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5.プロフェッショナルメイドに、私はなる……!

バーナードに続いて、レオニスの執務室に向かう間に、メルクリールは決心していた。


(抜擢されたんだから……、やるしかないよね!? やってやろうじゃないの!!!! なってやろうじゃないの、プロフェッショナル使用人(メイド)ってやつに!!!!)


 最初は怯んでいたものの、レオニス本人が決めたというのなら、受けて立つしかない。


(別に失うものもないもの。やれるだけやって、めちゃくちゃ経験を積んで、凄腕側使えになってやろうじゃないの! レオニス様の側仕えだったっていう経歴があれば、もし状況が変わって解雇されたとしても、次の仕事も楽に見つかるだろうし……、そうよ、そうに決まってる!)


 メルクリールは現実的な(タチ)だった。

 まだ世慣れてはいないものの、自分の置かれた状況を客観的に判断できるくらいの冷静さは持っている。ぐっと服の上から、生まれてからずっとつけているネックレスを握りしめる。


(できるわ、私……!)


 意気込みを胸に、レオニスの執務室へと足を踏み入れた。


「レオニス様、メルクリールを連れてきました」

「ああ、ご苦労」

 

 広々とした執務室の奥、立派な執務机の向こうから、男性が颯爽と立ち上がった。


「君がメルクリールか」


 低く艶のある声が響く。

 こつこつと革靴の音を立てながら歩いてきた彼は―――間違いない、養護院の廊下ですれ違った彼だと確信を持つ。何しろ、かぐわしい薔薇の香りが同じ。そして、がっしりとした体つき。他に類がないほどの、存在感。


 あの日と違うのは、彼の顔があらわになっていること。


 濃い金色の髪は短く整えられ、背後の窓から差し込む光で、きらきらと輝く。獅子の耳は思っていたよりも立派だった。切れ長の瞳は金褐色で、視線を向けられるだけで、背筋が自然と伸びてしまうような鋭さを秘めている。鼻筋は高く、口元は引き締まっている。

 捕食者としての野性味あふれる、精悍な佇まいだった。


 近くに寄れば、とてつもなく大柄で、肩幅が広い。身体にぴったりとした黒いシャツを着ているせいで、鍛え抜かれた筋肉が隠しきれていない。本能的に一歩下がりたくなる。それくらいの威圧感だ。


(せ、背が高すぎる……! ザイードと同じくらい……?)


 今まで獅子獣人に会ったことはなく、身近な獣人たちで一番大柄だったのはザイードだった。とはいえザイードは幼馴染みだから、彼から圧を感じたことはないのだけれど。

 

「メルクリール?」


 そこでバーナードに名前を呼ばれ、メルクリールは我に返る。

 

(いけない、私ったら……!)


 先程、プロフェッショナル使用人になると心に決めたばかりだというのに、主人を見上げてぼんやりするとは言語道断。慌ててメルクリールは養護院で習った正式な礼をするべく、腰を曲げた。


「メルクリールです……!」


 すると、ふっと笑い声が降ってきた。


「ああ、来てくれてありがとう」


 優しい声音に誘われて顔をあげると、レオニスが微笑んでいた。


「よろしく」

「はい……っ!」

「早速だが、今日はバーナードについて、邸内について学んでくれ。明日は朝から私の部屋に来てくれるかな? とはいえ明日もバーナードについて……、おい、バーナード?」


 そこでレオニスが怪訝そうな声でバーナードを呼ぶ。メルクリールが視線を向けると、執事はびしりと固まっていた。


「あ、すみ、すみません、いやぁ、そんな顔をされるんだって思って……」

「何を言ってる。いいから、メルクリールの世話を頼む。明日からしばらくお前がメルクリールに私の側使えとしての仕事を教えろ」


 レオニスが目を細めると、バーナードがぎこちなく背筋を伸ばす。


「か、かしこまり、ましたっ! じゃあ、メルクリール、行きましょうか!」

「は、はい……!」

 

 (……?)


 内心首を傾げながら、レオニスに頭を下げてからバーナードに続く。

 すると。


「メルクリール」

「はい」


 背後から名前を呼ばれて振り返る。

 すると、執務机に寄りかかったレオニスがこちらを見つめていた。


「明日からよろしくな」


 そして再びにっこりと彼が微笑んだので、メルクリールもおずおずと微笑み返した。背後で『ぎゃあ』と押し殺した声でバーナードが呻いていた。


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