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6.くじけるつもりはない

 翌日からメルクリールは、レオニスから、また時にバーナードに学び、一生懸命『当主の側仕え』としての仕事を覚えていった。与えられたのは、住み込み使用人の部屋が並ぶ屋根裏の一角。もちろんバーナードの部屋よりも更に狭いが、木製のベッドに椅子まであって、メルクリールには十分すぎるほど十分だった。


 朝一番にレオニスの部屋を訪ね、今日の仕事を確認する。起床や身繕いの手伝いはバーナードの役目だ。

 仕事量は日によってまちまちで、レオニスが在宅の日は当然忙しい。外出する日はバーナードが付き従うため、メルクリールは屋敷に残ることになる。もう少し仕事に慣れたら、外出にも同行するように、と言われている。


 レオニスが外出中は、彼の私室の掃除をしたり、もしくはリス獣人のメイド長に従って割り振られた仕事をこなす。メイド長は、それこそシスターたちと同じ年代の落ち着いた女性で、メルクリールにも公平に接してくれた。


 だがここでもメルクリールは、レオニスが『稀代の色男』と呼ばれる所以を知ることとなる。

 洗濯室に顔を出したメルクリールは、メイド長に頼まれた洗濯物の籠を抱えたまま、洗濯係のメイドに尋ねた。


「この洗濯物はどちらに置かせてもらったら?」

「……」


 まだ年若い、アライグマ獣人の彼女は、何も聞こえなかったかのように、ぷいっとそっぽを向いた。


「えっと……すみません、これは、ここに置かせてもらっても?」


 仕方なくもう一人のアナグマ獣人のメイドに尋ねると、彼女もこれまただんまりを決め込む。


(困ったなぁ……でも綺麗に仕上がっているものだし、洗濯室の隅に置かせてもらったらいいか……)


 仕方なく籠を置いて退室しようとすれば、背後でくすっと嘲笑う笑い声がした。


『見て、あの貧相な身体……風でも吹けば折れてしまいそう』

『あれで側仕え? レオニス様も、ずいぶんお優しいこと』


 ぎり、と歯ぎしりの音が混じる。


『本当にね……。よりにもよって“人間”ですって』

『珍しさに惹かれただけでしょ。物好きにもほどがあるわ――まあ、他の匂いもすることだし、レオニス様が手をつけているわけではなさそうね』

『レオニス様があんな小娘を相手にするわけないじゃない』


 そこで彼女たちの口調が少しだけトーンダウンした。


(他の匂い……、あ、ザイードの袋のおかげだ……!)


 今まで誰ひとり側に置かなかったレオニスが選んだのが、『人間』のメルクリールであることが彼女たちには、どうしても面白くないのだろう。それに獣人は基本的にあけすけな言動をする者が多い。

 彼女はそのまま何事もなかったかのように、洗濯室を足早に退出した。

 胸は痛かったが、へこたれている場合ではない。


(確かに、まだ仕事も半人前だし……でも絶対に、プロフェッショナルメイドになって、あの人たちにも認めさせてやるんだから!!!)


 改めて心に誓って、ぐぐっと瞼に滲んだ涙を拭いた。

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