閑話 sideレオニス
二人が退室した後の、レオニスの執務室で、低くて艶のある声が響く。
「いけない……、思わず引き寄せたくなった――それでは怖がらせてしまうな」
レオニスは、ほおっと息をつく。
先程まで目の前に立っていた彼女を思い返す。
初めて間近で見たメルクリールは、とてもかわいらしかった。
肉感的な女性が良しとされる獣人の世界では、持て囃されるタイプではないかもしれない。
だが。
ほっそりとした体躯ながらも、普段からきびきびと動いているのが見て取れる、しなやかな体つき。
決して派手ではないが、整った顔立ち。
零れ落ちそうなくらい大きなエメラルドの瞳に、すっと通った鼻筋、それからまるで口紅を塗ったかのような桃色の唇。
生き生きとした表情に、はっきりとした受け答え。レオニスが獅子公爵だと知っても、媚びるような態度は一切見せなかったのもまた好ましかった。
とにかく彼女を安心させたくて、自分から微笑んでしまった。バーナードを驚愕させるくらいには、普段の自分とは全く違う行動をしてしまう。
けれど、彼女を一目見た時から、惹きつけられるばかりだ。
(どうしてこんなに惹かれるのか……今まで誰にもこんな思いを抱いたことがないのに)
養護院の視察の時からそうだった。
(『人間』だから番であるはずはないのに――)
だがレオニスは自分の直感を信じて、彼女を雇うことに決めた――それも、自分の側仕えとして。
『人間』だから発情期がないだろうなどというのはただの建前だ。もし彼女が獣人だったとしても側に置くつもりだった。彼女を逃してしまうと、後悔する。そんな予感がレオニスにはあった。
しかしそこで、残った香りに気づいて、容赦なく顔を顰めた。
「くそ、水牛の匂いがする……。あの男か」
養護院で、彼女の隣に立っていた男の姿を思い出して、レオニスは行儀悪く舌打ちをした。




