖い?」


 怖いというか、先生の話を聞いたら見なくなるのならそれがいい。だって見て嫌な気持ちになって眠れなくなったら絶対に先生は気が付いてやってくる。


「これが終わったら一度眠ったらどうですか?まじないをかけてあげますよよく眠れるようにね」

「夢を見ないようにできるってことですか?」

「いえ、眠ると夢は見ますよ。大抵覚えているかいないかってだけで」

「ええ……」


「だからまじないで怖い夢を見ないようにしてあげます」


 ……私が不安になって眠れなかったとき、先生が来るとすぐに眠れていたけどもしかして魔法をかけられていたのだろうか。

 もしかして先生って私に結構魔法かけてたりする?


「う~ん……どの道この後寝るのはやめておきます、生活リズムを崩して植物のお世話できなくなるの嫌ですから」


「別に少しくらい休んだって構わないでしょうに」とぼやく先生に「よくないですよ」と返す。

 もうどれだけ説得しても今日は話してくれないだろう。


「……今日ちゃんと寝たら明日には話してくれますか?」

「ええ、もちろんです」


「なら今日は大人しく寝ます、夜になったら眠る前におまじないお願いしてもいいですか?」


「ええ、もちろん……怖いなら一緒に寝てあげましょうか?」

「け、結構です!!」


 私が過剰に反応を返すと先生はいかにも愉快だという風に笑って「じゃあ先に戻ってますね」と屋敷に帰っていった。

 ……遊ばれてる!なんなの本当に!!!




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